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行き遅れだけど……捨てないでくれますか?
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ずっと、ずっと、ずっと、後悔の中で。
崩壊していく国を、止められなかった。俺がどんなに言っても、どんなに動いても、どんなに足掻いても、変えられなかった。
結局、俺が行き着いた先は、国外追放、さらに奴隷落ち。この時まだ国は滅んでなくて、だから俺は、奴隷館で暴れて、暴れて、手に負えないと奴隷商をたらい回しにされて。俺を無力化したのは、奴隷商と客の会話。
「そういや、内乱で滅んだんだってな。スライド王国。」
「ええ。今は帝国が占領支配を始めているようで……」
守れなかった。その事実に、俺は打ちのめされた。いや、奴隷落ちした俺が行ったって守れなかったと思う。分かっていた。
分かっていたけど、____。
あの日から、打って変わって大人しくなった俺に、奴隷商は驚いて、これは売れると大喜びしていたけど、どうでも良かった。
もう、何もかもが、どうでも良かった。
のに。
火の手の上がるオークション会場の中で、その人間だけが俺に近付いてきた。
周りの人間はみんな死んだんだと思っていた。次は俺が焼け死ぬ番だと思っていた。何もできなかった俺に、今も何もできない俺に、似合いの始末だと思っていた。
近づいてきた人間は、あろうことか檻を手でこじあけて、俺を抱き上げた。
純粋に驚く。
俺をどうする気なのか。
もっと驚いたのは、火が、その人間を遠ざけること。魔法使いでも、ここまでできるのは少ない。相当な高位、いや、最上級の魔法使い位だ。
そして、館から出た瞬間、俺は風呂場にいた。
……転移魔法か?おかしい、ここまでできる人間がいたのか。もしかして、人間じゃない?よくわからないが身体全部を洗われている間にその人間の顔を見たけど、男女の区別が付かなかった。
風呂から上がったら服を着せられて、リビングのソファ、に座った人間の膝の上に座らされて、髪の毛を乾かされた。
「ルクセルカ、少し気持ち悪いことするよ?」
俺は、名乗っただろうか。……いや、もう、この人間は規格外なんだと思う。気にしたら負けなんだろう。気持ち悪いことはよくわからないが、もし規格外のこの人の機嫌を損ねたら、偉い目に遭うんだろう。そうでなくても偉い目に遭うなら、もう、仕方がない。
人間は、俺の左足に触れた。それからじっと黙ったまま動かない。次に何をされるのかが分からず、少し焦った。
「《治癒》」
「ぅ、くっ」
凄まじい快感が駆け巡った。痙攣が止まらない。反射的に目を瞑る。ダメだ、指示されたこと以外で動くな、喋るな。奴隷商に折檻されながら繰り返し言われた台詞が頭をよぎる。
「はぁ。ルクセルカ、ちょっと立ったり座ったり歩いたりしてみて。おかしいと感じるところはない?一応、筋肉も右足と同じくらいで調節しちゃったから、バランスは取れるはずなんだけど?」
どういうことだ?疑問を感じ、目を開けた。
……足が、ある……?
あの快感は、治癒魔法か?!魔力の相性が良好でさらに治癒が上手な者であれば、気持ち悪さが快感に変わると聞いたことがある。でもまて、欠損部位を治せるほどの魔法の使い手なんて……やはりこの人間は規格外だ。
なんでこんな「ルクセルカ?」
「っ!は、はいっ、申し訳ありませんっ。」
そうだ、俺は奴隷だ。ご主人様には逆らってはいけない。
反射的に立ち上がってから気付いた。
……ほんとうに動く。バランスも問題ない。不思議と馴染んでいる。
……完璧な治癒だ。
思わず涙ぐんでしまった。
俺は、仕えた陛下に何もできなかった。あの方が亡くなるまでのほんの数年だけ仕えていた陛下。俺は何を気に入られたのか、陛下のお話相手をしたこともある。だからこそ、そのお子をお守りしたかったのに。
結果はこのザマで。こうして五体満足で立っていると、王国のことを思い出す。
いや、もうやめよう。俺はもう、この人の奴隷だ。そうやって生きることになる。
俺は自然と、この人間に跪いた。
「うん、気は済んだね。んっと、君の今後だけど。単刀直入に言うね?」
「私の嫁となり、私の身の回りの世話をしなさい!!以上!!!」
……嫁?嫁と言ったのか。身の回りの世話……は、得意分野だ。嫁の件はよく分からないが、望まれていることはわかった。それなら、俺でも役に立てそうだ。
「承りました。」
あぁ、俺はまだ、生きている。
こうして、お堅い騎士様は思考を放棄する。
崩壊していく国を、止められなかった。俺がどんなに言っても、どんなに動いても、どんなに足掻いても、変えられなかった。
結局、俺が行き着いた先は、国外追放、さらに奴隷落ち。この時まだ国は滅んでなくて、だから俺は、奴隷館で暴れて、暴れて、手に負えないと奴隷商をたらい回しにされて。俺を無力化したのは、奴隷商と客の会話。
「そういや、内乱で滅んだんだってな。スライド王国。」
「ええ。今は帝国が占領支配を始めているようで……」
守れなかった。その事実に、俺は打ちのめされた。いや、奴隷落ちした俺が行ったって守れなかったと思う。分かっていた。
分かっていたけど、____。
あの日から、打って変わって大人しくなった俺に、奴隷商は驚いて、これは売れると大喜びしていたけど、どうでも良かった。
もう、何もかもが、どうでも良かった。
のに。
火の手の上がるオークション会場の中で、その人間だけが俺に近付いてきた。
周りの人間はみんな死んだんだと思っていた。次は俺が焼け死ぬ番だと思っていた。何もできなかった俺に、今も何もできない俺に、似合いの始末だと思っていた。
近づいてきた人間は、あろうことか檻を手でこじあけて、俺を抱き上げた。
純粋に驚く。
俺をどうする気なのか。
もっと驚いたのは、火が、その人間を遠ざけること。魔法使いでも、ここまでできるのは少ない。相当な高位、いや、最上級の魔法使い位だ。
そして、館から出た瞬間、俺は風呂場にいた。
……転移魔法か?おかしい、ここまでできる人間がいたのか。もしかして、人間じゃない?よくわからないが身体全部を洗われている間にその人間の顔を見たけど、男女の区別が付かなかった。
風呂から上がったら服を着せられて、リビングのソファ、に座った人間の膝の上に座らされて、髪の毛を乾かされた。
「ルクセルカ、少し気持ち悪いことするよ?」
俺は、名乗っただろうか。……いや、もう、この人間は規格外なんだと思う。気にしたら負けなんだろう。気持ち悪いことはよくわからないが、もし規格外のこの人の機嫌を損ねたら、偉い目に遭うんだろう。そうでなくても偉い目に遭うなら、もう、仕方がない。
人間は、俺の左足に触れた。それからじっと黙ったまま動かない。次に何をされるのかが分からず、少し焦った。
「《治癒》」
「ぅ、くっ」
凄まじい快感が駆け巡った。痙攣が止まらない。反射的に目を瞑る。ダメだ、指示されたこと以外で動くな、喋るな。奴隷商に折檻されながら繰り返し言われた台詞が頭をよぎる。
「はぁ。ルクセルカ、ちょっと立ったり座ったり歩いたりしてみて。おかしいと感じるところはない?一応、筋肉も右足と同じくらいで調節しちゃったから、バランスは取れるはずなんだけど?」
どういうことだ?疑問を感じ、目を開けた。
……足が、ある……?
あの快感は、治癒魔法か?!魔力の相性が良好でさらに治癒が上手な者であれば、気持ち悪さが快感に変わると聞いたことがある。でもまて、欠損部位を治せるほどの魔法の使い手なんて……やはりこの人間は規格外だ。
なんでこんな「ルクセルカ?」
「っ!は、はいっ、申し訳ありませんっ。」
そうだ、俺は奴隷だ。ご主人様には逆らってはいけない。
反射的に立ち上がってから気付いた。
……ほんとうに動く。バランスも問題ない。不思議と馴染んでいる。
……完璧な治癒だ。
思わず涙ぐんでしまった。
俺は、仕えた陛下に何もできなかった。あの方が亡くなるまでのほんの数年だけ仕えていた陛下。俺は何を気に入られたのか、陛下のお話相手をしたこともある。だからこそ、そのお子をお守りしたかったのに。
結果はこのザマで。こうして五体満足で立っていると、王国のことを思い出す。
いや、もうやめよう。俺はもう、この人の奴隷だ。そうやって生きることになる。
俺は自然と、この人間に跪いた。
「うん、気は済んだね。んっと、君の今後だけど。単刀直入に言うね?」
「私の嫁となり、私の身の回りの世話をしなさい!!以上!!!」
……嫁?嫁と言ったのか。身の回りの世話……は、得意分野だ。嫁の件はよく分からないが、望まれていることはわかった。それなら、俺でも役に立てそうだ。
「承りました。」
あぁ、俺はまだ、生きている。
こうして、お堅い騎士様は思考を放棄する。
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