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フィリア編(1)
あっという間の二年だったよね
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フィリアはこの衝動を誰にも……幼馴染の相棒にすら相談できずに、悶々とこの数日を過ごしていた。
ギルにではなく、依頼人に説明したら、なにか状況は変わっていただろうか。
護衛対象の行商人は、フィリアたちに対して依頼人であると同時に、年長者、若者を導く保護者のような態度で接してくれている。
だが、それ以外の者に対しては、ときおり驚くほど冷淡な態度をとることがあるのだ。
金勘定で世の中を渡り歩く商人の一面といえばそれまでなのだが、だからこそ、このことを依頼主に話すのはためらわれた。
フィリアにとって辛かったのは、この状況が少しも改善されずに、それどころか、日に日に不安が増して、状況は悪化の一途をたどっていることだ。
ついには、眠ることもできなくなっていた。
狭いベッドの中で鬱々とするくらいなら、夜風に当たって気を鎮めようと、フィリアは部屋をこっそりと抜け出し、宿屋の屋根に登ることにした。
フィリアが腰かけている真下は、行商人が滞在用に確保した四人部屋だ。屋根の上に登ったとしても、護衛対象から離れる……ということにはならない……はずだ。
「なぁ……一年? 二年? ……あっという間だったよなぁ」
「……二年?」
ギルの突然の発言に、フィリアは思わず小首をかしげる。
今日はよくしゃべるが、本来のギルは無口な少年だった。
共に生きてきたフィリアに対してだけは言葉数も多いが、主語を省略したり、「うん」とか「ああ」とかしか言わなくなることもある。
つきあいの長いフィリアであっても、ギルの口数の少なさと、話の内容が唐突に変わるのにはとまどうことがあった。
今は不安で心がはち切れそうなのに、ギルの言葉が気になって、フィリアは考え込んでしまう。
いや、ギルととりとめない会話をすることによって、フィリアはこの圧迫から逃れたかったのかもしれない。
経験の浅い少年冒険者ふたりが、依頼人に振りまわされつづけることこの一年……いや、もうすぐで二年になるのか?
ということは、帝都を離れて二年になるともいえる。
そして、ふたりが冒険者になってから、二年が過ぎようとしている……。
「……そうだね。あっという間の二年だったよね……」
フィリアのしみじみとした返事に、ギルは満足げな笑みを浮かべた。ギルが笑うだけで、闇が払われ、周囲が明るくなったような気がする。
フィリアとギルが依頼人に出会ったのは、十二歳のときだった。
ふたりが帝都の冒険者ギルドで冒険者登録をし、幸運にも恵まれて、周囲が驚くくらいの早いペースで見習い冒険者から初級冒険者にランクアップした頃だ。
初級冒険者になって初めて請けた依頼が、行商人の道中の護衛だった。
それからあっという間に月日は流れ、フィリアたちは十四歳になり、あと数か月もすれば、十五の誕生月を迎える。
行商人はゆく先々で商品を売り、仕入れて、違う場所でそれを売る……ということを繰り返し、ひとところに留まることはなかった。
フィリアとギルはその期間、依頼人と共にフォルティアナ帝国の様々な場所を旅することとなった。
初級冒険者向けの道中の護衛……とギルドの掲示板に貼ってあったので、きっと、帝都近辺をぐるりと回って戻ってくる仕事なんだろう……と、勝手に解釈して依頼を請けてしまったのだが、振り返ってみると、かなりの移動距離と日数になってしまっていた。
そのことに驚くばかりだが、フィリアたちはこの状況を存分に楽しみ、様々な冒険を体験することができた。
……とまあ、それだけなら、専属護衛のような仕事だった。で片づけることができたのだが、世の中というのはそう簡単なものではないらしい。
ギルにではなく、依頼人に説明したら、なにか状況は変わっていただろうか。
護衛対象の行商人は、フィリアたちに対して依頼人であると同時に、年長者、若者を導く保護者のような態度で接してくれている。
だが、それ以外の者に対しては、ときおり驚くほど冷淡な態度をとることがあるのだ。
金勘定で世の中を渡り歩く商人の一面といえばそれまでなのだが、だからこそ、このことを依頼主に話すのはためらわれた。
フィリアにとって辛かったのは、この状況が少しも改善されずに、それどころか、日に日に不安が増して、状況は悪化の一途をたどっていることだ。
ついには、眠ることもできなくなっていた。
狭いベッドの中で鬱々とするくらいなら、夜風に当たって気を鎮めようと、フィリアは部屋をこっそりと抜け出し、宿屋の屋根に登ることにした。
フィリアが腰かけている真下は、行商人が滞在用に確保した四人部屋だ。屋根の上に登ったとしても、護衛対象から離れる……ということにはならない……はずだ。
「なぁ……一年? 二年? ……あっという間だったよなぁ」
「……二年?」
ギルの突然の発言に、フィリアは思わず小首をかしげる。
今日はよくしゃべるが、本来のギルは無口な少年だった。
共に生きてきたフィリアに対してだけは言葉数も多いが、主語を省略したり、「うん」とか「ああ」とかしか言わなくなることもある。
つきあいの長いフィリアであっても、ギルの口数の少なさと、話の内容が唐突に変わるのにはとまどうことがあった。
今は不安で心がはち切れそうなのに、ギルの言葉が気になって、フィリアは考え込んでしまう。
いや、ギルととりとめない会話をすることによって、フィリアはこの圧迫から逃れたかったのかもしれない。
経験の浅い少年冒険者ふたりが、依頼人に振りまわされつづけることこの一年……いや、もうすぐで二年になるのか?
ということは、帝都を離れて二年になるともいえる。
そして、ふたりが冒険者になってから、二年が過ぎようとしている……。
「……そうだね。あっという間の二年だったよね……」
フィリアのしみじみとした返事に、ギルは満足げな笑みを浮かべた。ギルが笑うだけで、闇が払われ、周囲が明るくなったような気がする。
フィリアとギルが依頼人に出会ったのは、十二歳のときだった。
ふたりが帝都の冒険者ギルドで冒険者登録をし、幸運にも恵まれて、周囲が驚くくらいの早いペースで見習い冒険者から初級冒険者にランクアップした頃だ。
初級冒険者になって初めて請けた依頼が、行商人の道中の護衛だった。
それからあっという間に月日は流れ、フィリアたちは十四歳になり、あと数か月もすれば、十五の誕生月を迎える。
行商人はゆく先々で商品を売り、仕入れて、違う場所でそれを売る……ということを繰り返し、ひとところに留まることはなかった。
フィリアとギルはその期間、依頼人と共にフォルティアナ帝国の様々な場所を旅することとなった。
初級冒険者向けの道中の護衛……とギルドの掲示板に貼ってあったので、きっと、帝都近辺をぐるりと回って戻ってくる仕事なんだろう……と、勝手に解釈して依頼を請けてしまったのだが、振り返ってみると、かなりの移動距離と日数になってしまっていた。
そのことに驚くばかりだが、フィリアたちはこの状況を存分に楽しみ、様々な冒険を体験することができた。
……とまあ、それだけなら、専属護衛のような仕事だった。で片づけることができたのだが、世の中というのはそう簡単なものではないらしい。
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