幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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この先プラトニックにつき【誘惑編】

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「ヘイヘイそこの美人2人組ーっ!!おっまたせー!!!」
「……うざ、なんだよそのノリ」
「うっふふーん!!ハァーイかな~!コーラだよっ!」
「ん…サンキュ」
「…ハァンッ!!!素直にお礼言うかなもいいっ!!!かわいいっ!!!めっちゃドキドキするっ!!!!」
「チッ…うるっせーなお前っ!ほんと忙しい奴!!!」


言葉遣いは普段と全く変わらないのに、要はいつになく優しい顔をしている。

……よかった。
案外これは、時間の問題…なのかも。



「あれ…?なんだあき…ニヤニヤしてんな?」
「えっ!?し、してないよ!?」
「そうかぁ?…いや、やっぱ動揺してる」
「や、やだ爽…っ!からかわないでってば…!」
「それは無理絶対やだ」
「ええっ!?意地悪っ!」


爽は俺にオレンジジュースを手渡しながら、声を出して笑う。


「ふふっ…これからも優しく、丁寧にからかいます」
「めっちゃ矛盾してんじゃん!」
「あははっ!かもな?」


矛盾してるけど、意味はわかる。
爽の意地悪は…いつだって愛情たっぷりだもんね?やだとか言いつつ…実は俺も結構楽しんでる。

…内緒だけどね?







「なぁ~みんな腹減らない?その辺の店にご飯食べに行こうよ!」


ジュースを飲み終わった恭ちゃんが、ウキウキしながら提案してくれた。確かに…もうお昼過ぎたし…ちょっと、お腹空いて来たかも。


「お、じゃあビーチサイドにあったカフェ行くか?あそこ、水着のまま入っていいらしいぞ」
「おーーー!ナイス爽!!!そこ行こう!!!」


そんなところあったんだ…!
爽って…ほんと、色んなところよく見てる。こりゃ、モテるよなぁ……。

付き合う前は爽がモテることに対してなんとも思ってなかったけど、今は正直めちゃくちゃ気になる。…俺、結構嫉妬深かったみたい。
爽と付き合ったことで知らなかった自分がどんどん解放されていくのは…いいことなのかな。でもやっぱり、彼氏がモテすぎるのはちょっと不安。今の状況を考えると…尚更。


「ちょっと待った!暁人、お前パラソルの外出るなら日焼け止め塗りなおせ」
「……!」
「お前、焼けたら赤くなるタイプだろ?俺と一緒だからわかる…ちゃんと全身こまめに塗りなおせよ?」


要は俺を見てパチンと小さくウインクする。
さっき話した通りの流れだ……


「わ、わかった…!!!え、えっとあの……爽!!」
「ん?」
「その…せ、背中…自分じゃ塗れないから…塗ってもらっていい…?」


俺は隣に座っていた爽を見上げて、自分が出来る最大限のあざとさで首を傾げる。

コレが、さっき要に耳打ちされた作戦。
つまり…爽に日焼け止めを塗らせるってこと。
ちょっとえっちすぎるって…?そんなの、要に言ってよっ!!俺だって恥ずかしいってば!!

強引かつ、ずるい手だけど……これで100%爽に触ってもらえる。その勢いで……、なんで手を出してくれないのか聞ければ……俺的には万々歳だ。


「えっ!!!?俺!!!?」
「いや、爽以外いないでしょ…」
「あ、いや………でもっ…!」


いつになく動揺している爽に、チクリと胸が痛む。

やっぱり爽…………、俺に触るの…嫌なの?


「ふーん………おっし、じゃあ~俺が塗ってあげよっか!」
「「ハァ!!?」」


恭ちゃんの一言に、爽と要が同時に声をあげた。


「ふざっけんな恭介!!!!あきに触らせるわけねーだろ!!!!」
「あははははははっだよねー??じゃあ爽がちゃんと塗ってあげろよ!俺はかなと先にご飯行ってるからさ!後から合流な?」


恭ちゃんはそう言うと、俺に目配せをして要を引き連れて去っていく。

うわ、ほんとにアシストしてくれてる…!!
ありがとう恭ちゃん…!!!!

俺は心の中で感謝の言葉を呟いて、正面にいる爽に向き直った。相変わらず困った顔をした彼氏に、悲しみが込み上げる。
…だけど、本当に俺に触りたくないのかどうか…まだ聞いてない。聞いてないうちに諦めちゃダメだ。


「あの……爽……」
「…………わかった…塗る……」
「う、うん…!ごめんね…?」


俺は半袖パーカーのジッパーに手をかける。が、すぐにその手を爽に掴まれた。


「待った」
「…えっ?」
「あき………、ここで脱がないで?やっぱ、お前の肌……誰にも見せたくない…」
「……爽……」
「あそこに、簡易だけどシャワー室あるから……そこで塗ろう」


爽の指差した先には確かに小さな建物がある。あそこ、シャワーだったんだ。

爽に手を握られ、一緒に歩き出す。

……こんなに、俺のこと大事にしてくれてるんだから……爽はきっと、照れてるだけ…なんだよね?
恥ずかしくて、触れないだけなんでしょ……?

お願い、そうだって言って……












男性専用のシャワー室の中に入ると、俺たち以外利用者は誰もいなかった。ランチの時間だから、みんなご飯食べに行ってるのかも。

洗面台の前には壁一面に大きな鏡があり、その向かいに防水カーテンの付いたシャワーが4つ並んでいる。天井につくギリギリの高さの仕切りがあって、1人分のスペースはめちゃくちゃ狭い。平均的な大人が1人入るくらいのサイズだ。まぁ、俺は小さいから余裕だろうけど。

今は誰もいないから、シャワースペースに行く必要もないかと思って、俺は洗面台の前ですぐにパーカーを脱いだ。


「…あっあき!?」
「えっ!?なに?」
「い、いきなり脱ぐなって…」
「は?…誰もいないじゃん」
「俺がいるだろ!」
「なにそれっ……俺たち付き合ってるんだから、別にいいじゃん!!!」
「…っけど…!」
「……ねぇ、塗ってくれるんでしょ…?」


目を逸らそうとする爽に、無理矢理日焼け止めを押し付ける。
そんな、あからさまに気まずそうな顔しなくたっていいのに……傷付くじゃん。

なんだかますます悲しくて、床に視線を向けていると、爽の手がいきなり俺の肩を掴み、言葉を発する間も無くそのままクルリと回転させられた。


「は……えっ!?」
「俺は……背中だけ、塗ればいいんだろ…?」
「うっ…うん……お願い…」


どうやら覚悟を決めてくれたようだ。

…なんて、付き合ってて覚悟もクソもないよね。彼氏に日焼け止め塗ってもらうのになんでこんな苦労しなきゃいけないんだ。おかしいだろ。

それでも、ドキドキと心臓が鳴る。

ブチュ…と、日焼け止めを出す音が背後から聞こえて…いよいよか…と身構えていると、ゴクリと爽が唾を飲み込むのがわかった。


「あ、あき……塗るからな」
「ん………、」
「……」
「アッ…………っ…冷たっ……」
「……っ」
「…ッ、ひゃっ…!」


爽の長い指が、俺の背中をゆっくりと撫でる。ちょっと骨張った手の感触に、男を感じた。ジェルタイプの日焼け止めは、肌と肌の接触をなんだかとてもいやらしく感じさせる。
ヤバイ……正直、冷たさより気持ち良さがギリ勝ってる。爽にこんな風に身体に触れられたのは、たぶんあのチョコレート事件の日以来だ。

待ってよ……!こんなので感じちゃうなんて…!俺、欲求不満すぎでしょ!!!


「あっ……、ンッ………」
「あきっ…声、出すなって…」
「だ、だってっ…!…あっ」
「頼むって…!」
「…ッ、む、りっ………アッ、」
「あきっ!!やめてくれっ!!」
「……っ!」


普段の爽じゃ絶対にあり得ないような声色に、ドキッと心臓が飛び跳ねる。


「あ……、いや…」
「……」
「大きな声出してごめんあきっ…!違うんだ…そのっ、」
「……なん、で…?」


俺は振り向いて、丁寧に日焼け止めを伸ばしてくれていた爽の手を握った。
下から見上げると、眉間に皺を寄せた爽がこちらを見ていた。心が……ザワザワする。


ねぇ………なんで?

どうして、そんな嫌そうな顔……するの……?
なんでそんなに拒否するの……?
俺のこと、好きなんじゃ……ないの……?




もう俺……



わかんないよ、爽………
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