幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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トドメを刺してと君は言う【前編】

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ガチャッ…



「うっわ…!!!嘘でしょ…めっちゃ広っ!!!」



扉が開いた瞬間、見たこともないような広さの玄関が目に飛び込んできた。床は大理石で、大きな靴箱の上にはセンスのいい絵画が飾られている。

俺靴なんて2足しか持ってきてないんだけど……もっと持ってきても良かったな。



「…まぁ、結構広いな」
「うーわ……出たよお坊ちゃん…!俺は庶民だからビビりまくりなのに~」
「おまっ…!お坊ちゃん言うなっつの!!」
「お坊ちゃんじゃん」


そう言った瞬間、爽は俺の顔を片手でぎゅむっと掴み、そのままフニフニとほっぺを触られる。


「んー!なにしゅんのー!」
「ブフッ……あき、生意気言うともっとするぞ~」
「生意気じゃないもんーっ!!」
「あはっ…かわいっ」


やっとの思いで爽の手の中から逃げ出すと、ニヤニヤと笑う美青年と目が合う。無駄に爽やかだなほんと!!!

爽って時々子供っぽいことするんだよなぁ…

玄関ですら思っていた3倍は広いんだから…中は一体どれだけの広さなんだろう。
こんな高級なマンション、爽と暮らすことにならなきゃ一生お目にかかれなかっただろうな。

爽の父親は国内屈指のIT企業のCEO、母親は老舗高級呉服屋のひとり娘。つまり、誰がなんと言おうと爽は正真正銘完全にボンボンだ。
実家も都内一の高級住宅街にあって、嘘みたいに広い。なんせ、敷地内にプールやテニスコートまであるんだから…並大抵のお金持ちじゃない。

だから、爽がなんでボンボンだって認めたくないのか、庶民の俺には全くわからない。

本人はなぜか親の会社には就職しなかったみたいだけど。でも一流商社勤務だから、高給取りには変わりない。


「あき、部屋どっちがいい?」
「え?えー…どっちでもいいよ?」


この部屋は2LDKで、リビングを挟んで左右にそれぞれ部屋がある。2部屋とも広さは同じらしいし、もうすでにお義母さんによって家具が用意されているみたいだから…正直どっちでも変わらない。


「あ、」
「……ん?なに?」
「じゃあ、寝室…一緒にするか?」
「ハァ!?」


俺が真っ赤になってバシバシ叩くと、爽はケラケラ笑いながら"冗談だろ!"と叫ぶ。

やめてよ!爽はこういう冗談好きすぎ!!俺慣れてないのに!!


「あきって…めちゃくちゃ初々しいよなぁ…」
「そりゃ…俺まだ18だよ!?初々しくて悪い!?」
「悪くないけど…ちょっと心配」
「…心配?」
「そ…悪い奴に騙されそうじゃん…?お前顔すっげぇかわいいし…許嫁としては…心配かな?」
「なにそれっ…!俺騙されたりしないもんっ!!」
「あははっ…マジかわいい」


ケラケラ笑いながら、頭を撫でられる。完全に子供扱いだ。爽は俺より9つも年上なんだから当たり前っちゃ当たり前だけど…俺は多分、爽から見たら弟くらいにしか思われてないんだと思う。


「おっし、じゃああき!荷物置いたらリビング集合な?今後のこと話そう」
「うん!了解!」


それぞれ荷物を置きに部屋に向かう。結局、玄関を入って右奥の部屋が俺の自室になった。
今持ってきてるのは最低限の手荷物だけで、実家からの段ボールは夕方届く手筈になっている。と言っても、俺は元来ミニマリスト気味で部屋にあまり物を置きたくないタイプ。だから、届く予定の段ボールに入ってるのは9割がお洋服。洋服だけは、昔から大好きだから数がなかなか減らせないんだよね。


ドアを開けて思わず、うわ!っと声が漏れる。おそらく20畳くらい。予想していたよりずっと広い。むしろ広すぎる。だって、夢のウォークインクローゼットまである…!!この広さじゃウォークどころか…ダッシュ出来そう。

部屋の中のインテリアも完璧。家具はアースカラーで統一されていて、あちらこちらにウッドテイストのお洒落な小物が飾られている。大きな観葉植物が窓際に置いてあって、高そうなグリーンのカーテンと相性抜群。


お義母さんセンス良すぎ…!



「やばぁ…なにこれ…実家のリビングより全然広いんだけど……」


"気に入らなかったらいつでもインテリアの総取っ替えするからね!"とお義母さんからメッセージが来ていたけど…全然必要ない。完璧だ。

それにしても…お金持ちって、やることが豪快。俺みたいな何の取り柄もないちんちくりんが…こんな贅沢させてもらっていいのかな…。





ゆっくり部屋中見て回ってから少しだけ手荷物を整理して、リビングに向かう。

リビングは玄関のちょうど正面の位置にあって、ガラスの扉がついている。さっきチラッと見えただけでも、相当ビビった。だって、どう見てもリゾートホテルだったんだもん。




「お、あき遅かったな」
「ごめーん!ちょっと荷物整理してた!」
「そっか、おいでコーヒー淹れた」
「わぁ!ありがと~爽!」


リビングに入ると、大理石のアイランドキッチンでコーヒーを注いでいる美青年がひとり。その仕草が、めちゃくちゃかっこよくて思わず見惚れてしまう。


「本当は紅茶が良かったけど、コーヒーしかまだ用意されてなかった……後で色々買い揃えなきゃな…」
「え…爽、紅茶派なの?」
「まぁな…どっちも好きだけど、紅茶の方が好きかな」
「へぇ…知らなかった」


っていうか、指なっが。よく見たら爪の形もめちゃくちゃ綺麗だし…この男…欠点無さすぎるって…!

爽って…やることなすことあまりにもリアル王子様すぎる。
考えてみれば、俺がまだ小さい頃からずっとそうだった。転んだ俺をおんぶして遠く離れた俺の実家まで歩いて帰ってくれたり、俺が女みたいだってからかわれてることを聞きつけていじめっ子を退治してくれたり…他にもたくさん…それこそ数え切れないほど助けてもらった記憶がある。
爽は見た目だけじゃなく、中身もめちゃくちゃカッコいい。

きっと一生、俺にとって爽は憧れのお兄ちゃんなんだろうな……
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