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3章 ストーンボックスの行方はやっぱり誰にもわからない?

3-6 ダン! ダン!

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(箱が石化してしまってるんだから、開くわけないじゃん。そんな当たり前のことを有り難く説明してどうするんだろう……)

 ガベルは競売人のセリフに呆れ返ってしまったが、なぜか参加者たちは感銘をうけたようだ。

 人々の『ストーンボックス』を見る目が、さらに熱いものへと変わっていく。

「まあ……」
「あれが石彫だなんて……」
「とても信じられませんわ」

 毎回思うのだが、なんともチョロい参加者たちだ。
 カモだ。
 カモが鍋をかぶって、ネギをしょっておまけに白菜を持って、まな板の上で踊っている幻影がガベルには見えた。

 ベテランさんの説明はまだまだ続く。

「フタに超古代語が刻まれておりますが、開封は困難。箱の中に何が入っているのかもわかりません。また、厳粛な鑑定の結果、宝石箱ではないと判明しております。こちら、世界が誇る五賢者の古代遺品であることを証明する鑑定書つきとなっております。これぞ、まさしく『ストーンボックス』でございます!」

 最後のトリを飾るベテラン競売人は、実に絶妙な間をおきながら、巧妙な語りで観衆を魅了していく。
 浮足立っていた参加者も、ひとり、ひとりと、ベテランさんの話術にひきこまれていく。
 びっくりするくらいの胆力だ。
 さすが、オオトリだ。

 ザルダーズのオークションハウス内では、魔法で聴衆を操作することは禁じられている。
 だが、わざわざ魔法などを使わずとも、声の抑揚、間、語る内容によって、オークショニアは人々の心を意のままに操ることができるのだ。

 ベテランさんにもなれば、いかなるアクシデントにも柔軟に対応できる経験と度胸が備わっている。

 ではあるが、今回のオークションはそのベテランさんの力技をもってしても、なかなか困難なものであった。

「こちらはだだの古代遺品ではありません!」

 ベテランさんの説明に、いつも以上の熱が籠もる。
 この口上が、これからの入札に影響してくるのだから、自然と力も入るだろう。
 この『ストーンボックス』が落札されたら本日のオークションは終了だ。

「全世界の注目を浴びまくりの幼きちびっ子冒険者たちが、はじめてのダンジョン探検で発見した、貴重な本物の古代遺品シリーズのひとつです! ビギナーズラックつきの縁起物! 一生に一度しかない、はじめてのダンジョン探検で発見された、またとない逸品でございます!」

「まあ! はじめてのダンジョン探検で、こんなに貴重なモノを発見できるなんて!」
「なんて、ラッキーな冒険者なんだ!」
「しかも、シリーズものですって!」
「その幸運にあやかりたいものだ」

 オークショニアによって提示された付加価値に、会場内が再びざわめく。

(さすが、最後の品だ。イイ感じに盛り上がってきたじゃないか!)

 必要以上の付加価値を見つけ出し、出品物の値段をガンガン釣り上げるザルダーズと、それを疑いもせずに信じ込んで踊らされる滑稽な参加者たち。
 その姿を高みから見下ろすのが、サウンドブロックの楽しみだった。

「それでは、オークションを開始いたします!」

 ダン! ダン!

 ベテランオークショニアの宣言により、本日最終となる『ストーンボックス』の競売がはじまった。

(前回の『ストーンブック』には驚いたけど、さすがに、今回の開かない箱を落札するひとなんていないと思うよ……)

 最初、ガベルはそう思っていた。
 ニンゲンの複雑さをまだ完全に理解しきれていなかった。

 ほとんどの参加者にとっては、代理石でできた石の箱。
 開かない箱だ。
 使い方を知らない者にとっては、ただの石だ。

 だが、この広い世の中には、奇妙なモノを欲しがる奇妙な者がいる。
 ザルダーズはそのような人々に娯楽を提供することで、収益を得ていた。

 競売人がおごそかに入札開始を告げると、恐るべきことに、いきなり本日最高の金額が提示されたのである……。

「10000」

 とんでもない金額に、会場が「しん」と静まり返る。
 誰ひとり、このような始まりを予想してなかった。

(ええええっっ! うそっ!)
(ほぅ……やるじゃん)

 ガベルとサウンドブロックも想定外のファーストコールにびっくりする。
 老練なオークショニアも、度肝をぬかれてしまった。口をあんぐりと開け、金額を提示した人物をまじまじと見つめる。驚きすぎて次の言葉がでてこない。

 少々のことでは動じない、澄まし顔のベテランさんが動揺するのはとても楽しい。

(うわ――。豹のダンナもいい趣味をしてるぜ!)

 サウンドブロックは、「ざまあみろ」と心のなかで喝采する。

 前回『ストーンブック』を10000万Gで落札した相手に、今度はいきなり10000万Gをぶっかけてきたのだ。
 その度胸と執着心、古代遺品愛は称賛に値する。
 もっと、もっと、このオークションを楽しませて欲しい。とサウンドブロックは興奮のあまり身震いする。

(ベテランさん、しっかりしてよ! ベテランさんまでが、この空気にのまれてどうすんの! ボクの女神様をがっかりさせないで!)

 ガベルがいらついたように、机をかるくこづく。
 とても小さな、小さな「カツン」という音が生まれ、その音が茫然自失のベテランオークショニアに送る合図となった。

(おい! ガベル! 俺以外の木製品に浮気するんじゃねえっ!)

 サウンドブロックが怒りで己の身をわなわなと震わせる。

 百戦錬磨のオークショニアは、ガベルとサウンドブロックがだした異音を耳にして、ふと我に返る。

「ほっ……本日最高価格の10000万Gの値段が、そちらの『豹の老教授』様によっていきなり提示されました!」
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