上 下
45 / 203
この先プラトニックにつき【相談編】

9

しおりを挟む

「ぐーっ!!!くっそぉ!!!!かわいいっ!!!逆らえねぇっ!!!!」
「えへへ~っ!…じゃあ、一緒に行ってくれる?」
「もういいっ!!!お前が行くところなら、どこにでも行ってやる!!!!」
「やったー!!!!」


やっと降参した王子様に、俺は喜びのガッツポーズを見せつける。さすが親戚…爽と要はチョロさがソックリ。


「俺………マジであきに頭上がんなくなってねぇ…?」
「ふふっ…ご不満ですか?」
「いや……もう、いいです……幸せなんで……」
「あははっ!俺もだよ~!!!」


クスクス笑っていると、爽は優しい目で俺を見る。

目的は不純だけど、爽と一緒に海に行けるなんて嬉しすぎる。楽しみだなぁ。


「つーか…恭介も……なんで、海なんて言い出したんだ?アイツ海好きだっけ?」
「あー…それは多分……要と仲良くなるためじゃないかなぁ…?」
「……………え?」


爽は目を見開いて心底驚いた顔で静止する。


「……要も、来んの…?」
「え?うん、要と恭ちゃん会わせたら…恭ちゃん要に一目惚れしちゃったみたいでめちゃくちゃ口説いててさ…ほんと、恭ちゃんって美人に目がないよね」
「………それ、マジで?」
「…マジだけど……え?そんな驚くこと?恭ちゃんって美人にはとりあえず声かける主義でしょ?」


なんせ、自分でそう吹聴してたし。
実際、何度か恭ちゃんが綺麗な人に声かけてるのを見たことがある。


「そうだけど……」
「……?なに?爽なんでそんな驚いてるの?」
「いや、だって……口説いてたんだろ?」
「うん…ハッキリ『付き合って』とか『結婚して』とか言ってたよ」


爽は眉間に皺を寄せて黙ると、口元に手を当ててしばらく考え込む。俺は爽の行動の意味が全くわからず、ご飯を食べながら次のアクションを待っていた。

…うん、スープも美味しい!

爽ってば…何をそんなに考え込んでいるんだろ?恭ちゃんのナンパ癖なんて…いつものことなんじゃないの…?


「やっぱ…おかしい」
「…なにが?」
「アイツ……たしかに美人なら男女問わず声かけるけど………でも、絶対本気では口説かねぇんだよ……」
「……え?」


声はかけるのに、口説かない……?
え?なにそれ…どういうこと…?

爽は若干俯きながら、遠い目をする。
今まで見たことのない表情に、なんだかドキッとした。


「……あきの目には……恭介って…どう見える…?」
「どうって……」
「スッゲェ適当なチャラ男?」
「う~ん……まぁ、なんていうか……恋愛に関しては奔放そうだなってイメージかな」


恭ちゃんは少々騒がしいけど、優しいし、思いやりがある人だと思う。その反面、ちょっと軽いっていうか…ぶっちゃけチャラ男だなとは感じていた。だから、要を口説いたことにも俺は疑問を持たなかったし、多分本人は美人を口説くのは男の嗜みくらいに思ってそう。


「………そう、見えるよな?」
「…違うの?」
「うん……、本当はアイツ…すげぇ一途なんだよ」
「ええっ!!!?」
「そのせいで……悪い女に騙されて貯金盗まれたこともあったし」
「ハァ!!!?」
「その事件以来、恋愛自体しなくなっててさ……だから、アイツが口説いたってことは…多分、マジなんだと思う」
「ま、マジって……」
「マジで、要のこと好きになったんだと思うよ」




爽の話によると、恭ちゃんは幼少期から家庭の事情でかなりお金に苦労して生きてきたらしく…今の会社に就職するまで散々色んなバイトを掛け持ちして働かないご両親にお金を渡していたそうだ。それだけでもう泣ける話なのに…就職後は当時付き合っていた彼女との結婚の為に貯金をしていて、結局はそのお金も彼女に持ち逃げされたらしい。生まれてからずっと…人に利用されて、騙されて、お金を取られて……それでも恭ちゃんは一途に彼女のことを待ち続けていたらしい。爽は一文無しになった恭ちゃんを慰めて、家に居候させていた時期があり、その時にこの話を聞いたみたい。結局、彼女は他の男と結婚してしまい……恭ちゃんはその時初めて爽の前で涙を見せたそうだ。

楽天家でいつも明るく元気な恭ちゃんの、悲しすぎる過去の話に…ドバッと涙が溢れ出た。


「はぁ~……やっぱ、泣くよな?」
「ううーっ!!!泣くよぉ!!!」
「はいはい…ティッシュ持ってくっから…ちょっと待って」
「ぐすっ…ヤバイ、俺っ恭ちゃんのこと…すごく誤解してたっ」
「はははっ…!それでいーんだって…」
「良くないよぉ!」


爽はソファに置いてあったティッシュケースを持って戻ってきた。俺の隣に腰掛けて、ティッシュで俺の涙を拭いながらほっぺにキスをしてくれる。


「ったく…ほんとあきは泣き虫だなぁ」
「ううっ…」
「ま、そこもかわいいんだけど…」


涙を拭い終わった爽は、俺の頭をポンポンと優しく撫でながら頬杖をつく。


「恭介はさ、誤解されること前提であの態度なんだよ…」
「え……」
「アイツ…これまでの人生めちゃくちゃ傷付いて来たからさ……ああやって自分のこと守ってるんだと思う」
「守る…?」
「うん……ああやってチャラ男みたいな態度でいれば、誰も本気でアイツのこと好きにならないしアイツも誰にも本気にならずに済むだろ?」
「……」
「もう傷付きたくないから…恋愛にも臆病になってんだよ……あれが恭介の選んだ自己防衛ってこと」
「そんな…」
「まぁ、美人が好きなのは元からだと思うけど?」


自己防衛のために誤解されたままでいいなんて……そんなの、あまりにも悲しすぎる。

恭ちゃんはなんにも悪くないのに……


「だから、マジで驚いた……恭介……ついに好きになれる相手見つけたのかって」
「そっか……それが……要」
「うん…………めちゃくちゃ予想外だけど、考えてみたら結構お似合いじゃん」
「…やっぱそうだよね?俺も、2人が並んでるの見てそう思った」
「………まぁ…でも、要も一筋縄じゃいかない相手だと思うけどな…」
「たしかに……」


要は俺にとって初めて出来た大事な親友だ。

でも、今の話を聞いて…恭ちゃんになら任せてもいいって思えた。きっと、この話聞いたら要だって………



「俺、恭ちゃんの恋応援するっ!!!」
「えっ」
「だって、こんなの聞いて黙ってられないよ!!2人とも俺にとっては貴重な男友達なんだよ!?幸せになってもらわなきゃ困る!!!」
「………そっか……まぁ…俺はなんでもいいけど…」


爽はニコッと優しく笑うと、元の席に戻ってご飯の続きを食べ始める。




よし、これで…来週の海デートへのモチベーションがますます上がった。


もちろん、優先すべきは爽に俺と身体の関係持つ気があるのかどうか確かめることだけど……でも、恭ちゃんが要を口説き落とすお手伝いもしよう!!そりゃ、俺は恋愛初心者だし…なんのアドバイスもできないけど、2人の恋を見守る心構えは出来た。


やってやろーじゃん!!!



俺は手に持っていたお茶碗のご飯をモリモリとかき込む。それを見た爽は、おー!と言いながらケラケラ笑った。







決戦は1週間後……




こうして、樋口 爽誘惑大作戦の幕が切って落とされた。











…To be continued.
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...