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バイプレイヤーズロマンス【後編】

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一昨日…旭くんと交わした会話が頭の中にこびりついて離れない。消えて欲しいのに………消えてほしくない。


矛盾した感情が胸の中で渦巻く。


『僕はやっぱり、あなたが好きです』


旭くん………俺も好きだよ……
たぶん、君が俺を想うのと同じように。ううん…もしかしたらもうそれ以上なのかもしれない。


『僕のものになってください』


そうなれたら……きっと幸せだよね…?
俺も心からそうなりたい。君の隣に立って、笑って、泣いて、寝て、食べて、抱き合って…新しいものをたくさん見るの。
君と俺だけの思い出をたくさんたくさん積み重ねて、これから先君が歩む未来をもっともっと幸せなものにしてあげたい。

いや、………して…あげたかった。


だってね、旭くん……気持ちだけじゃどうにもならないことってあるんだよ?俺とあの男とのいざこざに君を巻き込むことは…やっぱりどうしても出来ない。いつ爆発するかわからない爆弾があるってわかってるのに君と一緒にいるなんて…絶対ダメ。君が良くても、俺がダメなの。

もう自分の人生は自分1人で背負っていくって、俺はちゃんと覚悟していたんだ。

なのに、ダメだなぁ俺は…
こんな簡単に心が揺れちゃって……情けない。
恋は……人を狂わせるって……ほんとなんだね…?
樋口を好きだと思っていた時はもっとちゃんと理性があったのに。どうして今回はこんなに……



「……旭……くん……」


名前を呟くだけで、きゅんと切ない想いが込み上げる。
爽やかな笑顔も、サラサラの茶髪も、優しい声も、大きな手も、美しいグレーの瞳も……忘れられるわけない。あんな素敵な人、この世に2人と居ない。ちゃんとわかってる。


大好きだよ、旭くん………ごめんね。


もうこの気持ちに嘘なんてつけない。
俺は君を好きなことをもう認めてしまったから……だから、


拒絶するしかないんだ。


卒業式も…本当は行きたかったんだよ。行きたかったに、決まってる。すでに旭くんとの未来を断ち切ったのだからせめて彼の人生の節目をこの目に焼き付けておきたかった。
今はまだ俺の店でバイトしてくれているからほとんど毎日会えているけれど、いつかはそれも終わる。そうなった時、俺は旭くんの人生の脇役ですら無くなるんだ。

だから、その時まで…ひとつでも彼に関する思い出を作りたかった。思い出に浸ったまま…1人で生きていけるように……

って、これってかなりストーカーっぽいかな……我ながら陰湿でドン引きしちゃう。


それでも、今日は行っちゃ…ダメなんだ。

せっかくの晴れ舞台。そこに俺が行くことで旭くんを動揺させちゃいけない。それに…変に期待を持たせたところで彼の気持ちに応えることは100%出来ないのだから。優先すべきは俺の気持ちなんかじゃない。



旭くんの……未来だけだ。








ブーッブーッ


枕の横で鳴り出した携帯を手探りで探し当てる。間違えてアラームでもかけたかな…と思い画面を覗き込むと、予想外の名前が表示されていた。慌てて飛び起きて、通話ボタンをタップする。

…こんな時間に一体どうしたんだろう…?


「……もしもし……かな、ちゃん…?」
『あ……楓さん?ごめん寝てたよな…?』
「ううん…起きてたよ?どうしたの…?」


電話の相手は言わずもがなの美青年。
ここ何日かは特に忙しかったみたいで全然会えてなかったから、声が聞けて嬉しい。


『……楓さん……今日、旭の卒業式出席しないってマジ?』
「え………」
『昨日…旭から楓さんは来ないかもって聞いて……』
「あ…、そうなんだ……」
『アイツは楓さんには何にも言うなって言ってたけど……俺、やっぱ我慢できなくてさ……』
「………」
『なぁ、嘘だよな?行くだろ?』


かなちゃんの悲しげな声に心が痛い。
ごめんね……かなちゃんにまで悲しい思いさせて。俺、最低だね。

あのデートの後、旭くんと正式にダメになったとかなちゃんに伝えた時の表情を、俺はいまだに忘れられない。
あの日もかなちゃんは泣きそうなくらい悲しそうで…それでも、"そっか…"と一言呟いた後何も言わずに何時間も寄り添ってくれた。ほぼ無言のままずっと手を握って一緒に過ごしたあの時間で、物理的にも精神的にもめちゃくちゃ救われたんだ。
かなちゃんはとても賢い人だから、俺の過去に何があったかなんて大体想像出来てたはずだ。そもそもかなちゃん自身も俺と似たようなトラウマを抱えているんだから、尚更気付かないはずがない。それでも、その瞬間何も言わないでいてくれた。理由を聞かないでいてくれた。それがどれだけありがたかったか…
俺が何度も感謝を告げるとそのたび、"俺が辛い時…楓さんが支えてくれたからこれはただの恩返し"って笑って…何度も何度も背中をさすってくれた。

どっちが母性の塊だよ……
かなちゃんは本当に優しい子だ。


君も望んでくれたように、旭くんと幸せになれたら……よかったのにな。



「ほんとだよ……、俺…旭くんの卒業式には行かない」
『……は?なんで?』
「俺と旭くんの間のことは……もう、終わったことだから」
『…なら、友達として出席すればいい……付き合わないって選択をしたからって友人じゃ無くなるわけじゃないだろ?だったら…』
「違うよかなちゃん」
『え?』
「………俺は、旭くんの……友達じゃないよ…?」
『……』
「俺はただのバイト先の店長……友達なんかじゃない」


そうだ。
俺は旭くんの人生の脇役にすらなっちゃいけない人間。彼の未来は明るい。周りにいる誰よりも。
今俺に出来るのは…早く自分のことを忘れてもらうことだけ。

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