幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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シルクハニーの死にたい理由【後編】

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「セックス出来ないんだ」
















「…………え……」
「というか……それどころか、性行為全般全部ダメ」
「……………それは……」
「うん………トラウマのせい………」
「……かなっ……」
「吐いちゃうんだ……どうしても」


これが、俺が恭介を拒み続けた最大にして最悪の理由。


「今までも……何度も何度もチャレンジしようとしたんだ………だけど、誰とも出来なかった………」
「…………それは………キスも?」
「………キスも」



これまで、一方的に告白してきた奴とか行きずりの相手とか…それこそ腐る程色んな男と行為を試みて来たんだ。でも、見事に全滅。俺は毎回盛大に吐いてしまって、ひどい時には相手をゲロまみれにしたことだってある。

少年期のトラウマが、今もまだ俺の身体を蝕んでいる証拠だ。

性的な行為全てがトリガーになって、全身で相手を拒絶する。


もう、どう足掻いたって無理なんだ。


俺は一生、誰ともセックス出来ない。



誰とも…………



恋、出来ない。







さっきまでとんでもない号泣をしていた恭介は、泣くのをやめてとても真剣な顔で俺を見た。


………まぁ………、そうだよなぁ………
セックスどころか…キスすら出来ない相手と……付き合える訳ない。



これを言えば、いくら恭介でも黙って手を引いてくれるってわかってた。それを今まで言えずにズルズル引っ張ってしまったのは……やっぱり、俺も恭介に………



恋………してたからかな。





「人生最初で最後のセックスがレイプとか……笑えるだろ?」



惨めな心をますます惨めにするだけだとわかっていながら、自虐の言葉を吐く。





さぁ、早く……………






俺を置いて………出て行ってくれ……






「…………かな」
「………ん」
「全然笑えない」
「………」
「いくらかなでも………俺の大好きな人を貶めるようなこと言うのは許さないよ?」
「……なんだよ、俺自身のことじゃん……」
「それでも、許さないよ………これ以上自分を傷つけるのはやめて……」
「……っ」
「俺の大切な人を傷つけないで」



こんな風に言われるなんて、想像もしてなかった。




どうして、お前みたいな奴が俺のこと好きになってくれるんだよ…………



神様は、どこまで残酷なんだ。




俺を見つめる恭介の瞳は、驚くほど澄んでいていつになくキラキラ輝いて見えた。

惚れた欲目なのかなぁ………
俺、お前のこと…この世でこんなにかっこいい人はいないって思えちゃってる。爽に言ったら、目の錯覚だーなんて笑われそうだよな?







「ねぇ、かな………」
「………なに…」
「つまり………俺と付き合えないってかなが言うのは………セックス出来ないからってこと……なんだよね?」
「………まぁ、……うん、そういうこと」
「………なら、やっぱ、俺ら付き合おう」
「は?お前…俺の話聞いて…」




言い終わる前にグッと強く腕を引かれ、逞しい腕に包み込まれる。



そこでようやく、自分が抱き締められているのだと理解した。



許可も取らず抱き締めやがって!とか、人の話遮りやがって!とか……思うことは沢山あった。
だけど……恭介の腕の中は思っていた何十倍も心地よくて………



言葉が出なかった。



こんな……身体中包み込むみたいな抱き締め方をされたのは初めてだ。

これ程までに近距離で、こんなにも生々しく他人の体温を感じる日が来るなんて……喜びで唇が震えた。同時に、身体中が沸騰したみたいに熱くなる。


これが、好きな人に抱き締められるってことなのか……………

同じ"好き"でも、暁人に優しくギュッてされた時とは……全く違う。




胸の鼓動が、うるさい。


息が、苦しい。




無言の俺に痺れを切らしたのか、恭介は少しだけ腕を緩めると俺の頭に手を置いてニコッと笑う。

そのまま、俺の髪をサラサラと手でゆっくりと梳くように撫でた。




「俺、ずっと………かなのこの……シルクみたいに綺麗な髪を……撫でてみたかった……」
「………めっちゃ………変態っぽい……」
「……あはっ…!うん……、っていうかね……俺…かなに触る権利が欲しかったんだ」






そう言った恭介の笑顔が眩しくて、あったかくて………




俺は13のとき以来初めて………





心に空いた隙間が埋まったのを感じた。







恭介、俺…………




あの日から本当はずっと死にたかったんだと思う………………




だけど、今やっと






生きたいって思えた








「かな……………俺、セックス……出来なくても…いいよ」
「……………は…?」



俺を抱き締めたまま迷いのない声色で呟いた恭介の言葉に驚いて、俺は口を開けたまま固まる。












「かなのそばにいられるなら、俺一生セックス出来なくていい」










恭介の言っている意味を理解した瞬間、ドバッと目から涙が溢れ出した。

それを見た恭介は少しだけ慌てて、俺の部屋に転がっていたボックスティッシュを持って戻ってきた。それで俺の涙を優しく拭うと、ご丁寧にもう一度俺を抱き締め直して、優しく背中をさすってくれた。



「…………お前……っな、に言って……」
「ん…?通じてない?だから、かながセックスできないことは、俺を拒む理由にはならないよ~ってこと!」
「はぁ…?自分が何言ってるかわかってんのか…!?」
「うん、わかってる」
「…………ッ……正気じゃないっ…」
「めちゃくちゃ正気だって!俺のかなへの気持ちは、性欲なんてものじゃ止められないの!」
「……っ…馬鹿じゃねーのっ…!」
「えー?ふふっ…だってしょうがないでしょ?俺……かな以外なんてもう絶対無理なんだもん」


恭介はクスクス笑いながら左手で俺の腰を抱いて、空いた右手で俺の頬に手を這わせた。

俺の目から止めどなく流れる涙を眺めながら、優しく頬を撫でる恭介に…柄にもなくキュンとしてしまった。


ふざけんなっ……

こんなのもう……この心地よさを手放せる気しないじゃん……


普段はあんなフニャフニャの癖に……なんだよソレ。そんな男らしい顔で俺のこと見んなよ、馬鹿。


泣きながら心の中で必死に悪態を吐くけれど、たぶんもう恭介には全部お見通し。

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