幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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この先プラトニックにつき【準備編】

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夕方。



無事にバイトを終えてスーパーに寄り、家に帰ると玄関には爽の靴があった。
爽は今日お仕事お休みだったから、どこか出掛けてると思ってたけど…家にいたんだ。

鍵を閉めても家の中はシンとしていて、物音ひとつしない。

………爽……俺が帰っても出てこないなんて珍しいな。
家にいる時は必ずお出迎えしてくれるのに。


リビングに入り、キッチンで荷物を下ろしていると奥のソファからながーい足がはみ出ているのが見えた。

…なんだ、寝てたんだ。





冷蔵庫に買ってきた食材をしっかり詰め込んでからやっとソファに歩み寄ると、

静かな寝息を漏らす王子様が横たわっていた。お腹には、付箋がたくさん貼られた北海道の観光雑誌が乗っている。いっぱい…調べてくれたんだね…爽。


それにしても……綺麗な顔…………


というか…ちょっと、綺麗すぎる。


この綺麗な顔で散々女の人をメロメロにしてきたのかって思うと、俺……嫉妬でおかしくなっちゃいそう。


ソファの横にしゃがみ込んで、近距離からジッと大好きな大好きな許嫁様を見つめる。


「……帰ってきたよぉ……」
「………」
「…爽………、会いたかった……」



規則的な寝息だけが耳に入ってきて、なんだかちょっと切ない。




おかしいよね、毎日会ってるのに…


すぐに会いたくなっちゃう。




でもね、


身体が疲れた時とか、心にダメージを受けた時とか、…親友が傷付いたのを見た時とか………


全部全部……
最初に会いたくなるのは、爽なんだよ。


たぶん爽は……


俺の心の栄養剤なんだと思うの。



「………俺、弱くなっちゃったのかな……」
「………」
「もう……、爽がいなきゃ……ダメみたい」



俺がそう呟くのと同時に、勢いよく腕を引かれ、

唇に柔らかい感触が伝わった。



「……ン!」
「……俺もだよ、あき」


寝ぼけ眼の爽がニコリと笑う。


「びっ…くりしたぁ……!…ねぇっ!爽起きてたの!?」
「……いや、今起きた……」
「なんだ…そっか…」
「…ごめんな寝てて」
「え?全然いいのに」
「………あー…」
「………?……爽?」
「……くっそぉ……店まで迎えに行きたかったのに…!」
「あははっ!!!ねぇー爽かわいすぎっ!!!!」


悔しそうにクッションに顔を埋める姿があまりにもかわいくて、笑ってしまう。

爽…仕事がお休みの日はたまーにサプライズで迎えに来てくれるんだよね。付き合ってからはますます俺に対して過保護になっちゃった気がする。ストーカーの件とか、海でのこともあったから…尚更かなぁ。心配かけたくないけど、大事にされるのは正直めちゃくちゃ嬉しい。


「……あき、なんかあったのか?」
「…うん……わかる?」
「わかるよ………どうした?」


爽はソファに座り直すと俺の身体に腕を回して引き寄せ、自分の膝の上に横抱きで俺を座らせた。嬉しくてキュッと首に抱きつくと、優しく抱きしめ返してくれて…安心感とドキドキが胸の中で同時に広がっていく。

こうやって爽に抱きしめられる瞬間が、ほんとにたまらなく幸せ。

人間、成長するにつれて誰かに抱きしめてもらうことへのハードルが上がるって思うのは俺だけ?小さい頃は両親に沢山抱きしめてもらえたけど、この歳になったら真っ向から全力で抱きしめてくれる相手なんて…限られる。親しい友人か…もしくは恋人だけ。

俺……爽と付き合って、毎日好きな時に抱きしめてもらえるようになっただけでも…色んなこと沢山救われてる気がするの。

ハグって魔法みたい。

不安や迷いが簡単に解けていくから。


「………爽、」
「ん…?」
「…要のトラウマのこと……爽は知ってるの…?」
「……………そっか、………そのことか」


爽は険しい顔で俺の背中をさする。


爽は………知ってたんだね。
そうだよね、再従兄弟だもんね。



「俺は、全部…知ってるよ」
「……そっか……」
「……その話…もしあきに聞かれたら内容話してもいいって言われてるけど…どうする?聞くか?」
「………え?要がそう言ったの…?」
「うん、あきには全部言っていいってさ」
「………」
「けどな…?あきは他人に対する共感性が高いし…要はあきにとってすごく大切な相手だと思うから……もし聞きたいなら…それなりの覚悟が必要な話だとは思う……それでも、聞きたいか?」
「………っ」


それは……もちろん聞きたいに決まってる。
大切な親友のことだ。

要が過去のことで今も苦しんでるなら、少しでも力になりたいに決まってる。


だけど………


「……やめ………とく…」
「…………そっか……やっぱり、聞くの怖いか?」
「…ううん、違うよ…?」
「…え?」
「大切な話なら……本人の口からちゃんと聞きたい……要の覚悟ができた時に要の言葉でキチンと聞いて……受け止めたいの」
「……そうか」


爽は少しだけ驚いた顔をした後、フワッと優しく笑った。


「爽……あのね、」
「ん…?」
「要はね…俺のヒーローなの…」
「…ヒーロー?」
「うん……、かっこよくて綺麗で強くて優しい……俺が困ってる時にいつも助けてくれていつだって優しく見守ってくれてる……最高の親友で、最強のヒーロー……俺……要が大好き……」
「……あき」
「……要が辛い時、苦しい時、何も出来ないのがもどかしいし…辛いよ………過去のことは俺…知らないけど、要が泣いてるのなんて……もう、見たくない……一生傷ついて欲しくないっ……」
「………あきっ……もう、いいからっ」


話してる間に涙がドバドバと出始めて、もう止めたくても止まらない。それを爽が必死で拭ってくれる。

俺、やっぱり泣き虫だね。

でもね、俺……これからもずっと、親友のために泣ける人間でありたいよ。


「…っ………どうして、要は…自分から幸せになる道を遠ざけるんだろうっ……俺と爽が付き合った時…"幸せになれよ"って言ってくれたのに…!」
「あー……………もしかして、恭介が要に告白したのも聞いたのか?」
「あ…爽も聞いてた……?」
「うん……何日か前に恭介から……振られたって会社で超騒いでた」
「………要…っ本当は、恭ちゃんのこと大好きなくせにっ……」
「………まぁ、しょうがねぇよ…前言ったろ?"要も一筋縄じゃいかない相手だと思う"って…」
「………覚えて……る……え、あれって……要のトラウマのこと言ってたの…!?」
「うん」


なにその伏線…!!!
気付くはずないじゃん…!!

じゃあ爽は……恭ちゃんと要が付き合うには色々乗り越えなきゃいけない壁があるって知ってたんだ……
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