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フィリア編(1)
ずいぶん変なヒトだよ
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なぜなら、依頼人はものすごく気まぐれな人だったからだ。
そして、行商人にしては珍しく、【転移】の魔法が使えた。
さらに――これが最も深刻なことなのだが――行商人は救いようがないくらいの方向音痴だった。
致命的なほどに……と注釈をつけなければならないくらい、とてつもなく方向音痴だった。
地図はよめない、方角もわからない、獣道が途切れても全く気にしない……どういう根拠があって、この道を進んでいるのかすらもわからない。
いや、これが本当に道なのかどうかもわからない道を、行商人はためらうことなくがんがん進んでいく。
そもそも依頼人はどういう考えで行く先を選んでいるのかも謎で、つかみどころのない人だった。
もしかしたら、なにも考えずに行動しているのかもしれない。
孤児院にも考えるよりも先に身体が動く……という困ったヤツは何人かいた。
ふたりがそう思ってしまうほど、行商人が選ぶルートと行き先は非効率的で、頭を抱えたくなるくらいメチャクチャだった。
行商人が【転移】の魔法を使えたから遭難せずにすんだ。いや、【転移】の魔法が使えるから、行商人は慎重さを欠き、無茶な行動をとるのかもしれない。
そんな破天荒な人物であっても、行商人として商いがちゃんと成立しているのだから、世の中とはつくづく理不尽で不思議なものである。
護衛自体が初めてで、行商人がどのような職業なのか全く意識していなかったフィリアとギルだったが、たった数日間、行商人と行動を共にした時点で「この依頼人は変だ」とふたりは結論づけた。
自分たちが特殊で奇妙な依頼に巻き込まれたと同時に悟ったが、商人の護衛自体は身の丈にあった内容だったのが、さらにフィリアたちを困惑させた。
依頼内容には誤りはない。
依頼人がとんでもない方向音痴だという注釈がなかったことを指摘するくらいはできるだろうが、本人がわざと隠匿したのではなく、本人に自覚がないのだから、なかなかに難しい。
冒険者側から依頼をキャンセルすることも可能だが、依頼内容に誤りがない場合はキャンセル料が必要で、ペナルティも発生する。
キャンセル料もペナルティも、孤児院出身の駆け出し冒険者には厳しく、まだ若くて経験の足りない少年たちは、大人と交渉する知恵も弁も持ち合わせていなかった。
冒険者ギルドが、初級冒険者の訴えをまともに聞いてくれるとは思えない。
それに、途中で依頼を放り投げるというのは、フィリアのプライドが許さなかった。
そんなことをすれば「やっぱり、孤児院出身の冒険者は仕事がいい加減だ」とか言われかねない。
それだけは嫌だった。
この先、どうするのか、どうしたらよいのか、ふたりは依頼人のいない場所でこっそりと話し合った。
確か、そのときも、ようやくたどり着いた辺境の村の一軒しかない宿屋の屋根の上だった。
そのときのやりとりは、フィリアもギルも覚えている。
「フィリアのいうとおり、なんか、少し変な依頼人だな……」
「ギル……少しじゃないよ。ずいぶん変なヒトだよ」
「まあ、あれほど方向音痴なヒトはいないよな」
ギルがコクコクと頷く。
変なのは方向音痴だけではないのだが、二年前のフィリアには、まだ自分が感じたコトを言葉として説明する術を得ていなかった。
「信じてついていったらひどい目にあっちゃったし、これからもそういうことがあるってことだよ?」
「う――ん。あんなことがしょっちゅうあるっていうのは、ちょっと嫌だなぁ……」
「ちょっとで済めばいいんだけどね。とにかく、あの行商人は変なヒトなんだよ。その変なヒトの変な依頼を受け続けてもいいと、ギルは思うの?」
フィリアの問いに、ギルは困ったような表情を浮かべる。
「う――んん?」
そして、行商人にしては珍しく、【転移】の魔法が使えた。
さらに――これが最も深刻なことなのだが――行商人は救いようがないくらいの方向音痴だった。
致命的なほどに……と注釈をつけなければならないくらい、とてつもなく方向音痴だった。
地図はよめない、方角もわからない、獣道が途切れても全く気にしない……どういう根拠があって、この道を進んでいるのかすらもわからない。
いや、これが本当に道なのかどうかもわからない道を、行商人はためらうことなくがんがん進んでいく。
そもそも依頼人はどういう考えで行く先を選んでいるのかも謎で、つかみどころのない人だった。
もしかしたら、なにも考えずに行動しているのかもしれない。
孤児院にも考えるよりも先に身体が動く……という困ったヤツは何人かいた。
ふたりがそう思ってしまうほど、行商人が選ぶルートと行き先は非効率的で、頭を抱えたくなるくらいメチャクチャだった。
行商人が【転移】の魔法を使えたから遭難せずにすんだ。いや、【転移】の魔法が使えるから、行商人は慎重さを欠き、無茶な行動をとるのかもしれない。
そんな破天荒な人物であっても、行商人として商いがちゃんと成立しているのだから、世の中とはつくづく理不尽で不思議なものである。
護衛自体が初めてで、行商人がどのような職業なのか全く意識していなかったフィリアとギルだったが、たった数日間、行商人と行動を共にした時点で「この依頼人は変だ」とふたりは結論づけた。
自分たちが特殊で奇妙な依頼に巻き込まれたと同時に悟ったが、商人の護衛自体は身の丈にあった内容だったのが、さらにフィリアたちを困惑させた。
依頼内容には誤りはない。
依頼人がとんでもない方向音痴だという注釈がなかったことを指摘するくらいはできるだろうが、本人がわざと隠匿したのではなく、本人に自覚がないのだから、なかなかに難しい。
冒険者側から依頼をキャンセルすることも可能だが、依頼内容に誤りがない場合はキャンセル料が必要で、ペナルティも発生する。
キャンセル料もペナルティも、孤児院出身の駆け出し冒険者には厳しく、まだ若くて経験の足りない少年たちは、大人と交渉する知恵も弁も持ち合わせていなかった。
冒険者ギルドが、初級冒険者の訴えをまともに聞いてくれるとは思えない。
それに、途中で依頼を放り投げるというのは、フィリアのプライドが許さなかった。
そんなことをすれば「やっぱり、孤児院出身の冒険者は仕事がいい加減だ」とか言われかねない。
それだけは嫌だった。
この先、どうするのか、どうしたらよいのか、ふたりは依頼人のいない場所でこっそりと話し合った。
確か、そのときも、ようやくたどり着いた辺境の村の一軒しかない宿屋の屋根の上だった。
そのときのやりとりは、フィリアもギルも覚えている。
「フィリアのいうとおり、なんか、少し変な依頼人だな……」
「ギル……少しじゃないよ。ずいぶん変なヒトだよ」
「まあ、あれほど方向音痴なヒトはいないよな」
ギルがコクコクと頷く。
変なのは方向音痴だけではないのだが、二年前のフィリアには、まだ自分が感じたコトを言葉として説明する術を得ていなかった。
「信じてついていったらひどい目にあっちゃったし、これからもそういうことがあるってことだよ?」
「う――ん。あんなことがしょっちゅうあるっていうのは、ちょっと嫌だなぁ……」
「ちょっとで済めばいいんだけどね。とにかく、あの行商人は変なヒトなんだよ。その変なヒトの変な依頼を受け続けてもいいと、ギルは思うの?」
フィリアの問いに、ギルは困ったような表情を浮かべる。
「う――んん?」
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