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キスする前に出来ること【真相編】

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12月24日。

恋人がいない者はこの聖なる一日を呪い、恋人がいる者は365日の中で一番浮かれる日。それが今日、クリスマスイブだ。

街中の装飾はアホみたいにギラギラしていて、まだ夕方なのに嫌に眩しい。このイルミネーションたちも、どうせ明日には撤去され裏でスタンバってる門松とチェンジするんだ。そう考えると…その儚さは、案外嫌いじゃない。門松に関しては寿命、蝉より短いけど。



昨晩楓さんから美味しいホットワインをご馳走して貰ったけれど、結局家に帰ってもほとんど眠れなかった。どうやら俺の不眠症は、恭介とのことを解決しない限り治ることはないらしい。
楓さんの提案通り、昨日のうちに恭介に今日会えるかどうか連絡したら案外あっさり家に来ると返事が来た。だから今日は、恭介の仕事が終わるタイミングで家に帰る予定。ずっと家にいてもよかったけど……なんだかモヤモヤしそうで気持ち的にしんどかったので、大学まで行って来た。明日から大学は短い冬休みに入るから、ゼミの担当教授に挨拶して来ただけだけど。今は、その帰り。


時刻は午後5時半すぎ。
あとは帰るだけ…というこのタイミングで……俺は最悪の状況に陥っていた。







「結城っ…!!待てって言ってんだろ!!!!」
「……………はぁ?」
「いいから話聞けよ!!!!」
「…なんなんだよ……」
「俺マジでお前のこと好きなんだって!!!」
「お前…どのツラ下げて俺の前に現れてんだよ……」


自宅マンションの前で盛大に呼び止められたと思ったら……これだ。

俺の目の前に立つ男は、かなり前からしつこく暁人をナンパしていた中の1人だ。チャラチャラした雰囲気の…見るからに不愉快な他校の大学生。名前すら知らない。
ある時、コイツらが海で暁人を襲ったことがあって…その際二度と立ち直れないようにボコボコにしてやった。ついでに水着と携帯を燃やしてやったけど、あれは相当気持ちよかったな。

それ以降暁人に対して全く音沙汰が無かったから、てっきり更生したとばかり思ってたけど……

この展開は完全に予想外だ。


家の前で待ち伏せとかウザすぎる…そもそも、一体どうやって住所特定したんだよ。怖すぎるだろ。俺は死ぬまでに後何回コイツの顔見なきゃいけねぇんだ。


「なんで俺なんだよ…」
「実はっ……海でお前にぶん殴られてから…その、ずっとお前のことが忘れられなくて…!!」
「クソドMじゃねーかよ!!!!消えろカス!!!!」
「俺だってどうすりゃいいかわかんねーんだよ!!!!」
「知らねーよ!!!!帰れ!!!そもそも俺付き合ってる奴いるっつの!!それ以前に……今めちゃくちゃ機嫌が悪いんだよ!!!!」
「そんなこと言われても……お前じゃなきゃ抜けなくなっちまったんだから仕方ねーだろうが!!!」
「ハァ!!?きしょいこと言うなっ!!!今すぐ消えねーと通報するぞ!!?」


本当に、心から最悪だ。
寝不足で足元はフラフラするし、頭はガンガン痛い。

これから恭介との天王山なのに……

こんなやつに構ってる暇は全くない。


仕方ないかと、威嚇のために胸ぐらを掴もうと手を伸ばすが簡単に腕を掴まれ引き寄せられた。
驚いて顔を上げると、グラッと地面が揺れる感覚。人生最大の立ちくらみだ。


……やばい、力が……入らない。


「あ…?…結城…お前もしかして、具合悪いのか?」
「……っ、うるせぇ…!」
「へぇ………、好都合じゃん」


顎を持ち上げられて、顔を間近で覗き込まれる。名前も知らない他人に身体を触られるなんて……不快すぎて、吐きそうだ。


「…近くで見るとマジで綺麗だな…!彫刻みてぇ……」
「…は、なせっ…!!」
「暁人くんも可愛かったけど……セックスするなら俺は断然お前だわ…」
「……っ、…お前みたいな奴がっ……アイツの名前口に出すなゲス野郎…!!!」
「ははっ…!いいねぇ強気で…!…よし、もういいや……正攻法でいってもダメなのはわかってたしな」
「……え」
「仕方ないから…無理矢理連れてく」
「……は!?」


さっきまで必死な顔をしていたはずの男は、別人のようにニヤリといやらしく笑った。途端に、背筋が凍る。

コイツ……!


「ただの告白で終わるとでも思ったか……?結城ぃ…」
「……っ、」
「こっちはよぉ…その綺麗な顔が快感に歪むところが見たくてたまんねぇんだよ…!気の強い美人をセックスで屈服させる以上の快楽なんて…この世に無いと思わねーか?」
「…っ、クソっ…死ねっ…!!!」
「いいから、こっちこいよ!!」
「やめ、ろっ…!」


本格的にクラクラしてきて、腕を引っ張られたままズルズルと引き摺られる。普段じゃ絶対有り得ない。こんな状況。
どうやら目の前の男は車で来ていたようで、そのまま停めてあった車の方に引っ張られた。

"やばい"と、頭の中では警鐘が鳴り響いているのに…身体が全く言うことを聞かない。


「ほんとにっ…!やめろって…!!!てめぇっ…殺すぞっ…!!」
「チッ…!後でちゃんと気持ちよくしてやっから…大人しく乗れ!!!」
「ふざけんなっ…!お前とするくらいならっ…!舌噛んで死んでやるっ…!!!」


恭介とですらセックス出来ないのに、こんな奴となんてまともに出来るわけがない。だけど無理矢理となれば話は別だ。今の俺の状況ならまず間違いなく抵抗出来ない。


そんなの……、トラウマの上塗りでしか無いじゃないか。





掴まれて強く握られた腕が痛い。


頭が、ボーッとする………




やばい、




やばい……、





「オラ早く乗れっ!!!」
「…っ、やめ、ろっ!!!」




ほんとにやばいっ…!!!!


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