61 / 209
この先プラトニックにつき【挨拶編】
6
しおりを挟む「まずは、わざわざ俺のために時間を作って頂いた上に、こんなおもてなしまで準備して頂いて……言葉もありません、ありがとうございます」
「…………爽くん、交際の件での挨拶とは聞いていたけど…別にそんな堅苦しくなくていいんだぞ?いつも通りで」
「そうよ?あきちゃんと爽くんがお付き合いすることになって…私たち嬉しいんだから」
あまりにも堅い爽の表情に、両親は少々慌てている。俺だってそうだ。
爽がここまで真剣に挨拶するなんて、思ってなかった……
「いえ、これはケジメなので……言わせてください」
「………そうか…わかった」
爽の言葉に、お父さんも何かを悟ったらしく静かに返事を告げた。
シンと静まり返る室内に、なんだか心がザワザワする。
「ご存知かとは思いますが、俺はあきが初恋で……これまでの人生、ずっとあきだけを想って生きてきました」
爽は真っ直ぐ、両親の顔を見て言葉を紡いでいく。
俺の心臓はドクドクと早鐘を打って、カッと身体が熱くなるのを感じた。
「あきは、小さい頃からずっと…純粋で真っ直ぐで、見た目だけじゃなく心まで本当に綺麗で……俺が今まで出会った全ての人の中で、間違いなく一番素敵な男の子です」
「………っ……爽…」
「俺はあきが世界で一番好きです、好きで好きでたまりません……だから、世界で一番幸せになってほしいし、できれば…俺の手で幸せにしたいです」
無意識に緩んできた涙腺は、いとも簡単に決壊する。俺はもう、前が見えなくなるくらい号泣していて、隣に座っていた旭がそっとティッシュで涙を拭ってくれた。
こんなの………、
本人の前で言うのですら勇気がいるだろうに、親の前でなんて………
膝の上に乗せられた爽の手はカタカタと小さく震えていて…それが目に入った瞬間、余計に涙が溢れた。
そうだよね、緊張しないはずない……
「けど、俺があきのそばにいる限り…ご両親には孫を抱かせてあげることが出来ません……それが、子を持つ親にとってどれほど残酷なことか…正直俺には計り知れないです………それでも、俺はあきから離れられません……あき以外愛せません………あきがいなきゃ、生きていけません」
はっきりと言い切る爽の瞳には、一切迷いが無い。
旭に背中を押され、俺はそっと爽の隣に行き寄り添うように座って、震える手を握った。
一瞬俺の方を見てハッとした顔をした爽は、1秒後にはパッと花が咲いたように笑った。
その笑顔を見て、俺も泣きながら小さく笑う。
ありがとう爽………
俺のこと、好きになってくれて……
ありがとう……
爽は俺の手を握り返すと、再び両親に向き直った。
「これから先、どんなものからも全力で守って、一生あきだけを愛すると……ご両親と旭に誓います」
両親はこれ以上ないくらい優しい顔で爽を見ていて、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「こんな素敵な人をこの世界に産んで、育てて頂いて…本当にありがとうございました」
最後に、両手を床に着いて深々と頭を下げた爽は、よく通る綺麗な声で…
ハッキリと告げた。
「息子さんを、俺にください」
その瞬間、身体の奥底からグワッと熱いものが込み上げてきて、息ができないくらい胸が苦しくなった。
こんなかっこよくて、誠実で、優しくて、完璧な人が……俺のことを本気で愛してくれていて、そしてそれを、両親や弟にまで伝えてくれる。
こんな幸せなこと、ほかにある?
ああ、俺…………
爽を好きになって………
ほんとに良かった……
「………爽くん、頭を…あげてくれ」
「……はい」
お父さんは爽の肩を掴んで、身体を起こさせる。お母さんは俺と同じくらい泣いていて、必死にハンカチで涙を拭いながら、嬉しそうに笑っていた。
「…君のご両親との付き合いは、かれこれ30年近くになる」
「…はい」
「爽くん……私たちは…君が生まれてくる前から、君のことが大好きだったんだよ?だから、暁人との許嫁の話も快諾したんだ……どういう意味かわかるかい…?」
「……え?」
「私も、葉月も、暁人や旭と同じくらい…君のことがかわいいんだよ」
お父さんの言葉に、爽はかなり驚いた顔をした後、ニコッと柔らかく笑った。
「孫のことは、どうでもいいとは言わないけれど……私たちにとって一番大切なのは、暁人と爽くんが幸せかどうかなんだ……だから、そこに関して君が気に病む必要はないよ」
「……陽平さん…」
「君みたいな子が、暁人を選んでくれるなんて……私たちにとっても本当に夢みたいだ」
「そうよぉ!爽くんかっこいいし、背高いし、頭いいし、足長いし、おまけにお金持ち!完璧すぎて泣いちゃいそう!泣いてるけど!」
「お母さんっ、茶々入れないの!今、いいとこなんだから」
旭に叱られて、お母さんはごめんごめん続きどうぞ~!と笑う。まぁ、お母さんが口出したくなる気持ちもわかる。そうだよね、爽って、ほんと完璧な王子様だもん。
ちょっとゆる~い空気が流れちゃったけど、お父さんの咳払いでまたその場の雰囲気が締まった。
「………爽くん」
「はい」
「暁人は……ちょっと鈍感だし、思い込みの激しいところもあるし、かなり泣き虫で……きっと君から見たら頼りない部分も多いと思う……だけど、誰よりも人の痛みをわかって寄り添ってあげられる優しい子だ」
「……はい」
「この先何があっても、ずっと暁人の味方でいてくれるかい?」
「もちろんです」
「……そうか…じゃあ………」
お父さんはその場で深々と頭を下げ、それを見たお母さんも慌てて頭を下げる。
「暁人のこと、よろしくお願いします」
「………!はい!!」
爽の幸せいっぱいの返事がリビングに響いて、俺はとうとう……声をあげて泣いた。
39
お気に入りに追加
1,099
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる