7 / 23
2章 ストーンブックの行方は誰にもわからない?
2-4 最後の三分間
しおりを挟む
(なんて……! なんて! 綺麗な人なんだ!)
ガベルの心臓がドクンと跳ね上がる。
世界が急にキラキラとしてきた。
心が満たされるのを感じる。
(すごい! すごいよ! こんなに美しい人が、この世に存在するなんて! すごすぎる!)
ガベルは叫びたくなる衝動にかられるが、ぐっと我慢する。
ベテランさんの言う通り、光の女神様がザルダーズに降臨したのだろう。
さすがベテランさんだ。
見つめれば、見つめるほど、その美しさに頭がくらくらしてくる。
女神様が参加されているオークションを、自分の愚かな行いで台無しにするわけにはいかない。
ガベルは己自身に言い聞かせる。
(がんばらなくちゃ。女神様が喜んでくださるオークションに、ボクがしてみせる!)
興味なさそうにしている相棒のサウンドブロックに喝を入れる。
豹変した相棒の姿にサウンドブロックは驚き、なにやら言ってきたが、そんなことはどうでもよかった。
とにかく、相棒にもやる気になってもらって、自分たちの最高の仕事ぶりを女神様に見てもらいたい。
今ならオーナーの「オークションに参加された方々には、最高の舞台をご用意しましょう」という口癖が理解できた。
そう!
舞台をつくるのは自分たちだ!
ガベルのやる気が急上昇する。
サウンドブロックがドン引きしているが、そんなのどうだっていい。いや、それでは困る!
心をひとつにし、女神様の大事な『はじめてのオークション』を美しいものにしなければならない。
不協和音を奏でているようではダメだ。
女神様は絶対に、悲しまれる!
(おい! ガベル? いきなりどうしたんだよ?)
相棒の声はうるさくてたまらないが、大事な相棒だ。適当に返事をして相手をする。
サウンドブロックはなかなか厄介な性格……というか、性癖の持ち主で、優しく接するよりも、少し冷たく突き放した方が、いい仕事をするのだ。
その匙加減が非常に難しい。
あまり冷たくしすぎるといじけてしまうが、優しくしすぎると、だらけてしまうのだ。
だが、今はそれよりも女神様だ。
これが今日の最後の品だ。
ということは、このストーンブックが落札されたら、オークションは終了し、女神様は住まわれている世界にお戻りになってしまう!
次回のオークションに来てくださるとは限らない。
だったら、その麗しいお姿をしっかりと脳裏に、心に、魂に刻みつけておかなければならない!
(とても綺麗で眩しいひとたち!)
ガベルはうっとりと、ふたり……主に女神様を見続ける。
サウンドブロックは、ブツブツ言いながら、若者の方をチラチラとうかがっているようだ。
付き人もつけず、このような珍妙な品に迷いもみせずに高額をふっかける人物が、ふたりも一般席に紛れ込んでいた。それだけでも驚くには十分すぎる。
……とかなんとかをサウンドブロックが言っているようだ。
どちらもお忍びの体を装っているようだが、貴人ばかりが集うなかで、他者を押さえてさらにひときわ眩い輝きを放っているということは、大国の王族、公爵クラスの人物なのだろう。
よくも、最後の、最後の瞬間まで、己の気配を消せていたものだ。
ガベルは目も眩むような高価なモノ、ため息がこぼれ落ちるほど素晴らしい芸術品……今までに様々な品物に触れ、感化されつづけた。
世にも珍しいもの、高価なものを求めてやまない高貴で好奇な参加者を見守り続けていた。
なので、それなりに目が肥え、鼻が利くようになっていたつもりだが、まだ、まだ世の中には上の存在があるということだ。
その間にも時間は流れていく。
「10000! 10000万G!」
人々の視線が38のパドルを所持している鳥仮面の青年へと注がれる。
彼の次なる選択を、人々はじっと待つ。
十秒……。
二十秒……。
三十秒……。
一分……。
「残り一分をきりました! みなさま、よろしいでしょうか?」
ザルダーズのオークションルールは、入札価格が提示され、三分以内に次の価格がコールされない場合、最終入札者が落札者となる。
麗しの貴婦人が10000万Gと歌うように宣言してから二分が経過し、残り一分となったとき……。
鳥仮面の青年はゆっくりとパドルを下ろし、大仰な動作で肩をすくめてみせる。
「よろしいですか?」
緊迫した時間が流れる。
残り三十秒……。
二十秒……。
十秒……。
呼吸音ひとつ聞こえない会場内だが、参加者の心はひとつにまとまり、心のなかだけでカウントダウンをはじめる。
五、四、三……にい……いち……。
ガン! ガン! ガン!
高く掲げられた木槌が勢いよく振り下ろされ、打撃板を鳴らした。
止まっていた時が再び動き出す。
「みなさま! こちらの『ストーンブック』は『黄金に輝く麗しの女神』様によって10000万Gにて落札されました!」
オークショニアの終了宣言と同時に、拍手が沸き起こる。
カランカランと、終了の鐘も鳴った。
舞台の袖や裏、壁際に控えていたオークションスタッフが動き始める。
最後の出品物が舞台の袖の方へと消えていき、隣室へと続く扉が一斉に開け放たれた。
オークションに参加していた人々が椅子から立ち上がり、和やかに会話を交わしながら扉の方へと移動していく。
世界最高級と謳われるザルダーズのオークションは、会場、スタッフ、参加者、出品物のなにもかもが一流で、エレガントにプログラムがすすめられていく。
扉の向こうに続く隣室にはビュッフェスタイルの軽食の場が設けられている。
事後の手続きが整うまでの間、参加者たちはオークションの余韻をここで愉しむという流れになっているのだ。
ガベルの心臓がドクンと跳ね上がる。
世界が急にキラキラとしてきた。
心が満たされるのを感じる。
(すごい! すごいよ! こんなに美しい人が、この世に存在するなんて! すごすぎる!)
ガベルは叫びたくなる衝動にかられるが、ぐっと我慢する。
ベテランさんの言う通り、光の女神様がザルダーズに降臨したのだろう。
さすがベテランさんだ。
見つめれば、見つめるほど、その美しさに頭がくらくらしてくる。
女神様が参加されているオークションを、自分の愚かな行いで台無しにするわけにはいかない。
ガベルは己自身に言い聞かせる。
(がんばらなくちゃ。女神様が喜んでくださるオークションに、ボクがしてみせる!)
興味なさそうにしている相棒のサウンドブロックに喝を入れる。
豹変した相棒の姿にサウンドブロックは驚き、なにやら言ってきたが、そんなことはどうでもよかった。
とにかく、相棒にもやる気になってもらって、自分たちの最高の仕事ぶりを女神様に見てもらいたい。
今ならオーナーの「オークションに参加された方々には、最高の舞台をご用意しましょう」という口癖が理解できた。
そう!
舞台をつくるのは自分たちだ!
ガベルのやる気が急上昇する。
サウンドブロックがドン引きしているが、そんなのどうだっていい。いや、それでは困る!
心をひとつにし、女神様の大事な『はじめてのオークション』を美しいものにしなければならない。
不協和音を奏でているようではダメだ。
女神様は絶対に、悲しまれる!
(おい! ガベル? いきなりどうしたんだよ?)
相棒の声はうるさくてたまらないが、大事な相棒だ。適当に返事をして相手をする。
サウンドブロックはなかなか厄介な性格……というか、性癖の持ち主で、優しく接するよりも、少し冷たく突き放した方が、いい仕事をするのだ。
その匙加減が非常に難しい。
あまり冷たくしすぎるといじけてしまうが、優しくしすぎると、だらけてしまうのだ。
だが、今はそれよりも女神様だ。
これが今日の最後の品だ。
ということは、このストーンブックが落札されたら、オークションは終了し、女神様は住まわれている世界にお戻りになってしまう!
次回のオークションに来てくださるとは限らない。
だったら、その麗しいお姿をしっかりと脳裏に、心に、魂に刻みつけておかなければならない!
(とても綺麗で眩しいひとたち!)
ガベルはうっとりと、ふたり……主に女神様を見続ける。
サウンドブロックは、ブツブツ言いながら、若者の方をチラチラとうかがっているようだ。
付き人もつけず、このような珍妙な品に迷いもみせずに高額をふっかける人物が、ふたりも一般席に紛れ込んでいた。それだけでも驚くには十分すぎる。
……とかなんとかをサウンドブロックが言っているようだ。
どちらもお忍びの体を装っているようだが、貴人ばかりが集うなかで、他者を押さえてさらにひときわ眩い輝きを放っているということは、大国の王族、公爵クラスの人物なのだろう。
よくも、最後の、最後の瞬間まで、己の気配を消せていたものだ。
ガベルは目も眩むような高価なモノ、ため息がこぼれ落ちるほど素晴らしい芸術品……今までに様々な品物に触れ、感化されつづけた。
世にも珍しいもの、高価なものを求めてやまない高貴で好奇な参加者を見守り続けていた。
なので、それなりに目が肥え、鼻が利くようになっていたつもりだが、まだ、まだ世の中には上の存在があるということだ。
その間にも時間は流れていく。
「10000! 10000万G!」
人々の視線が38のパドルを所持している鳥仮面の青年へと注がれる。
彼の次なる選択を、人々はじっと待つ。
十秒……。
二十秒……。
三十秒……。
一分……。
「残り一分をきりました! みなさま、よろしいでしょうか?」
ザルダーズのオークションルールは、入札価格が提示され、三分以内に次の価格がコールされない場合、最終入札者が落札者となる。
麗しの貴婦人が10000万Gと歌うように宣言してから二分が経過し、残り一分となったとき……。
鳥仮面の青年はゆっくりとパドルを下ろし、大仰な動作で肩をすくめてみせる。
「よろしいですか?」
緊迫した時間が流れる。
残り三十秒……。
二十秒……。
十秒……。
呼吸音ひとつ聞こえない会場内だが、参加者の心はひとつにまとまり、心のなかだけでカウントダウンをはじめる。
五、四、三……にい……いち……。
ガン! ガン! ガン!
高く掲げられた木槌が勢いよく振り下ろされ、打撃板を鳴らした。
止まっていた時が再び動き出す。
「みなさま! こちらの『ストーンブック』は『黄金に輝く麗しの女神』様によって10000万Gにて落札されました!」
オークショニアの終了宣言と同時に、拍手が沸き起こる。
カランカランと、終了の鐘も鳴った。
舞台の袖や裏、壁際に控えていたオークションスタッフが動き始める。
最後の出品物が舞台の袖の方へと消えていき、隣室へと続く扉が一斉に開け放たれた。
オークションに参加していた人々が椅子から立ち上がり、和やかに会話を交わしながら扉の方へと移動していく。
世界最高級と謳われるザルダーズのオークションは、会場、スタッフ、参加者、出品物のなにもかもが一流で、エレガントにプログラムがすすめられていく。
扉の向こうに続く隣室にはビュッフェスタイルの軽食の場が設けられている。
事後の手続きが整うまでの間、参加者たちはオークションの余韻をここで愉しむという流れになっているのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。
佳
ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。
呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。
そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。
異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。
パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画!
異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。
※他サイトにも掲載中。
※基本は異世界ファンタジーです。
※恋愛要素もガッツリ入ります。
※シリアスとは無縁です。
※第二章構想中!
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる