幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

文字の大きさ
上 下
48 / 209
この先プラトニックにつき【誘惑編】

3

しおりを挟む

砂浜に到着すると、レジャーシートを広げてめちゃくちゃおっきなパラソルを立てる。要の実家にあったやつらしいけど、さすが日本屈指の超セレブデザイナーの息子…お洒落だし、めちゃくちゃ高そうだ。

荷物を置くとみんなでレジャーシートの上に座って、一息つく。晴れてよかったなぁ。
パラソルの下だと日陰だし、風がいい感じに抜けて心地いい。
なんか、ここにいたら眠くなっちゃいそう。


「かなっ!ビーチバレーしよ!!ビーチバレー!!」
「ハァ!?やらねーよあっついし」
「え~?あ、自信ないんだぁ~?俺が強そうだからって勝負から逃げる気だなぁ?」
「………聞き捨てならねーな!!!!オラ、行くぞ恭介!!」
「やったー!!!…あ、爽と暁人はどうする?」
「いや、俺とあきはいいや」
「マジ?じゃあ、ここから見える範囲で遊んでくるから!」
「おっけー」


俺が返事をする間もなく、爽が返答してくれて俺は口をパクパクさせたまま2人の会話を聞いていた。いや、断ろうと思ってたからいいんだけどさ。

それにしても……、恭ちゃん要のこと乗せるのうますぎない…?


「爽……?」
「ん?」
「あの……なんでビーチバレー断ってくれたの?あ…いや、断りたかったからいいんだけど…普段の爽なら俺にどうしたいか聞いてくれるから…不思議で」


横に座る爽を見上げると、海を眺める横顔に惚れ惚れする。

ヤバイ……完璧。絵になりすぎる。

俺は爽に言われた通り、上半身を隠すように半袖のパーカーを着ているけど…爽は鍛え上げられた身体を惜し気も無く晒している。さすがジムヘビーユーザー。ビーチ中の視線を奪っているのは完全に爽の方だ。正直…かなり妬ける。周りにいる女の人みんなが爽のことを見つめているのがわかるし、あわよくば話しかけるタイミングを窺っていそうだ。頼むから、今日だけは放っておいてほしい。


「だって……あき、運動苦手じゃん」
「……………え………なんで知ってんの!?」
「はぁ?俺あきが生まれた時から見てきてんだぞ?そんくらい知ってるって」
「そんなっ…!恥ずかしいからずっと内緒にしてたのにっ!!」
「もっと言えば…近年稀に見るほどのとんでもない運動音痴だって…最近お前の弟からも聞いた」
「えっ!!?旭!?待って…いつ喋ったの!!?」
「んー?まぁ……それはいいじゃん」


俺にはひとつ年下の弟がいて、名前は日下部 旭(くさかべ あさひ)。爽は旭とも小さい頃から仲良くしてくれていたけど……最近って一体いつ……?

だって、旭は現在オーストラリアに留学中。日本にいないんだ。
俺の驚いた顔を見てクスクス笑う爽に、ますます混乱してしまう。


「てか、あきは運動音痴だからビーチバレーやりたくないわけじゃないんだよな…?」
「……え?」
「自分が上手くできないことで、周りに気を遣わせるのが嫌なんだもんな?」
「………そこまで……お見通しなの?」
「ふっ…、まぁな?……俺は、お前のそういうとこすっげぇ愛しいなって思うよ」
「……なんで?」
「いつだって自分より他人優先で…たくさん我慢してきたんだろうなって…わかるから」




なんで、そんなこと…言ってくれるの?

どうして……これまで誰にも与えてもらえなかった言葉を…爽はこんなに簡単にくれるの…?




ほらね?やっぱり……



みんな勘違いしてるよ。





爽は俺には"勿体ない"。





こんな素敵な人が俺のことずっと好きでいてくれたなんて……、もう、俺これから先……どうやって爽に気持ちを返したらいいかわからないよ。



「だから、俺の前では何も我慢させたくないって思っちゃうんだ」
「爽……」
「俺にはどんな迷惑かけたっていいし、たくさんわがまま言って欲しい」
「……」
「俺は、どんな時も…あきのすべてを肯定するよ」




胸がキュンとして、熱い想いが込み上げる。


爽が、好きで好きで、たまらない。




もっと、この人を知りたい。


この人のために生きたい。








この人に、








すべてを捧げたい。









改めて明確になってしまった想いに、胸がさらにグッと苦しくなる。顔が熱い。
俺は両手で顔を覆い、体育座りのままキュッと小さくなる。
隣で爽がクスクス笑う声が聞こえて、それすらも愛しく思えた。


「ふふっ…かわいいなぁ…あきは」
「……っ、やだっ…爽、笑わないで」
「……あき、これ借りるな?」
「………え?」


爽が手にしたのは、俺が日除けに持ってきたツバの大きな麦わら帽子。

どういうこと?と思っていると、爽はそれで自分と俺の顔を周りから見えないように隠して……


そっと、唇を合わせた。


いつもの激しいキスじゃない。優しい、慈しむような触れるだけのキス。



「………っ」
「ふはっ…!…すげー顔っ…」
「……っ、びっくり…したっ…」
「…あき」
「な、に…?」
「…好きだよ」



真っ直ぐ俺の目を見て愛の言葉を囁く爽には……ほんの少しの迷いも無い。

気持ちは言葉にしなきゃ伝わらない…って言うけど、爽は十分すぎるほど俺に"好き"って伝えてくれる。
それが単純に嬉しいし…そのおかげで、俺も安心して爽を好きでいられるのかも。


爽って、ほんとすごい。


おとぎ話の王子様も、きっと真っ青だね?



「………お、俺も…好き……爽が……、大好き…」
「………うわ、やめろよ」
「……え?」
「そんなかわいい声でかわいいこと言うなって……もっと濃厚なやつ…したくなっちゃうだろ」


少しだけ余裕のなくなった爽がかわいくて…俺はいつもやられてるように爽の頬に手を添える。


「して……くれないの?」
「……バカ、煽んな」
「爽……」
「……なに?」
「…俺も……いつもみたいなちゅー…したいな?」


"夏と海は人を大胆にする"なんて……半信半疑だったけど、ほんとだった。
砂浜の暑さに浮かされて、思ったことがぽろりと口から飛び出す。

これ、たぶん…

後から思い出して恥ずかしくなるやつ。


「爽……っ、いつもみたいに……気持ちよく…して…?」
「……マジ、お前……最高」


爽がレジャーシートに片手をついて、俺にグッと身体を傾けるのがわかって……ドキドキと心臓が痛いくらい高鳴る。爽の厚い胸板と、バキバキに割れた腹筋が目の端に映って、余計に頭がボーッとしてくる。


かっこよすぎて…直視出来ない…!



そのまま引き寄せられるように唇が再び触れ合った瞬間、




ドタドタと遠くから走ってくる足音がして、俺と爽は目を見合わせ小さくため息をついた。





「なぁ!!!!見てたか暁人!!!このアホをコテンパンにしてやった!!!」
「ねぇー!!!まじで酷くない!!!?俺だけずぶ濡れなんだけど!!!!」
「俺に運動ごとで勝負を挑むなんて100万年はえーんだよカス!!!」
「ブハッ!!!カスは笑うってーー!!!あはははははははっ!!!ひーっかなマジでかわいいーっ!!」
「ハァ!?どこがだよっ!!?俺はお前の感性がこえーよ!!」


要は涼しい顔をしているのに、恭ちゃんだけ頭の先から足の先までビシャビシャに濡れている。どうやら見事に海に沈められたようだ。
おかしいな……ビーチバレーって…そんな野蛮な競技だっけ…?

相変わらず要は、心底楽しそうに恭ちゃんと言い合いを続けていて……なんだか、こっちまで嬉しくなってしまう。親友が幸せだと…俺も幸せ。

まぁ……俺の隣では彼氏がブスッと仏頂面してるんだけど。どうやらキスの邪魔されて…御立腹のようだ。嬉しいやら恥ずかしいやら…ちょっと複雑。


「はー恭介のせいでめちゃくちゃ汗かいたわ…あっつ……」
「あ!俺飲み物買ってこよっか?かな何がいい?」
「えー…コーラ」
「了解~!暁人は?」
「えっ…!あの…じゃあ、オレンジジュース…」
「おっけー!」
「ねぇ、俺も行こうか?恭ちゃん1人じゃ全部持てないでしょ?」
「えっ!?いいの!?」
「うん!」
「待った…いいよあき、俺が恭介と一緒に行くからここにいて」


立ち上がろうとすると爽に肩を掴まれた。


「あ……、ありがとう」
「ん…ちょっと待っててな」


爽はポンポンと優しく俺の頭を撫で、財布だけを手にして恭ちゃんとビーチサイドにある海の家に歩いて行った。

180cmオーバーのイケメン2人組の後ろ姿に、あれは"女の人がほっとかない"って言うのわかるよなぁ…とファミレスで恭ちゃんに言われた言葉を思い出す。どう考えたって声をかけられまくるに決まってる。

かなり、複雑。爽…お願いだから……水着のお姉さんに靡かないでね。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...