上 下
3 / 10

「参考書が真っ白なままな理由」

しおりを挟む
「おじゃまします」
 理恵が里菜の家の玄関を開けた。里菜は理恵に上がるように言い、理恵が靴を脱ぎ終わるのを待った。理恵が靴を脱ぎ終えると、里菜は右手にある階段を登り始めた。それに里菜はついていった。
「里菜の家って凄く綺麗だね」
「そう?汚いと思うけど」
 そんな他愛ない会話をしながら階段を上る。階段の途中途中には、カフェに飾ってあるかのような絵が飾ってある。恵里はそれを見ながら、感嘆をあげていた。
 二階に上がると、里菜が上がってすぐに見える部屋を開けた。そこには可愛らしい部屋が広がっていた。その中に理恵が後ろにつくように入っていった。
 部屋は全体的に白と黒で統一されていて、洗練された空間になっていた。そして、小窓の前に勉強机と思われるものがあった。それの近くの床には数多くの本達が積まれていた。
「この本見てもいい?」
 理恵がそう尋ねると、里菜は頷きながらリュックを机のホックにかけた。理恵は床に座り、積んであった本の題名を一つ一つ見ている。里菜は机の上にある英単語帳を開き、理恵の周りを回りながらパラパラとページを開き、英単語と日本語を交互に唱え始めた。恵里はすっかり床にあった本に気を取られ、里菜が自分の周りを歩いていることにすら気がついていなかった。
 床に大量に積んであった本は、数多くの参考書と、勉強法の本だった。それらのページは全てまっさらのまま保たれていた。理恵は、参考書には何かしら書き込むものだと思っていたから、とても驚いた。そのことを理恵が尋ねようとし、外部に注意を向けたことで、里菜の事に気がついた。里菜の目は横方向に何度も行き来し、念仏を唱えるかのように口を動かしていた。
「里菜、里菜、おーい」
「ん?ああ、ごめんごめん」
 理恵が里菜の脚をつつくとやっと気がついた。凄まじい集中力だ。
「あのさ、なんで参考書真っ白なままなの?」
「あー、よし。丁度いいきっかけだし、それの理由から話そうかな」
 そういい里菜は英単語帳を閉じ、恵里の隣に座った。そして、「参考書が真っ白なままな理由」を説明し始めた。
「まず最初に理恵よ、参考書とは何か分かるかい?」
「えっと、授業の復習に使うもの?」
「残念、不必要なものでした」
 里菜がそう言うと、理恵は大きな?を浮かべた。床にこんなにも参考書が積まれているのに、そんなことを言っているからだ。軽く見ただけで十冊程度は積んである。
「最初に言っておくと、これは親が勝手に買ったものなの。勉強しろって。まあ、いつも放課後帰ってきてすぐに遊びに行くからそう言われちゃうんだけどさ」
 理恵はまだ?を浮かべたままだ。
「さっき理恵は参考書を復習に使うって言っていたけど、復習に参考書は使わない」
「参考書だとまとまってて分かりやすいからいいじゃん」
「確かにそう。けど、それなら教科書でも良くない?何年も改訂されて洗練されたあの素晴らしき教科書で」
 そういうと、理恵は電撃が走ったかのように、目を見開いた。
「た、確かに……」
「例えば参考書で勉強をするとする。教科は……分かりやすく社会で」
 里菜はそういい、床に置いてある社会の参考書を手に取り、適当なページを開いた。
「まず参考書には、年表が載っている。その次に重要な単語と説明が書いてある。これを見て何か気がつく?」
「うーん、分からない」
「それじゃあ、教科書を見てみよう」
 そういい里菜はリュックから歴史の教科書を取り出し、参考書と同じ内容のページを開いた。里菜の教科書はマーカーが引かれていた。だがしかし、それは普通の人とは違い青一色だった。
「まず年表、教科書の隅に大体載ってる。そして説明はというと、参考書と同じように載ってる」
「あ、どっちも内容は殆ど一緒ってこと?」
 理恵がそういうと、里菜は「あたりー」と言った。
「参考書と教科書は似たようなもの。つまり、参考書じゃなくて教科書だけで事足りるってことだ」
「な、なるほど。今まで教科書だけだと物足りないと思って、参考書までしてたよ」
「勉強してるのに何で教科書と参考書の内容が変わらないってなんで気付かないかね。言い換えるとするならば、違う会社が出している教科書。教科書を二冊使って勉強しているようなものよ」
「そう考えると、参考書の存在意義が分からないよ……」
「言い方は悪いけど、買うことで自分を安心させるためのものだね。実際、参考書と教科書どっちも入念に勉強したこと無いでしょ?」
 そういうと、理恵はつばを飲み込みながら頷いた。
「ま、取り敢えず参考書についてはこれくらいかな。それじゃあ次は……「勉強量」について話そうか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...