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第3章 同族嫌悪も甚だしく
09話
しおりを挟む「ガソリンみたいなものだ」
朝食の後、厘は岬にそう説いた。
「なるほど……?」
「少しずつ補充することもできるが、限界の位置で注げば “回数” を増やさなくて済む。……お前としては、その方がいいだろう」
空返事だったことを見透かされ、再び説かれる。そして、次こそ本当に「なるほど」と理解した。
岬が厘に尋ねたのは、精気を送り込むタイミングについて———つまり、満月の晩までキスをしなかったワケを尋ねた。しかし、あやかしにしては通俗的な “喩え” 。人の世に精通しすぎている気がするのは今日日に限ったことではないけれど、ちょっと、たまにおかしい。岬は頬を膨らませて、こっそり笑みを閉じ込めた。
「……だから、みさ緒が離れた後に———」
「ああ。あいつが居なくなった後であれば、送り込んだ後にすぐ吸い取られる心配も少ない。……それより、まだ次の霊には憑かれていないようだな」
「うん、まだみたい。あ……ちょっと着替えてくるね」
「ああ」
寝室の戸を閉めた後も、岬は背に意識を集める。
確かに、何度も何度もキスをするより効率的。それに、アレを幾度も繰り返されたら心臓に悪い。送り込んでくれた精気も、別の理由で無駄になってしまう。吸い取られなくとも、寿命が縮まることは確か。
岬は合服に袖を通しながら頬を赤らめた。
みさ緒を送り出してから三日。平常心を言い聞かせ、普通に過ごせているつもりでは居るものの、厘の器量の良い顔を見上げるといつも、大槌が胸の奥を強く叩いた。
「違う違う……あれはただの儀式だって、」
首を振りながら言い聞かせる。冷えた指で頬の熱を吸う。———この平常心を保つルーティンこそ、儀式と呼ぶべきなのかもしれない。
「おい、もう出る時間だろ」
「はっ、はぁい……!」
襖の向こうから聴こえる声に、肩が跳ねる。意識しすぎないように、と平常心を唱えた朝だった。
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