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3章 ストーンボックスの行方はやっぱり誰にもわからない?
3-9 アタタタ
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手入れをしてくれている見習いオークショニアは、すぐにサウンドブロックの異変に気づいてくれた。
端が欠け、木の繊維がむき出しになった『傷口』を、ミナライくんは痛ましげな表情でそっと撫でた。
傷口に素手で触れられ、サウンドブロックは悲鳴をあげる。
木のトゲに指を傷つけたのか、ミナライくんがびっくりしたような表情で手をひっこめ、くしゃりと顔を歪ませる。
被害にあったのは自分の方なのに、なんだか、自分がミナライくんを傷つけたような気がして、サウンドブロックは慌てて黙る。
失敗続きで怒られてばかりいるミナライくんだが、直感はびっくりするくらいとてもいい。もっと自信を持てばいいのに、とサウンドブロックは思っているくらいだ。
感覚が鋭いミナライくんは、サウンドブロックの身になにが起こったのか、すぐに悟ってくれた。
ミナライくんはメンテナンス中のサウンドブロックをテーブルの上にいったん戻すと、オークション会場へと急いで向かう。
ミナライくんはスタッフがいなくなった薄暗いオークション会場の中で、演台やその周辺を探し周り、サウンドブロックの小さな欠片を見つけ出したのである。
普通なら見落として、次の日の掃除でゴミとして箒で集められて、ホコリと一緒に捨てられるような欠片だ。
清掃を担当するスタッフによっては、木片をサウンドブロックの身体の一部と認識できないヤツもいるだろう。
ミナライくんは拾った欠片をハンカチの中に包んでポケットの中にしまうと、部屋に戻って中断していたメンテナンスを再開する。
今日もミナライくんの愚痴は絶好調だった。
傷口には響いたが、サウンドブロックは黙ってそれに耳を傾ける。
回収をあきらめていた木片を、ミナライくんが見つけてくれた恩はちゃんと返さないといけない。
欠けた部分を粉っぽい人工パテや、異質な別の木で埋め込まれるのは、どうも居心地が悪いし、なんとなく音に影響がでるような気がしたからだ。
やっぱり、欠けた部分を補うのは、自分の木がいい。
(ミナライ! オマエはすごいぞ! めちゃくちゃすごいんだぞ! これは、もう、才能だ! 武器なんだ! だから、もっと、もっと、自信をもて……アタタタ。イテ! 傷口は優しくだ! 愚痴もホドホドにだな……イタイ!)
などと、特別にサウンドブロックはミナライくんに声をかける。
ニンゲンに木製品の声など聞こえるはずもない。
だが、サウンドブロックはミナライくんに感謝の気持ちを伝える。
ミナライくんは、サウンドブロックをピカピカに磨き上げ、ガベルが待っている収納箱へと片付ける。
見習いオークショニアはサウンドブロックが『負傷』したことに気づいてくれた。
明日にでも、チュウケンさんに報告し、ベテランさんが手配してくれるだろう。
ザルダーズが懇意にしている修復師はとても優秀だ。
彼らに任せておけば、新品同様に修復してくれる。
よいものを末永く使用する……愛された古きものに価値を与える……を信条にしている歴代のザルダーズオーナーは、定期的にガベルとサウンドブロックを修繕にだしてくれているのだ。
なので、要領はわかっている。
欠けた身体の一部も、幸運なことにミナライくんが見つけてくれて、ちゃんと確保してもらえた。
木彫品を専門にしている修復師であるならば、この程度の欠け補修は、さほど難しくない作業だ。
心配する必要は全くない。
と、サウンドブロックは、痛みを紛らすために己自身に言い聞かせる。
次回のオークションまでにはきちんと修繕され、ベストコンディションでオークションに参加しているだろう。
(サウンドブロック……今日は、いっぱい叩きすぎたけど、本当に、大丈夫? 痛いところはない?)
ガベルが心配そうに身を寄せてくる。
痛いトコロというか、全身が痛んでおり、傷口がどこなのかわからないくらいになっているが、サウンドブロックの心はとても満たされていた。
(これくらい平気だ。むしろ、もっと叩いてほしいくらいだ。……お前が俺のことを心配してくれるなんて珍しいな。めちゃくちゃ感激したぞ)
(な、なんだよ。オレはいつだって……)
ガベルの語尾がだんだんと小さくなり、最後は言葉にもならず、ブツブツと口のなかで呟いているだけだ。
持ち手の部分がぷるぷると震えている。
(と、とりあえずだな! な、なんとか、無事にオークションが、しゅっ、しゅ、終了して……よかったよな)
照れているのを誤魔化そうと必死なガベルに、サウンドブロックは苦笑を浮かべる。
(あの、トンデモナイ『黄金に輝く麗しの女神』様にはまた驚かされたが、ちゃんと品物の取引も終了したそうだぜ)
(そうなの。よかった! なんか、ボクの女神様を汚そうとする薄汚いハイエナの気配がしてたんだけど、ご無事だったんだね! よかった!)
(お、お、おう。そうみたいだな……)
ガベルのとても攻撃的な発言が少し気にはなったが、自分の傷の傷みを誤魔化すのでいっぱいいっぱいなサウンドブロックは適当に受け流す。
端が欠け、木の繊維がむき出しになった『傷口』を、ミナライくんは痛ましげな表情でそっと撫でた。
傷口に素手で触れられ、サウンドブロックは悲鳴をあげる。
木のトゲに指を傷つけたのか、ミナライくんがびっくりしたような表情で手をひっこめ、くしゃりと顔を歪ませる。
被害にあったのは自分の方なのに、なんだか、自分がミナライくんを傷つけたような気がして、サウンドブロックは慌てて黙る。
失敗続きで怒られてばかりいるミナライくんだが、直感はびっくりするくらいとてもいい。もっと自信を持てばいいのに、とサウンドブロックは思っているくらいだ。
感覚が鋭いミナライくんは、サウンドブロックの身になにが起こったのか、すぐに悟ってくれた。
ミナライくんはメンテナンス中のサウンドブロックをテーブルの上にいったん戻すと、オークション会場へと急いで向かう。
ミナライくんはスタッフがいなくなった薄暗いオークション会場の中で、演台やその周辺を探し周り、サウンドブロックの小さな欠片を見つけ出したのである。
普通なら見落として、次の日の掃除でゴミとして箒で集められて、ホコリと一緒に捨てられるような欠片だ。
清掃を担当するスタッフによっては、木片をサウンドブロックの身体の一部と認識できないヤツもいるだろう。
ミナライくんは拾った欠片をハンカチの中に包んでポケットの中にしまうと、部屋に戻って中断していたメンテナンスを再開する。
今日もミナライくんの愚痴は絶好調だった。
傷口には響いたが、サウンドブロックは黙ってそれに耳を傾ける。
回収をあきらめていた木片を、ミナライくんが見つけてくれた恩はちゃんと返さないといけない。
欠けた部分を粉っぽい人工パテや、異質な別の木で埋め込まれるのは、どうも居心地が悪いし、なんとなく音に影響がでるような気がしたからだ。
やっぱり、欠けた部分を補うのは、自分の木がいい。
(ミナライ! オマエはすごいぞ! めちゃくちゃすごいんだぞ! これは、もう、才能だ! 武器なんだ! だから、もっと、もっと、自信をもて……アタタタ。イテ! 傷口は優しくだ! 愚痴もホドホドにだな……イタイ!)
などと、特別にサウンドブロックはミナライくんに声をかける。
ニンゲンに木製品の声など聞こえるはずもない。
だが、サウンドブロックはミナライくんに感謝の気持ちを伝える。
ミナライくんは、サウンドブロックをピカピカに磨き上げ、ガベルが待っている収納箱へと片付ける。
見習いオークショニアはサウンドブロックが『負傷』したことに気づいてくれた。
明日にでも、チュウケンさんに報告し、ベテランさんが手配してくれるだろう。
ザルダーズが懇意にしている修復師はとても優秀だ。
彼らに任せておけば、新品同様に修復してくれる。
よいものを末永く使用する……愛された古きものに価値を与える……を信条にしている歴代のザルダーズオーナーは、定期的にガベルとサウンドブロックを修繕にだしてくれているのだ。
なので、要領はわかっている。
欠けた身体の一部も、幸運なことにミナライくんが見つけてくれて、ちゃんと確保してもらえた。
木彫品を専門にしている修復師であるならば、この程度の欠け補修は、さほど難しくない作業だ。
心配する必要は全くない。
と、サウンドブロックは、痛みを紛らすために己自身に言い聞かせる。
次回のオークションまでにはきちんと修繕され、ベストコンディションでオークションに参加しているだろう。
(サウンドブロック……今日は、いっぱい叩きすぎたけど、本当に、大丈夫? 痛いところはない?)
ガベルが心配そうに身を寄せてくる。
痛いトコロというか、全身が痛んでおり、傷口がどこなのかわからないくらいになっているが、サウンドブロックの心はとても満たされていた。
(これくらい平気だ。むしろ、もっと叩いてほしいくらいだ。……お前が俺のことを心配してくれるなんて珍しいな。めちゃくちゃ感激したぞ)
(な、なんだよ。オレはいつだって……)
ガベルの語尾がだんだんと小さくなり、最後は言葉にもならず、ブツブツと口のなかで呟いているだけだ。
持ち手の部分がぷるぷると震えている。
(と、とりあえずだな! な、なんとか、無事にオークションが、しゅっ、しゅ、終了して……よかったよな)
照れているのを誤魔化そうと必死なガベルに、サウンドブロックは苦笑を浮かべる。
(あの、トンデモナイ『黄金に輝く麗しの女神』様にはまた驚かされたが、ちゃんと品物の取引も終了したそうだぜ)
(そうなの。よかった! なんか、ボクの女神様を汚そうとする薄汚いハイエナの気配がしてたんだけど、ご無事だったんだね! よかった!)
(お、お、おう。そうみたいだな……)
ガベルのとても攻撃的な発言が少し気にはなったが、自分の傷の傷みを誤魔化すのでいっぱいいっぱいなサウンドブロックは適当に受け流す。
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