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3章 ストーンボックスの行方はやっぱり誰にもわからない?
3-8 ズッキンズッキン
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その日の夜中をさらにすぎた時間。
出だしから番狂わせが発生し、最後に大番狂わせが起こったものの、その後はいつも通りの手順でオークションは滞り無く終了した。
〔イテ――っ! イテっ! イテ――ッ! イテテッツ! 痛すぎるぅっ!〕
サウンドブロックは表面上は平静を装いながら、身体を貫くズッキンズッキンとした激痛に耐えていた。
痛みは治まるどころか、時間の経過と共にどんどん強くなっていく。
全身がじんじんと痛んだ。
〔チクショ――! ベテランめっ! あの剛力クッソじじいっ! 思いっきり、叩きやがってっ! 俺を殺す気か?〕
サウンドブロックは心のなかで、ベテランオークショニアを激しく罵っていた。
長い歳月をかけて収集し、学習した語彙力を駆使し、思いつく限りの罵詈雑言を並び立てる。
(ガベル……お疲れさん)
(お疲れさま……サウンドブロック)
収納箱の定位置に落ち着いたガベルとサウンドブロックは互いの仕事を労いあう。
収納箱に先に収まっていたガベルは、後から入ってきたサウンドブロックに、安堵の笑みを向ける。
サウンドブロックの体内が激しく燃えがる。ズッキンズッキンと傷口が痛んで燃えるように熱いのか、ガベルの美しい微笑に興奮して熱くなっているのかよくわからない。
ただ、身体がものすごく痛いのは、まぎらもない事実だった。
いつもよりもメンテナンスに時間がかかった相棒を、ガベルは心配しながら待っていたのだろう。
うっすらと潤みを帯びた視線が、サウンドブロックのハートをダイレクトに射抜く。
とにかくズッキンズッキンとさっきから傷口が痛んで、痛んで、言葉を交わすのも辛いのだが、ガベルに余計な気遣いをさせるわけにはいかない。
〔ちくしょう! こ、こんな痛みに……これくらいの傷みに……負けてたまるか!〕
と、サウンドブロックは己自身を鼓舞する。
(サウンドブロック、今日は本当に疲れたよね)
(そうだな。激務だったな。まさか、こんなに自分たちが活躍するとは思ってもいなかったぜ……)
ガベルの言葉に、サウンドブロックはゆっくりと頷く。ズッキンズッキンと傷が痛むのは必死に隠す。全力で隠し通す。
ぎこちなく頷きながら、激務というよりは、激痛の日だったよな……とサウンドブロックは思う。
いつもよりも2時間遅れでオークションが終了し、その後も興奮しきった参加者たちは隣室のビュッフェ会場で長々と語り合い、なかなか帰路につこうとはしなかった。
話題はもちろん『ストーンボックス』を落札した『黄金に輝く麗しの女神』様と姿を現さなかった『黄金に輝く美青年』様のことだ。
高貴な人々を相手にしている老舗のザルダーズにしてみれば、そのプライドゆえオークション参加者を無下に追い払うこともできず、自然とお開きになるのを待つしかない。
よって、ビュッフェの終了も遅れに遅れてしまったのだ。
ようやく仕事が終わり、身ぎれいになったふたりはニヤリと笑みを交わす。
サウンドブロックの笑みは激痛のためにぎこちなくひきつっていたが、仕事をやり終えた充足感にひたっていたガベルは、相棒の負傷に全く気づいていない。
痛いとサウンドブロックがひとたび口にだせば、優しい相棒は朝まで心配するだろう。
欠けた傷口を見たら、その痛々しい有様に胸を痛めて、ガベルは卒倒するかもしれない。
そして、自分のせいで大事な相棒が負傷してしまったと、己を責め続けるに違いない。
そんなことは絶対にさせない。
サウンドブロックは痛む身体に鞭打って、ガベルとのお休み前の会話に全力を注ぐ。
ガベルとサウンドブロックは、いつものように互いの仕事を労いあった。
メンテナンス後の、お決まりのやりとりだ。
見習いのオークショニアに丁寧に、丁寧に蜜蝋で磨かれ、絹で拭き取られ、自分たちが保管される専用の箱にしまわれたときは、すでに日付が変わっていた。
この充実感。
満足な働きができたことをわかちあえる相棒がいる喜び。
この幸せな瞬間をいつまでも、何度でも味わいたい……とガベルは思う。
口にだして確かめてはいないが、相棒のサウンドブロックもそう思っているにちがいない……とガベルは思う。
叩かれる役の相棒が、激痛を必死に隠し、強がっているなど……ガベルは全く想像もしていなかった。
サウンドブロックは、世界で唯一無二のパートナーだ。
軽口を叩きあうこともあるが、同じ木の同じ枝から切り出され、ひとりの職人の手によって生み出された……いわゆる、ニンゲンでいうところの、兄弟のような間柄だ。互いに尊敬しあい、共に困難を乗り越える仲だ。
今日……いや、もう日付が変わってしまったので昨日の出来事なのだが……互いに協力しあい、なんとかあのグダグダなオークションを終了させることができた。
女神様も大満足に違いない。
自分たちが大活躍する姿を女神様に見ていただくことができた。
その喜びで、ガベルの心はいっぱいに満たされていた。
「あのさ……身体は大丈夫? 傷ついてない? 最後の打撃は悪かったよ……いつもサウンドブロックを傷つけないように……その……気をつけてやっているつもりなんだけど……。今回は……ボクもちょっと、熱くなりすぎちゃった……。ごめん!」
ガベルの謝罪に、サウンドブロックは必死に笑顔を取り繕う。
痛い、痛いなどと泣き言をいっている場合ではない。
己の頑強さを相棒にアピールする絶好のチャンスだ。
サウンドブロックはガベルに気づかれないように、そっと身じろぎする。
ベテランオークショニアが叩き損じたときに、少しだけだが端が欠けてしまったのだ。ガベルに見つからないように、サウンドブロックは身体の位置をずらして傷を隠した。
出だしから番狂わせが発生し、最後に大番狂わせが起こったものの、その後はいつも通りの手順でオークションは滞り無く終了した。
〔イテ――っ! イテっ! イテ――ッ! イテテッツ! 痛すぎるぅっ!〕
サウンドブロックは表面上は平静を装いながら、身体を貫くズッキンズッキンとした激痛に耐えていた。
痛みは治まるどころか、時間の経過と共にどんどん強くなっていく。
全身がじんじんと痛んだ。
〔チクショ――! ベテランめっ! あの剛力クッソじじいっ! 思いっきり、叩きやがってっ! 俺を殺す気か?〕
サウンドブロックは心のなかで、ベテランオークショニアを激しく罵っていた。
長い歳月をかけて収集し、学習した語彙力を駆使し、思いつく限りの罵詈雑言を並び立てる。
(ガベル……お疲れさん)
(お疲れさま……サウンドブロック)
収納箱の定位置に落ち着いたガベルとサウンドブロックは互いの仕事を労いあう。
収納箱に先に収まっていたガベルは、後から入ってきたサウンドブロックに、安堵の笑みを向ける。
サウンドブロックの体内が激しく燃えがる。ズッキンズッキンと傷口が痛んで燃えるように熱いのか、ガベルの美しい微笑に興奮して熱くなっているのかよくわからない。
ただ、身体がものすごく痛いのは、まぎらもない事実だった。
いつもよりもメンテナンスに時間がかかった相棒を、ガベルは心配しながら待っていたのだろう。
うっすらと潤みを帯びた視線が、サウンドブロックのハートをダイレクトに射抜く。
とにかくズッキンズッキンとさっきから傷口が痛んで、痛んで、言葉を交わすのも辛いのだが、ガベルに余計な気遣いをさせるわけにはいかない。
〔ちくしょう! こ、こんな痛みに……これくらいの傷みに……負けてたまるか!〕
と、サウンドブロックは己自身を鼓舞する。
(サウンドブロック、今日は本当に疲れたよね)
(そうだな。激務だったな。まさか、こんなに自分たちが活躍するとは思ってもいなかったぜ……)
ガベルの言葉に、サウンドブロックはゆっくりと頷く。ズッキンズッキンと傷が痛むのは必死に隠す。全力で隠し通す。
ぎこちなく頷きながら、激務というよりは、激痛の日だったよな……とサウンドブロックは思う。
いつもよりも2時間遅れでオークションが終了し、その後も興奮しきった参加者たちは隣室のビュッフェ会場で長々と語り合い、なかなか帰路につこうとはしなかった。
話題はもちろん『ストーンボックス』を落札した『黄金に輝く麗しの女神』様と姿を現さなかった『黄金に輝く美青年』様のことだ。
高貴な人々を相手にしている老舗のザルダーズにしてみれば、そのプライドゆえオークション参加者を無下に追い払うこともできず、自然とお開きになるのを待つしかない。
よって、ビュッフェの終了も遅れに遅れてしまったのだ。
ようやく仕事が終わり、身ぎれいになったふたりはニヤリと笑みを交わす。
サウンドブロックの笑みは激痛のためにぎこちなくひきつっていたが、仕事をやり終えた充足感にひたっていたガベルは、相棒の負傷に全く気づいていない。
痛いとサウンドブロックがひとたび口にだせば、優しい相棒は朝まで心配するだろう。
欠けた傷口を見たら、その痛々しい有様に胸を痛めて、ガベルは卒倒するかもしれない。
そして、自分のせいで大事な相棒が負傷してしまったと、己を責め続けるに違いない。
そんなことは絶対にさせない。
サウンドブロックは痛む身体に鞭打って、ガベルとのお休み前の会話に全力を注ぐ。
ガベルとサウンドブロックは、いつものように互いの仕事を労いあった。
メンテナンス後の、お決まりのやりとりだ。
見習いのオークショニアに丁寧に、丁寧に蜜蝋で磨かれ、絹で拭き取られ、自分たちが保管される専用の箱にしまわれたときは、すでに日付が変わっていた。
この充実感。
満足な働きができたことをわかちあえる相棒がいる喜び。
この幸せな瞬間をいつまでも、何度でも味わいたい……とガベルは思う。
口にだして確かめてはいないが、相棒のサウンドブロックもそう思っているにちがいない……とガベルは思う。
叩かれる役の相棒が、激痛を必死に隠し、強がっているなど……ガベルは全く想像もしていなかった。
サウンドブロックは、世界で唯一無二のパートナーだ。
軽口を叩きあうこともあるが、同じ木の同じ枝から切り出され、ひとりの職人の手によって生み出された……いわゆる、ニンゲンでいうところの、兄弟のような間柄だ。互いに尊敬しあい、共に困難を乗り越える仲だ。
今日……いや、もう日付が変わってしまったので昨日の出来事なのだが……互いに協力しあい、なんとかあのグダグダなオークションを終了させることができた。
女神様も大満足に違いない。
自分たちが大活躍する姿を女神様に見ていただくことができた。
その喜びで、ガベルの心はいっぱいに満たされていた。
「あのさ……身体は大丈夫? 傷ついてない? 最後の打撃は悪かったよ……いつもサウンドブロックを傷つけないように……その……気をつけてやっているつもりなんだけど……。今回は……ボクもちょっと、熱くなりすぎちゃった……。ごめん!」
ガベルの謝罪に、サウンドブロックは必死に笑顔を取り繕う。
痛い、痛いなどと泣き言をいっている場合ではない。
己の頑強さを相棒にアピールする絶好のチャンスだ。
サウンドブロックはガベルに気づかれないように、そっと身じろぎする。
ベテランオークショニアが叩き損じたときに、少しだけだが端が欠けてしまったのだ。ガベルに見つからないように、サウンドブロックは身体の位置をずらして傷を隠した。
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