幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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バイプレイヤーズロマンス【後編】

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「あ!やっべ!!じゃあ、俺は退場の誘導しに行かなきゃなんで…!失礼します!」
「ああ、うん…!色々ありがとね!」
「いえ!こちらこそです!」
「…あ!待って!」
「…え?」


立ち去ろうとする男の子の手を引いて引き留める。
相当予想外だったのか、男の子の目は驚きでまん丸に見開かれた。


「俺、清水 楓です」
「……え」
「名前…知りたいって言ってたから」
「あ…!ありがとうございます…!」
「ううん…!お仕事、がんばってね!」
「はいっ…!」


大きく手を振りながら走り去っていく少年をほっこりしながら見送る。…すると、一瞬振り向いた彼が叫ぶ。


「清水さーーん!!!!」
「えっ、なに!?」
「来世でまた会えたら……その時は口説かせてくださーい!」
「…………あはっ!なにそれ!」
「約束ですよーーー!!!」


俺は爆笑しながら小さく頷く。

たぶん来世も、俺が好きになる人は決まっているんだろうけど……まぁ、口説くのは…自由だもんね?

…ものすごく面白い子だったなぁ。




俺は足早に歩き出し、退場してくる卒業生たちから逃げるように中庭を出る。きっと最後のHRもあるだろうし、旭くんに直接会えるのはかなり後になるだろうな。

仕方なく車に戻って運転席で項垂れる。
それにしても、旭くんカッコよかったな。学ラン姿もこれで見納め。写真、ちゃんと撮っておけばよかった。後からあきちゃんに言ったら写真くれたりするかな?いや、今の俺と旭くんの関係性で写真欲しがるのって…もしかして超不自然?いや~でもどうしても欲しい……むしろここは樋口に頼むべき?

邪な心で悶々と考え込んでいると、急に横からビタッ!と大きな音がして俺は思わず悲鳴を上げた。


「うぎゃあ!!」


真横を見上げると、運転席の窓ガラスにあきちゃんがピタリと張り付いていた。いつもと同じエンジェルスマイルだ。だけど、タイミングが悪すぎ。死ぬほどビビった。

慌ててドアを開けると、あきちゃんにギュッと抱きつかれる。


「楓さぁーんっ!!!会いたかったー!!!」
「びっくりした…俺も会いたかったけど現れ方が心臓に悪いってばあきちゃん!」
「ごめん~!楓さんの車見つけたらいてもたってもいられなくなっちゃって!」
「…俺のこと、探してくれてたの?」
「そうだよー!何回も電話したのに!」


ハッとして携帯を見ると、鬼の着信履歴。どうやら相当ヤキモキさせてしまったみたいだ。俺のお腹に腕を回したあきちゃんは、プクッとかわいくほっぺを膨らませてこちらを見上げる。

なにそれ!かわいすぎか!


「わ、ごめんねあきちゃん…!俺全然気が付かなかった」
「ううん…いいんだけど……、っていうか今日楓さん来ないんじゃないかって俺ずっと心配してて…」
「ああ……、うん、そっか…ごめんね?」


眉を下げてちょっぴり泣きそうな美少年に罪悪感が募る。かなちゃんだけじゃなくあきちゃんにまでこんな顔させて…俺、最低だ。
抱きついたままのあきちゃんの頭を優しく撫でると、じっと見つめられた。

なんだろう…?何か言いたげだ。


「あの……楓さん…」
「ん?なぁに?」
「あのね………その………、最近…旭と楓さんって…喧嘩してた…?」
「え」
「あ、あの…!結構前からずっとそうなんじゃないかなって思ってて…それで、俺ずっと聞きたかったんだけど…爽が聞くなって言って…」
「え…?樋口が?」
「うん……『2人から何かしら報告があるまで見守ってやろう』って爽に言われて……それで俺、ずっと黙ってたんだけど…やっぱり、喧嘩してた?」
「…………あー……いや、ううん……喧嘩はしてないよ?」


そっか……樋口は俺と旭くんのこと、気付いてたか。
あきちゃんが不安がってるのはわかってたけど、何も言ってこないから口止めしてるのはてっきりかなちゃんだと思ってた。

まぁ、気付くよね……
昔の片想いの相手に気を遣われるのはちょっと複雑だけど…樋口の場合、俺が樋口を好きだったこと自体知らないからなぁ。あの男、あきちゃんが関係すること以外には結構鈍感だから。まぁ、自分への好意に関してもはや慣れ切ってるってのもあるのかな?…モテる男って、やっぱちょっと羨ましい。


「喧嘩…してないの?」
「うん」
「え……俺、2人が喧嘩してるから…だから昨日のことも口止めされたんだと…!」
「あぁ、旭くんが殴られたこと?」
「あれ!?もう知ってた!?」
「今朝、かなちゃんから電話きたよ」
「ええーーーっ!!!?要抜け駆けじゃーーーん!!!!」
「あはっ、声おっき」


俺の腕の中でキャンキャン騒ぎ出すあきちゃんが愛しくて、にやにやしながら見守る。ほんと…かわいいなぁあきちゃんは。

想い人と同じ、キラキラ輝く美しいグレーの瞳に見惚れる。まるで宝石みたい。


「たくさん心配させちゃったみたいで…ごめんねあきちゃん」
「ううん…それは全然!それに、2人が喧嘩してないならその方がいいもん!でも……喧嘩した訳じゃないなら旭はなんであんなこと……」
「ん?旭くんなんか言ってたの?」
「あ、あのね!旭から楓さんに伝言頼まれてて…俺、そのために来たんだけど……てっきり仲直りするためだと思ってたから、違うなら意味がわからなくて……」
「伝言…?なんて?」
「えっと、『僕が行くまで絶対帰らずに正面玄関で待っててください』だってさ!それにね、旭ってば俺に楓さんが帰らないように監視するように頼んできたんだよ?めちゃくちゃ必死な顔で!」
「………わお、マジか」
「マジマジ!どうせ明日になればお店で会えるのにわざわざ今話したいってことは喧嘩の仲直りだと思ったんだけどなぁ…」


頭上に複数のハテナマークを浮かべたあきちゃんに、俺はあえて答えを言わない。
…というか、言えない。俺だってこの後旭くんと何を話せばいいのか本当はよくわからないんだ。

半分、勢いで来ちゃったから。

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