上 下
139 / 203
キスする前に出来ること【解決編】

5

しおりを挟む


すると、


いつも涼しい顔で相手を口説いているはずの妹が真っ赤になって俺の恋人を見ていた。



え?

………なにこの状況……?




「……あ、恭介…飲み物サンキュー!お…紅茶?」
「うん……それよりかな……、伊吹どうしたの?なんか顔が……」
「……兄貴っ!!!!」
「はいっ!!?」
「………マジで、この人……大切にして……」
「……え?」
「本当に……絶対、泣かせないで……」


グッと肩を掴まれて、危うくティーセットを床にぶち撒けるところだった。危ない。

伊吹のこんな真面目な顔久しぶりに見た。かなを口説くのは予想してたけど、まさかこんな顔するなんて思ってもいなかった。



一体……何があったんだ…?



「俺昨日……お前の兄貴に死ぬほど泣かされたぞ」
「エッ!?」
「ちょ、かなぁ!!!それは伊吹には言わないでよっ!!!」
「ちょっと兄貴っ!!!かなちゃんに何したの!!!?そんなんなら恋人の座私に譲ってよ!!!」
「譲るかぁっ!!!!ーーっああもう、かな面白がってない!!!?」
「ふはっ…だっておもしれーんだもんお前ら」


クスクス笑いながら紅茶を注ぐかなは、仕草だけでめちゃくちゃ絵になる。さすが世界的なセレブの御子息。高貴な香りはどこにいても失われない。

その神々しさに毒気を抜かれた俺と伊吹は一度お互いを見合った後、大人しく着席する。

なんか、もうすでにかなのペースになってない…?ここ、俺の家なんだけど……



一旦落ち着くために全員で紅茶を飲む。心なしか、俺が淹れたときより美味い気がする。かなにお礼を言おうとチラリと見ると、なぜか心ここに在らずな表情でゆっくり立ち上がるのが目に入った。かなの急すぎる行動に、俺も伊吹も慌ててティーカップをテーブルに戻す。

俺たちが声を掛けるより先に、かなはリビングの奥に向かって歩き出した。


「……なぁ………、伊吹?」
「え……なになに?どうしたの、かなちゃん」
「これって……、お前が撮ったの?」
「………あ、その壁の写真?うん、そうだよ!私が撮った」
「全部…?」
「……うん」


かなは口をポカンと開いたまま、足を止めた。我が家のリビング奥の壁一面には、伊吹が撮った写真がビッシリ飾られている。

かなには話したこと無かったけど、伊吹の趣味は写真を撮ること。

俺には写真のことはよくわからないけど、伊吹は部屋の一角に暗室を作ってしまうほどのカメラオタクだ。実際いろんなコンテストで入賞もしてるし、素人の俺から見てもセンスがあると思う。


かなはその写真たちをジッと見つめたまま動かない。目がキラキラと輝いている。


あれ……?

なんだろう……この目、見たことがある。



ああ、……そっか…デザイン画を描いているときと…同じだ…!



「……じゃあ、伊吹が行く予定の専門学校ってもしかして…」
「えっと…フォトグラファーのための学校だけど……ん?それが?」
「やっぱり…!」


かなは慌てて俺たちの元に戻ってくると、伊吹の両手を掴みギュッと握り締めた。

…どうやら女相手だとはすっかり忘れてしまっているようだ。


「お前、めっちゃ才能あるよ!!!」
「……え?」
「それどころか……天才だ!!!!構図とか色のバランスとか撮影の技術的な部分は申し分ないし…被写体に対するアプローチまで絶妙な上…その口の上手さ……うん、絶対一流のカメラマンになれる!!!!俺が保証する!!!」
「……へ…?え、えっと……ありが、とう…?」
「あの、かな…!!?」
「恭介っ!!お前の妹最高だ!!!!それに……俺、すっげぇいいこと思いついちゃった!!!!」
「はい!!?」


大興奮の末盛大にニヤニヤし始めたかなに、こっちサイドはまるで意味がわからず困惑だけが広がっていく。伊吹からしたら、俺よりさらに意味不明な状況だろう。


「えっと……よくわかんないんだけど…とりあえず、私としては……」
「ん?」
「かなちゃんに触ってもらえて嬉しいなぁ」
「…え!?あ!ごめん伊吹っ!俺興奮して…!」
「ううん…、全然…!っていうか、かなちゃんの手スベスベだね?綺麗な指~!なんか特別なお手入れしてるの?…あ、私指のマッサージ得意だからしてあげよっか?」
「へぇ!!?」
「だっから…、ソレやめろっての伊吹ーーーーーッ!!!!」


叫びながら繋がれた手を断ち切るように手刀を繰り出して、かなを自分の腕の中に引き寄せる。恋人の身体にギュッと腕を巻きつけながら妹を見ると、ざんねーん!と一言呟かれた。

全く…油断も隙もねーなこの現役JK……!


だけど、かなが自分から女に触れたことは純粋に驚きだ。これは…伊吹に対しては警戒心が抜けたと思っていいのかな……?だとしたら、いい兆候なのかも。







「……ところで、本題は…?」


伊吹の一言で、部屋の中の空気が変わった気がした。

俺はかなと目を見合わせる。まさか…伊吹の方から切り出されるとは思ってもいなかった。


「えーっと…なんか話しがあるからかなちゃんここまで来てくれたんでしょ?じゃなきゃクリスマスにわざわざ来ないだろうし、なにより兄貴がこんな美人な恋人を私に紹介するはずがない」
「……おお……、恭介より鋭い」
「かな一言余計…」


かなも俺も、すぐに最初に座っていた席に着いた。



……座ったはいいが、言葉が出てこない。
それもそのはず、今日かながこの家に来たいって言った理由は俺もいまいちよくわかってないんだ。昨日親とのゴタゴタを告白してから、かなは絶対に今日妹に会わせろと言って譲らなかった。今朝も、親との決着をつけるとか何とか言ってたけど……当の親本人がいないのにそんなこと出来るはずない。

だから、実質俺も伊吹と同じ気分だ。


ちゃんと理由が聞きたい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

処理中です...