幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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バイプレイヤーズロマンス【前編】

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「………うん!食べたい!キャラメル味!」
「あははっ、そう言うと思ってました!僕もポップコーンはキャラメル派です!一番おっきいの買ってシェアして食べません?」
「わ!いいね!俺あのバケツみたいなのからバクバク食べるの大好き!」
「ですよね!?僕もです!…あ、知ってます?今、キャラメルコーティングがめちゃくちゃ濃いやつだけのも売ってるんですよ!」
「ええ!?なにそれ!?濃い…って、あの…食べてたらたまにあるキャラメルだらけのアタリ…みたいなやつ…?」
「そう!それです!!」


話しながらフードエリアまで歩いて行くと、旭くんは頭上の看板を指差す。


「ほら、あれです!」
「わ…!ほんとだ…!」
「普通のよりちょっと高いですけど、全部がアタリです!良くないですか?」
「めっちゃいい!!」


2人して興奮気味に列に並んで笑い合う。

ほのぼの、ふわふわ、幸せ。
色恋のこと全部抜きにして考えたとしても……俺やっぱり、旭くんといる時の空気感…好きだな。


「全部アタリなんて最高!旭くん天才っ!」
「あははっ!天才なのは僕じゃなくて、作ってくれてるスタッフさんですよ!」
「あ、そっか…!」
「ふふっ…、でもほんと、最高ですね」
「うんっ!幸せの…詰め合わせだね!」


俺がそう言った途端、旭くんは真顔になり…両手でバッと顔を隠してしまった。

…わ、この仕草…、あきちゃんそっくり!さすが血の繋がった実の兄弟!
映画館特有の薄暗い照明のせいでよくは見えないけど、これはおそらく…、


「……旭くん…もしかしなくても…照れてる…?」
「……と、言うか……爆撃を…、食らった…感じです……」
「爆撃……?」
「楓さんの笑顔の殺傷力を……少々失念してました」
「ええっ…?殺傷力って…」
「…つまり、死ぬほどかわいいってことです」
「……俺、アラサーなんだけど」
「それ関係あります?」
「あるでしょ…普通に」
「ふふっ、ないです……楓さんには」



ようやく手が顔から下に下がり、旭くんと目が合う。

言葉にされなくてもわかる、
恋する男の子の瞳。

樋口があきちゃんを見るときと…同じ目だ。



「お待たせいたしましたー!お次にお待ちの方こちらのレジからどうぞー!」


レジのお姉さんの声でハッと我に返る。
すぐに注文しようと前に出ようとすると、サッと旭くんに遮られた。


「大変お待たせいたしましたー!ご注文をどうぞー!」
「えっと、このキャラメルポップコーンをLサイズで…あと……楓さんは飲み物何がいいですか?」
「えっ、あ……じゃあ、アイスティー…」
「サイズはどうします?」
「S…にしようかな」
「了解です!アイスティーのSとコーラのMお願いします」
「かしこまりました!」


俺が何かを発するより先に旭くんは軽やかに注文を繰り出し、流れるようにお会計まで済ませる。
1秒の無駄もなく完璧に電子マネーを使いこなす後ろ姿に、やっぱり現代っ子だなぁと感心してしまう。いや俺だって電子マネーくらい使うけど、ここまで淀みなく行くかと聞かれれば、多分そうじゃない。
うーん…スマホネイティブ世代すっごい…

秒速で出来上がってきた商品たちを受け取り、劇場入り口に向かう。


「あ、ねぇ旭くん!俺お金…」
「あぁ、今日は僕が全部出すんで気にしないでください」
「ええっ!!?そんな…だめだよ!!!俺チケット代も出してないのに!っていうか俺旭くんより11個上なんだよ!?高校生に出してもらうわけには…」
「いいんです、僕が誘ってわざわざ来てもらってるんですし…」
「でもっ、」
「大丈夫です…僕、楓さんからちゃんとお給料貰ってるんで」


茶目っ気たっぷりにウインクされて、戦意喪失しかける。
…いやいやいやいや、なに絆されかけてんの俺?こんなの絶対ダメでしょ。


「いや、旭くん…やっぱり…」
「……あ!じゃあ…次は楓さんが出してください」
「…え?」
「次のデートは…楓さんが出してくれません?それなら、いいですよね?」
「………いい、けど……デートじゃな……あ、え…?ちょっと待ってそれって…」
「あはっ…やっぱバレます?」


俺が微妙な表情を向けると、いたずらっ子が笑い出す。
……つまりコレって、知らぬ間に次のお出かけが確約されるって事だ。
なるほど…そっか。隣でケラケラ笑う旭くんに、かなちゃんのセリフが頭に浮かぶ。

"やっぱアイツ…すっげぇ策士"

戦国の世なら、この子は間違いなく優秀な軍師だな。


「全くもう…!アラサーをからかって遊ばない!」
「だからアラサー関係ないですって!」
「あー…じゃあ、こうしよう?」
「はい?」
「次のお店では俺に出させて?いい?」
「……えー……」
「えーじゃない!ちょっとくらい大人にカッコつけさせろ~っ!」
「…あははっ!はーい、すみませんっ」
「素直で良し!」


数秒後…顔を見合わせて、同時に吹き出す。
バイト中よりかなり砕けた表情だ。単純に、楽しい。
旭くんのこんな楽しそうな顔…初めて見たかもしれない。それを俺の隣でしてくれていることが、嬉しい。

気持ちに応えることが出来なくても、俺はこれからも…彼のそばにいたい。旭くんとずっと…友達でいたい。



でもそれは…


ほんとにワガママだよね……?

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