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キスする前に出来ること【解決編】
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いつも涼しい顔で相手を口説いているはずの妹が真っ赤になって俺の恋人を見ていた。
え?
………なにこの状況……?
「……あ、恭介…飲み物サンキュー!お…紅茶?」
「うん……それよりかな……、伊吹どうしたの?なんか顔が……」
「……兄貴っ!!!!」
「はいっ!!?」
「………マジで、この人……大切にして……」
「……え?」
「本当に……絶対、泣かせないで……」
グッと肩を掴まれて、危うくティーセットを床にぶち撒けるところだった。危ない。
伊吹のこんな真面目な顔久しぶりに見た。かなを口説くのは予想してたけど、まさかこんな顔するなんて思ってもいなかった。
一体……何があったんだ…?
「俺昨日……お前の兄貴に死ぬほど泣かされたぞ」
「エッ!?」
「ちょ、かなぁ!!!それは伊吹には言わないでよっ!!!」
「ちょっと兄貴っ!!!かなちゃんに何したの!!!?そんなんなら恋人の座私に譲ってよ!!!」
「譲るかぁっ!!!!ーーっああもう、かな面白がってない!!!?」
「ふはっ…だっておもしれーんだもんお前ら」
クスクス笑いながら紅茶を注ぐかなは、仕草だけでめちゃくちゃ絵になる。さすが世界的なセレブの御子息。高貴な香りはどこにいても失われない。
その神々しさに毒気を抜かれた俺と伊吹は一度お互いを見合った後、大人しく着席する。
なんか、もうすでにかなのペースになってない…?ここ、俺の家なんだけど……
一旦落ち着くために全員で紅茶を飲む。心なしか、俺が淹れたときより美味い気がする。かなにお礼を言おうとチラリと見ると、なぜか心ここに在らずな表情でゆっくり立ち上がるのが目に入った。かなの急すぎる行動に、俺も伊吹も慌ててティーカップをテーブルに戻す。
俺たちが声を掛けるより先に、かなはリビングの奥に向かって歩き出した。
「……なぁ………、伊吹?」
「え……なになに?どうしたの、かなちゃん」
「これって……、お前が撮ったの?」
「………あ、その壁の写真?うん、そうだよ!私が撮った」
「全部…?」
「……うん」
かなは口をポカンと開いたまま、足を止めた。我が家のリビング奥の壁一面には、伊吹が撮った写真がビッシリ飾られている。
かなには話したこと無かったけど、伊吹の趣味は写真を撮ること。
俺には写真のことはよくわからないけど、伊吹は部屋の一角に暗室を作ってしまうほどのカメラオタクだ。実際いろんなコンテストで入賞もしてるし、素人の俺から見てもセンスがあると思う。
かなはその写真たちをジッと見つめたまま動かない。目がキラキラと輝いている。
あれ……?
なんだろう……この目、見たことがある。
ああ、……そっか…デザイン画を描いているときと…同じだ…!
「……じゃあ、伊吹が行く予定の専門学校ってもしかして…」
「えっと…フォトグラファーのための学校だけど……ん?それが?」
「やっぱり…!」
かなは慌てて俺たちの元に戻ってくると、伊吹の両手を掴みギュッと握り締めた。
…どうやら女相手だとはすっかり忘れてしまっているようだ。
「お前、めっちゃ才能あるよ!!!」
「……え?」
「それどころか……天才だ!!!!構図とか色のバランスとか撮影の技術的な部分は申し分ないし…被写体に対するアプローチまで絶妙な上…その口の上手さ……うん、絶対一流のカメラマンになれる!!!!俺が保証する!!!」
「……へ…?え、えっと……ありが、とう…?」
「あの、かな…!!?」
「恭介っ!!お前の妹最高だ!!!!それに……俺、すっげぇいいこと思いついちゃった!!!!」
「はい!!?」
大興奮の末盛大にニヤニヤし始めたかなに、こっちサイドはまるで意味がわからず困惑だけが広がっていく。伊吹からしたら、俺よりさらに意味不明な状況だろう。
「えっと……よくわかんないんだけど…とりあえず、私としては……」
「ん?」
「かなちゃんに触ってもらえて嬉しいなぁ」
「…え!?あ!ごめん伊吹っ!俺興奮して…!」
「ううん…、全然…!っていうか、かなちゃんの手スベスベだね?綺麗な指~!なんか特別なお手入れしてるの?…あ、私指のマッサージ得意だからしてあげよっか?」
「へぇ!!?」
「だっから…、ソレやめろっての伊吹ーーーーーッ!!!!」
叫びながら繋がれた手を断ち切るように手刀を繰り出して、かなを自分の腕の中に引き寄せる。恋人の身体にギュッと腕を巻きつけながら妹を見ると、ざんねーん!と一言呟かれた。
全く…油断も隙もねーなこの現役JK……!
だけど、かなが自分から女に触れたことは純粋に驚きだ。これは…伊吹に対しては警戒心が抜けたと思っていいのかな……?だとしたら、いい兆候なのかも。
「……ところで、本題は…?」
伊吹の一言で、部屋の中の空気が変わった気がした。
俺はかなと目を見合わせる。まさか…伊吹の方から切り出されるとは思ってもいなかった。
「えーっと…なんか話しがあるからかなちゃんここまで来てくれたんでしょ?じゃなきゃクリスマスにわざわざ来ないだろうし、なにより兄貴がこんな美人な恋人を私に紹介するはずがない」
「……おお……、恭介より鋭い」
「かな一言余計…」
かなも俺も、すぐに最初に座っていた席に着いた。
……座ったはいいが、言葉が出てこない。
それもそのはず、今日かながこの家に来たいって言った理由は俺もいまいちよくわかってないんだ。昨日親とのゴタゴタを告白してから、かなは絶対に今日妹に会わせろと言って譲らなかった。今朝も、親との決着をつけるとか何とか言ってたけど……当の親本人がいないのにそんなこと出来るはずない。
だから、実質俺も伊吹と同じ気分だ。
ちゃんと理由が聞きたい。
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