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この先プラトニックにつき【誘惑編】
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しおりを挟む砂浜に到着すると、レジャーシートを広げてめちゃくちゃおっきなパラソルを立てる。要の実家にあったやつらしいけど、さすが日本屈指の超セレブデザイナーの息子…お洒落だし、めちゃくちゃ高そうだ。
荷物を置くとみんなでレジャーシートの上に座って、一息つく。晴れてよかったなぁ。
パラソルの下だと日陰だし、風がいい感じに抜けて心地いい。
なんか、ここにいたら眠くなっちゃいそう。
「かなっ!ビーチバレーしよ!!ビーチバレー!!」
「ハァ!?やらねーよあっついし」
「え~?あ、自信ないんだぁ~?俺が強そうだからって勝負から逃げる気だなぁ?」
「………聞き捨てならねーな!!!!オラ、行くぞ恭介!!」
「やったー!!!…あ、爽と暁人はどうする?」
「いや、俺とあきはいいや」
「マジ?じゃあ、ここから見える範囲で遊んでくるから!」
「おっけー」
俺が返事をする間もなく、爽が返答してくれて俺は口をパクパクさせたまま2人の会話を聞いていた。いや、断ろうと思ってたからいいんだけどさ。
それにしても……、恭ちゃん要のこと乗せるのうますぎない…?
「爽……?」
「ん?」
「あの……なんでビーチバレー断ってくれたの?あ…いや、断りたかったからいいんだけど…普段の爽なら俺にどうしたいか聞いてくれるから…不思議で」
横に座る爽を見上げると、海を眺める横顔に惚れ惚れする。
ヤバイ……完璧。絵になりすぎる。
俺は爽に言われた通り、上半身を隠すように半袖のパーカーを着ているけど…爽は鍛え上げられた身体を惜し気も無く晒している。さすがジムヘビーユーザー。ビーチ中の視線を奪っているのは完全に爽の方だ。正直…かなり妬ける。周りにいる女の人みんなが爽のことを見つめているのがわかるし、あわよくば話しかけるタイミングを窺っていそうだ。頼むから、今日だけは放っておいてほしい。
「だって……あき、運動苦手じゃん」
「……………え………なんで知ってんの!?」
「はぁ?俺あきが生まれた時から見てきてんだぞ?そんくらい知ってるって」
「そんなっ…!恥ずかしいからずっと内緒にしてたのにっ!!」
「もっと言えば…近年稀に見るほどのとんでもない運動音痴だって…最近お前の弟からも聞いた」
「えっ!!?旭!?待って…いつ喋ったの!!?」
「んー?まぁ……それはいいじゃん」
俺にはひとつ年下の弟がいて、名前は日下部 旭(くさかべ あさひ)。爽は旭とも小さい頃から仲良くしてくれていたけど……最近って一体いつ……?
だって、旭は現在オーストラリアに留学中。日本にいないんだ。
俺の驚いた顔を見てクスクス笑う爽に、ますます混乱してしまう。
「てか、あきは運動音痴だからビーチバレーやりたくないわけじゃないんだよな…?」
「……え?」
「自分が上手くできないことで、周りに気を遣わせるのが嫌なんだもんな?」
「………そこまで……お見通しなの?」
「ふっ…、まぁな?……俺は、お前のそういうとこすっげぇ愛しいなって思うよ」
「……なんで?」
「いつだって自分より他人優先で…たくさん我慢してきたんだろうなって…わかるから」
なんで、そんなこと…言ってくれるの?
どうして……これまで誰にも与えてもらえなかった言葉を…爽はこんなに簡単にくれるの…?
ほらね?やっぱり……
みんな勘違いしてるよ。
爽は俺には"勿体ない"。
こんな素敵な人が俺のことずっと好きでいてくれたなんて……、もう、俺これから先……どうやって爽に気持ちを返したらいいかわからないよ。
「だから、俺の前では何も我慢させたくないって思っちゃうんだ」
「爽……」
「俺にはどんな迷惑かけたっていいし、たくさんわがまま言って欲しい」
「……」
「俺は、どんな時も…あきのすべてを肯定するよ」
胸がキュンとして、熱い想いが込み上げる。
爽が、好きで好きで、たまらない。
もっと、この人を知りたい。
この人のために生きたい。
この人に、
すべてを捧げたい。
改めて明確になってしまった想いに、胸がさらにグッと苦しくなる。顔が熱い。
俺は両手で顔を覆い、体育座りのままキュッと小さくなる。
隣で爽がクスクス笑う声が聞こえて、それすらも愛しく思えた。
「ふふっ…かわいいなぁ…あきは」
「……っ、やだっ…爽、笑わないで」
「……あき、これ借りるな?」
「………え?」
爽が手にしたのは、俺が日除けに持ってきたツバの大きな麦わら帽子。
どういうこと?と思っていると、爽はそれで自分と俺の顔を周りから見えないように隠して……
そっと、唇を合わせた。
いつもの激しいキスじゃない。優しい、慈しむような触れるだけのキス。
「………っ」
「ふはっ…!…すげー顔っ…」
「……っ、びっくり…したっ…」
「…あき」
「な、に…?」
「…好きだよ」
真っ直ぐ俺の目を見て愛の言葉を囁く爽には……ほんの少しの迷いも無い。
気持ちは言葉にしなきゃ伝わらない…って言うけど、爽は十分すぎるほど俺に"好き"って伝えてくれる。
それが単純に嬉しいし…そのおかげで、俺も安心して爽を好きでいられるのかも。
爽って、ほんとすごい。
おとぎ話の王子様も、きっと真っ青だね?
「………お、俺も…好き……爽が……、大好き…」
「………うわ、やめろよ」
「……え?」
「そんなかわいい声でかわいいこと言うなって……もっと濃厚なやつ…したくなっちゃうだろ」
少しだけ余裕のなくなった爽がかわいくて…俺はいつもやられてるように爽の頬に手を添える。
「して……くれないの?」
「……バカ、煽んな」
「爽……」
「……なに?」
「…俺も……いつもみたいなちゅー…したいな?」
"夏と海は人を大胆にする"なんて……半信半疑だったけど、ほんとだった。
砂浜の暑さに浮かされて、思ったことがぽろりと口から飛び出す。
これ、たぶん…
後から思い出して恥ずかしくなるやつ。
「爽……っ、いつもみたいに……気持ちよく…して…?」
「……マジ、お前……最高」
爽がレジャーシートに片手をついて、俺にグッと身体を傾けるのがわかって……ドキドキと心臓が痛いくらい高鳴る。爽の厚い胸板と、バキバキに割れた腹筋が目の端に映って、余計に頭がボーッとしてくる。
かっこよすぎて…直視出来ない…!
そのまま引き寄せられるように唇が再び触れ合った瞬間、
ドタドタと遠くから走ってくる足音がして、俺と爽は目を見合わせ小さくため息をついた。
「なぁ!!!!見てたか暁人!!!このアホをコテンパンにしてやった!!!」
「ねぇー!!!まじで酷くない!!!?俺だけずぶ濡れなんだけど!!!!」
「俺に運動ごとで勝負を挑むなんて100万年はえーんだよカス!!!」
「ブハッ!!!カスは笑うってーー!!!あはははははははっ!!!ひーっかなマジでかわいいーっ!!」
「ハァ!?どこがだよっ!!?俺はお前の感性がこえーよ!!」
要は涼しい顔をしているのに、恭ちゃんだけ頭の先から足の先までビシャビシャに濡れている。どうやら見事に海に沈められたようだ。
おかしいな……ビーチバレーって…そんな野蛮な競技だっけ…?
相変わらず要は、心底楽しそうに恭ちゃんと言い合いを続けていて……なんだか、こっちまで嬉しくなってしまう。親友が幸せだと…俺も幸せ。
まぁ……俺の隣では彼氏がブスッと仏頂面してるんだけど。どうやらキスの邪魔されて…御立腹のようだ。嬉しいやら恥ずかしいやら…ちょっと複雑。
「はー恭介のせいでめちゃくちゃ汗かいたわ…あっつ……」
「あ!俺飲み物買ってこよっか?かな何がいい?」
「えー…コーラ」
「了解~!暁人は?」
「えっ…!あの…じゃあ、オレンジジュース…」
「おっけー!」
「ねぇ、俺も行こうか?恭ちゃん1人じゃ全部持てないでしょ?」
「えっ!?いいの!?」
「うん!」
「待った…いいよあき、俺が恭介と一緒に行くからここにいて」
立ち上がろうとすると爽に肩を掴まれた。
「あ……、ありがとう」
「ん…ちょっと待っててな」
爽はポンポンと優しく俺の頭を撫で、財布だけを手にして恭ちゃんとビーチサイドにある海の家に歩いて行った。
180cmオーバーのイケメン2人組の後ろ姿に、あれは"女の人がほっとかない"って言うのわかるよなぁ…とファミレスで恭ちゃんに言われた言葉を思い出す。どう考えたって声をかけられまくるに決まってる。
かなり、複雑。爽…お願いだから……水着のお姉さんに靡かないでね。
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