上 下
11 / 222
フィリア編(1)

あっという間の二年だったよね

しおりを挟む
 フィリアはこの衝動を誰にも……幼馴染の相棒にすら相談できずに、悶々とこの数日を過ごしていた。
 ギルにではなく、依頼人に説明したら、なにか状況は変わっていただろうか。

 護衛対象の行商人は、フィリアたちに対して依頼人であると同時に、年長者、若者を導く保護者のような態度で接してくれている。
 だが、それ以外の者に対しては、ときおり驚くほど冷淡な態度をとることがあるのだ。

 金勘定で世の中を渡り歩く商人の一面といえばそれまでなのだが、だからこそ、このことを依頼主に話すのはためらわれた。

 フィリアにとって辛かったのは、この状況が少しも改善されずに、それどころか、日に日に不安が増して、状況は悪化の一途をたどっていることだ。
 ついには、眠ることもできなくなっていた。
 狭いベッドの中で鬱々とするくらいなら、夜風に当たって気を鎮めようと、フィリアは部屋をこっそりと抜け出し、宿屋の屋根に登ることにした。

 フィリアが腰かけている真下は、行商人が滞在用に確保した四人部屋だ。屋根の上に登ったとしても、護衛対象から離れる……ということにはならない……はずだ。

「なぁ……一年? 二年? ……あっという間だったよなぁ」
「……二年?」

 ギルの突然の発言に、フィリアは思わず小首をかしげる。

 今日はよくしゃべるが、本来のギルは無口な少年だった。
 共に生きてきたフィリアに対してだけは言葉数も多いが、主語を省略したり、「うん」とか「ああ」とかしか言わなくなることもある。
 つきあいの長いフィリアであっても、ギルの口数の少なさと、話の内容が唐突に変わるのにはとまどうことがあった。

 今は不安で心がはち切れそうなのに、ギルの言葉が気になって、フィリアは考え込んでしまう。
 いや、ギルととりとめない会話をすることによって、フィリアはこの圧迫から逃れたかったのかもしれない。

 経験の浅い少年冒険者ふたりが、依頼人に振りまわされつづけることこの一年……いや、もうすぐで二年になるのか?

 ということは、帝都を離れて二年になるともいえる。

 そして、ふたりが冒険者になってから、二年が過ぎようとしている……。

「……そうだね。あっという間の二年だったよね……」

 フィリアのしみじみとした返事に、ギルは満足げな笑みを浮かべた。ギルが笑うだけで、闇が払われ、周囲が明るくなったような気がする。

 フィリアとギルが依頼人に出会ったのは、十二歳のときだった。

 ふたりが帝都の冒険者ギルドで冒険者登録をし、幸運にも恵まれて、周囲が驚くくらいの早いペースで見習い冒険者から初級冒険者にランクアップした頃だ。

 初級冒険者になって初めて請けた依頼が、行商人の道中の護衛だった。

 それからあっという間に月日は流れ、フィリアたちは十四歳になり、あと数か月もすれば、十五の誕生月を迎える。

 行商人はゆく先々で商品を売り、仕入れて、違う場所でそれを売る……ということを繰り返し、ひとところに留まることはなかった。

 フィリアとギルはその期間、依頼人と共にフォルティアナ帝国の様々な場所を旅することとなった。

 初級冒険者向けの道中の護衛……とギルドの掲示板に貼ってあったので、きっと、帝都近辺をぐるりと回って戻ってくる仕事なんだろう……と、勝手に解釈して依頼を請けてしまったのだが、振り返ってみると、かなりの移動距離と日数になってしまっていた。

 そのことに驚くばかりだが、フィリアたちはこの状況を存分に楽しみ、様々な冒険を体験することができた。

 ……とまあ、それだけなら、専属護衛のような仕事だった。で片づけることができたのだが、世の中というのはそう簡単なものではないらしい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

おっさん鍛冶屋の異世界探検記

モッチー
ファンタジー
削除予定でしたがそのまま修正もせずに残してリターンズという事でまた少し書かせてもらってます。 2部まで見なかった事にしていただいても… 30超えてもファンタジーの世界に憧れるおっさんが、早速新作のオンラインに登録しようとしていたら事故にあってしまった。 そこで気づいたときにはゲーム世界の鍛冶屋さんに… もともと好きだった物作りに打ち込もうとするおっさんの探検記です ありきたりの英雄譚より裏方のようなお話を目指してます

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

レイブン領の面倒姫

庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。 初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。 私はまだ婚約などしていないのですが、ね。 あなた方、いったい何なんですか? 初投稿です。 ヨロシクお願い致します~。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

処理中です...