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警察25時
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「すいません、こちらはO県警吾妻警察署の兎仴舞子と申しますが、佐々木浩介さんの御電話よろしいでしょうか?」
私は淡々とした口調で言った。
「はい……」と、男の声が聞こえた。
「実は、以前から相談のありました白濱カレンさんの事件の捜査を担当しておりまして、お話したいのですけど……」
私がそう言うと、電話の向こう側でしばらく沈黙があった。そして……、
「ああ、あの時の刑事さんですか? 分かりました」
男はあっさりと了解して、「ちょっと待って下さいね」と言ってから電話を保留にしたようだった。
すぐにカチャッという音が聞こえて、
「どうぞ……」と声が聞こえてきた。
「失礼します……。先日はどうも」
私は挨拶をしてから本題に入った。
「えー、本日の14時32分頃に起きました、白濱カレンさんの誘拐未遂事件の
計画の首謀者のである宮園 大甲と実行犯2名と関係者3名を逮捕しましたので、面通しのお願いと白濱カレンさんのお迎えをお願いします。」
私がそういうと、受話器の向こう側から「うわっ!」と言う驚きの声が上がった。
「そいつら全員捕まったんですか!? マジかよ! 嘘だろ!! やったぜ!!」
男は興奮したように言って、「すぐ行きます!」と言った。
それから5分もしないうちに男がやってきた。
彼は私の顔を見るなり、「あっ、あの時の!」と大きな声で言った。
私は彼に、「佐々木浩介さんですよね?」と聞いた。すると男は嬉しそうな顔をしながら答えた。
「はい、そうです。覚えていてくれたんですね」
彼は笑顔で言うと、私の顔をじっと見つめていた。
私はそんな彼の目をまっすぐに見ながら質問をした。
「あなたは白濱カレンさんとどのような関係でしょうか?」
すると、彼は少し困ったような表情を浮かべてから答えた。
「彼女は俺の彼女なんです」
私はその言葉を聞いて思わず目を見開いた。
「彼女? それはどういうことでか?」
私が聞き返すと、佐々木浩介は苦笑いしながら言った。
「あー、いや……、正確には違うんだけど……。なんていうかなぁ……」
歯切れの悪い返事をする彼を見据えたまま、私は続けて質問した。
「じゃあ、白濱カレンさんとはどんな経緯で出会ったのですか?」
「彼女と同じ大学に通っていまして、因みに同じバイト先だったので、そこで知り合って……、なんだかんだで付き合うようになりました」
佐々木浩介は答えると、また困り果てたような顔になった。まあ私は知ったこっちゃない無いんだけど恋人同士になった時に何かあったのだろうか?そう云えば彼女の調書を取った時の住所が彼の住所と同じだったような
「それで、白濱カレンさんを誘拐に気が付いたのはどうしてですか?」私が聞くと、佐々木浩介は眉間にシワを寄せて苦しそうな表情になりながらも口を開いた。
「実は、彼女がストーカー被害に遭っていて困っているという相談を受けたんです。それで、犯人を捕まえる為に協力してくれないかという事になって……」
「なるほど、それでは何故、計画が発覚したのですか?」
私がさらに尋ねると、佐々木浩介は苦々しい表情を浮かべて黙ってしまった。
しばらくしてから重い口を開けて語り出した。
「実は、彼女に頼まれてデートの時に後をつけていた奴がいたみたいなんです。でも、その時は何も無かったんですけど、後日、バイト先のロッカールームで着替えているところを写真に撮られてしまっていて、それがSNS上にアップされてしまったんです」
私はそれをきいた瞬間、自分の耳を疑った。まさか容疑者がそこまでやるとは思わなかったからだ。
「それは本当なんですね?」私が念押しするようにきくと、佐々木浩介は小さく首を縦に振った。
「はい、間違いありません」
そう言って彼は真剣な眼差しで私を見た。
しかし、すぐに視線を逸らすと暗い顔で俯いてしまった。
私はため息をつくと、彼に向かって言った。
「犯人について隠している事は無いですか?」
私は彼が他に何かを知っていると思い
カマをかけたのだが、彼は何も知らないのか黙ったままだった。私はもう1度大きく溜息をついたあと、佐々木浩介の方を向いて言った。
「とりあえず、あなたには署まで同行願います」
私がそう言うと、彼は一瞬驚いたような表情を見せた後に申し訳なさそうな顔で言った。
「えっと、カレンは病院に居るのですよね、早く面通しを終わらせましょう、カレンの顔を見たいんで!」
佐々木浩介はそう言うと、焦るように歩き始めた。
私はそんな彼の後ろ姿を見ながら、呆れたように呟いた。
「まったく、この男は何をしているのやら……」
私は急いでいる様子の佐々木浩介を落ち着かせると、面通しの前に簡単に事情を説明した。
すると彼は、少し落ち着いたのか落ち着きなく動かしていた手を止めた。
そして、ゆっくりと深呼吸をしてから言った。
「分かりました。よろしくお願いしす」
私は無言のまま軽く頭を下げた。
それから私は、白濱カレンがいる病室に向かった。
白濱カレンが入院していたのは、O県警から車で40分ほど行った場所にある総合病院だった。
彼女はその3階の304号室のベッドの上に横になっていた。
佐々木浩介は彼女を一目見るなり、泣き崩れるような勢いで駆け寄っていった。
私はその様子を見て、何だか胸が締め付けられる思いだった。
彼は、白濱カレンの顔を確認すると、嗚咽まじりに何度も彼女の名前を呼んでいた。
私はそんな彼の背中をしばらく眺めていた。すると、白濱カレンがゆっくり目を開けた。
「あれ……、浩介くん? 来てくれたの?」
白濱カレンは弱々しく微笑むと、小さな声でそう言った。
「ああ、大丈夫だよ。俺が来たから安心してくれ」
佐々木浩介は優しい口調で言うと、白濱カレンの手を握った。
「うん、ありがとう」
白濱カレンはそう言って嬉しそうに笑った。
「あの刑事さん、私のためにわざわざここまで連れてきてくれたんだね」
彼女はそう言って私を見ると、優しくお礼の言葉を述べた。
私はそれに対して「いえ」と短く答えた。
「ところで浩介くん、今って時間ある?」
白濱カレンは佐々木浩介に尋ねた。
「あぁ、もちろん! 何でも話してよ」
佐々木浩介は笑顔で答えると、白濱カレンの顔をじっと見つめながら次の言葉を待っていた。
白濱カレンは、その佐々木浩介の目を見つめながら、消え入りそうな声で語り出した。
「私さ、浩介くんの事本当に好きだったんだよ。でもさ、こんな事になるなんて思ってもみなかった……。だって私達付き合ってまだ2ヶ月くらいしか経ってないじゃん? それに、浩介くんって凄くモテるしさ……、だからきっとすぐ別れることになると思ってたのに……、浩介くんってば毎日のように会いに来てくれて、バイト先にも遊びに来てくれたよね……、すごく楽しかったな……、あんなに楽しいと思ったの初めてかも……、浩介くんと一緒にいる時が一番幸せでした……」
そこまで話すと、白濱カレンは声を押し殺しながら泣いていた。
佐々木浩介はそんな彼女を見て、涙を浮かべながら言った。
「ごめんな、俺が早く気が付いて警察にもっと早く相談が出来ていれば!」
佐々木浩介は悔しそうに拳を握りしめていた。
「うぅん、浩介くんは何も悪く無いよ。悪いのはストーカー犯なんだもん」
白濱カレンはそう言うと、無理に笑って見せた。私は、そんな二人の様子を黙ったまま見守るしかなかった。
しばらくして、落ち着いたのか白濱カレンが口を開いた。
「ねぇ浩介くん、最後にひとつだけお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」
佐々木浩介は彼女の言葉を聞くと、大きく首を縦に振った。「いいぞ、なんでも言ってみな」
白濱カレンは佐々木浩介の返事を聞いて嬉しそうに笑うと言った。
「じゃあさ、キスして欲しいな」
白濱カレンの突然の提案に対して、佐々木浩介は戸惑っていた。
「えっ!?」
佐々木浩介はそう言いながらも、どこか期待しているような目で白濱カレンを見ていた。
「ダメ?」
白濱カレンはそう言うと、可愛らしく小首を傾げた。
佐々木浩介は、彼女のその仕草にやられたのか、照れくさそうに頬を赤らめていた。
「分かったよ」
佐々木浩介はそう言うと、白濱カレンの肩にそっと手を置いた。
そして、ゆっくりと顔を近づけていった。
私はそんな二人の様子を見ているうちに、何だか恥ずかしい気持ちになったので目を逸らしてしまった。
しかし、すぐに気になってチラッと様子を伺い見ると二人は唇を重ねようとしていた。
私は慌てて目を逸らしたが、その後すぐに大きなため息が出た。
それからしばらくの間、私はどうしようか迷っていたが意を決して病室に入った。
そして、佐々木浩介の耳元に口を寄せると囁いた。
「すいません、ちょっとよろしいですか?」
私がそう言うと、彼は驚いたようにビクッと体を震わせたあと、ゆっくりと振り返った。
私は彼に厳しい視線を向けると、そのまま続けた。
「今は捜査中ですので、そういう事は署に戻ってからにして下さい」
私が少し強めの口調で言うと、佐々木浩介は申し訳なさそうな顔で言った。
「す、すみませんでした……」
彼はそう謝ると、白濱カレンの方を向いて言った。
「じゃあ、また来るよ」白濱カレンは、そんな彼の表情を寂しげに見つめていた。
それから彼は、私に向かって言った。
「では、行きましょう」
私は無言のまま小さく頭を下げた。
それから私たちは車に戻ると、急いでO県警へと戻った。
私は運転をしながら、バックミラー越しに佐々木浩介の様子を確認した。
すると、彼は窓の外を見ながら何か考え事をしていたようだったが、やがてこちらに向き直って言った。
「あの、1つ聞きたいことがあるんですけど良いですか?」
私は「はい」と短く答えた。
「あの刑事さん、もう1人犯人がいます。橘結衣という女です、彼女がアパートに不法侵入していましたので、私的逮捕しています。後その時の会話内容のレコーダーです。」佐々木浩介はそう言って、鞄の中からボイスレコーダーを取り出して私に差し出した。
私はそれを受け取ると、再生ボタンを押して内容を確認することにした。
そこには、橘結衣の声が録音されていた。
「決まってるじゃん、嫌がらせに来たのよ」
「白濱カレンが、どうなるかなー、無事戻れるかナぁ、アハ!」
「あんたが何もしなくても、この子は明日には有名人よ、AV女優や風俗嬢並のテクニシャンにだもんね! ざまぁみろ!」
彼女はそう言って笑っていた。
私はそこで再生を止めると、佐々木浩介に尋ねた。
「彼女は今どこにいるのでしょうか?」
「俺のアパートです、タイラップで手首と足首を固定しています。見張りはうちの猫が見ています。多分カグラれていますから」
佐々木浩介はそう答えると、続けて話した。
「ちなみに、そのテープはコピーしたものなので証拠能力はありませんが、一応渡しておきます。」
私は佐々木浩介の話を聞き終わると、すぐに車をUターンさせて、彼の家へと向かった。
私はアパートの前に車をつけると、運転席を飛び出して階段を駆け上がった。
2階に着くと、勢いよくドアを開けて部屋に入ると、奥の部屋に向かった。そして、ドアを開けるとそこにいたのは、拘束されている橘結衣の姿だった。
彼女の姿を見た瞬間、私の怒りが爆発した。
私は彼女の胸ぐらを掴み、思いっきりビンタをしたくなる衝動を抑え、
「19時23分不法侵入及び誘拐幇助の罪で現行犯逮捕します。」
なるべく冷静に彼女の手首と足首のタイラップを切り取り、解放し代わりに手錠を掛ける。
犯人と情報提供者を同一車内に出来ないので応援のパトカーを待つ、
その間に彼女から事情聴取をすることにした。
「あなたは何故ここに来たのですか?」
私がそう聞くと、彼女は薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「別に?ただの暇つぶしさ、あいつがどんな顔するのか見たかっただけ」
「それだけですか?」
私はじいっと目を合わせ、彼女に問いただす。
すると、彼女の目から大粒の涙が浮かび
声を震わせ
「助けて下さい、動画や画像で脅されて...」
彼女の涙ながらの訴えを私は聞き入れ、宮園 大甲や実行犯の自宅にガサ入れする為の令状の手配をするのだった。
私は淡々とした口調で言った。
「はい……」と、男の声が聞こえた。
「実は、以前から相談のありました白濱カレンさんの事件の捜査を担当しておりまして、お話したいのですけど……」
私がそう言うと、電話の向こう側でしばらく沈黙があった。そして……、
「ああ、あの時の刑事さんですか? 分かりました」
男はあっさりと了解して、「ちょっと待って下さいね」と言ってから電話を保留にしたようだった。
すぐにカチャッという音が聞こえて、
「どうぞ……」と声が聞こえてきた。
「失礼します……。先日はどうも」
私は挨拶をしてから本題に入った。
「えー、本日の14時32分頃に起きました、白濱カレンさんの誘拐未遂事件の
計画の首謀者のである宮園 大甲と実行犯2名と関係者3名を逮捕しましたので、面通しのお願いと白濱カレンさんのお迎えをお願いします。」
私がそういうと、受話器の向こう側から「うわっ!」と言う驚きの声が上がった。
「そいつら全員捕まったんですか!? マジかよ! 嘘だろ!! やったぜ!!」
男は興奮したように言って、「すぐ行きます!」と言った。
それから5分もしないうちに男がやってきた。
彼は私の顔を見るなり、「あっ、あの時の!」と大きな声で言った。
私は彼に、「佐々木浩介さんですよね?」と聞いた。すると男は嬉しそうな顔をしながら答えた。
「はい、そうです。覚えていてくれたんですね」
彼は笑顔で言うと、私の顔をじっと見つめていた。
私はそんな彼の目をまっすぐに見ながら質問をした。
「あなたは白濱カレンさんとどのような関係でしょうか?」
すると、彼は少し困ったような表情を浮かべてから答えた。
「彼女は俺の彼女なんです」
私はその言葉を聞いて思わず目を見開いた。
「彼女? それはどういうことでか?」
私が聞き返すと、佐々木浩介は苦笑いしながら言った。
「あー、いや……、正確には違うんだけど……。なんていうかなぁ……」
歯切れの悪い返事をする彼を見据えたまま、私は続けて質問した。
「じゃあ、白濱カレンさんとはどんな経緯で出会ったのですか?」
「彼女と同じ大学に通っていまして、因みに同じバイト先だったので、そこで知り合って……、なんだかんだで付き合うようになりました」
佐々木浩介は答えると、また困り果てたような顔になった。まあ私は知ったこっちゃない無いんだけど恋人同士になった時に何かあったのだろうか?そう云えば彼女の調書を取った時の住所が彼の住所と同じだったような
「それで、白濱カレンさんを誘拐に気が付いたのはどうしてですか?」私が聞くと、佐々木浩介は眉間にシワを寄せて苦しそうな表情になりながらも口を開いた。
「実は、彼女がストーカー被害に遭っていて困っているという相談を受けたんです。それで、犯人を捕まえる為に協力してくれないかという事になって……」
「なるほど、それでは何故、計画が発覚したのですか?」
私がさらに尋ねると、佐々木浩介は苦々しい表情を浮かべて黙ってしまった。
しばらくしてから重い口を開けて語り出した。
「実は、彼女に頼まれてデートの時に後をつけていた奴がいたみたいなんです。でも、その時は何も無かったんですけど、後日、バイト先のロッカールームで着替えているところを写真に撮られてしまっていて、それがSNS上にアップされてしまったんです」
私はそれをきいた瞬間、自分の耳を疑った。まさか容疑者がそこまでやるとは思わなかったからだ。
「それは本当なんですね?」私が念押しするようにきくと、佐々木浩介は小さく首を縦に振った。
「はい、間違いありません」
そう言って彼は真剣な眼差しで私を見た。
しかし、すぐに視線を逸らすと暗い顔で俯いてしまった。
私はため息をつくと、彼に向かって言った。
「犯人について隠している事は無いですか?」
私は彼が他に何かを知っていると思い
カマをかけたのだが、彼は何も知らないのか黙ったままだった。私はもう1度大きく溜息をついたあと、佐々木浩介の方を向いて言った。
「とりあえず、あなたには署まで同行願います」
私がそう言うと、彼は一瞬驚いたような表情を見せた後に申し訳なさそうな顔で言った。
「えっと、カレンは病院に居るのですよね、早く面通しを終わらせましょう、カレンの顔を見たいんで!」
佐々木浩介はそう言うと、焦るように歩き始めた。
私はそんな彼の後ろ姿を見ながら、呆れたように呟いた。
「まったく、この男は何をしているのやら……」
私は急いでいる様子の佐々木浩介を落ち着かせると、面通しの前に簡単に事情を説明した。
すると彼は、少し落ち着いたのか落ち着きなく動かしていた手を止めた。
そして、ゆっくりと深呼吸をしてから言った。
「分かりました。よろしくお願いしす」
私は無言のまま軽く頭を下げた。
それから私は、白濱カレンがいる病室に向かった。
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私はその様子を見て、何だか胸が締め付けられる思いだった。
彼は、白濱カレンの顔を確認すると、嗚咽まじりに何度も彼女の名前を呼んでいた。
私はそんな彼の背中をしばらく眺めていた。すると、白濱カレンがゆっくり目を開けた。
「あれ……、浩介くん? 来てくれたの?」
白濱カレンは弱々しく微笑むと、小さな声でそう言った。
「ああ、大丈夫だよ。俺が来たから安心してくれ」
佐々木浩介は優しい口調で言うと、白濱カレンの手を握った。
「うん、ありがとう」
白濱カレンはそう言って嬉しそうに笑った。
「あの刑事さん、私のためにわざわざここまで連れてきてくれたんだね」
彼女はそう言って私を見ると、優しくお礼の言葉を述べた。
私はそれに対して「いえ」と短く答えた。
「ところで浩介くん、今って時間ある?」
白濱カレンは佐々木浩介に尋ねた。
「あぁ、もちろん! 何でも話してよ」
佐々木浩介は笑顔で答えると、白濱カレンの顔をじっと見つめながら次の言葉を待っていた。
白濱カレンは、その佐々木浩介の目を見つめながら、消え入りそうな声で語り出した。
「私さ、浩介くんの事本当に好きだったんだよ。でもさ、こんな事になるなんて思ってもみなかった……。だって私達付き合ってまだ2ヶ月くらいしか経ってないじゃん? それに、浩介くんって凄くモテるしさ……、だからきっとすぐ別れることになると思ってたのに……、浩介くんってば毎日のように会いに来てくれて、バイト先にも遊びに来てくれたよね……、すごく楽しかったな……、あんなに楽しいと思ったの初めてかも……、浩介くんと一緒にいる時が一番幸せでした……」
そこまで話すと、白濱カレンは声を押し殺しながら泣いていた。
佐々木浩介はそんな彼女を見て、涙を浮かべながら言った。
「ごめんな、俺が早く気が付いて警察にもっと早く相談が出来ていれば!」
佐々木浩介は悔しそうに拳を握りしめていた。
「うぅん、浩介くんは何も悪く無いよ。悪いのはストーカー犯なんだもん」
白濱カレンはそう言うと、無理に笑って見せた。私は、そんな二人の様子を黙ったまま見守るしかなかった。
しばらくして、落ち着いたのか白濱カレンが口を開いた。
「ねぇ浩介くん、最後にひとつだけお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」
佐々木浩介は彼女の言葉を聞くと、大きく首を縦に振った。「いいぞ、なんでも言ってみな」
白濱カレンは佐々木浩介の返事を聞いて嬉しそうに笑うと言った。
「じゃあさ、キスして欲しいな」
白濱カレンの突然の提案に対して、佐々木浩介は戸惑っていた。
「えっ!?」
佐々木浩介はそう言いながらも、どこか期待しているような目で白濱カレンを見ていた。
「ダメ?」
白濱カレンはそう言うと、可愛らしく小首を傾げた。
佐々木浩介は、彼女のその仕草にやられたのか、照れくさそうに頬を赤らめていた。
「分かったよ」
佐々木浩介はそう言うと、白濱カレンの肩にそっと手を置いた。
そして、ゆっくりと顔を近づけていった。
私はそんな二人の様子を見ているうちに、何だか恥ずかしい気持ちになったので目を逸らしてしまった。
しかし、すぐに気になってチラッと様子を伺い見ると二人は唇を重ねようとしていた。
私は慌てて目を逸らしたが、その後すぐに大きなため息が出た。
それからしばらくの間、私はどうしようか迷っていたが意を決して病室に入った。
そして、佐々木浩介の耳元に口を寄せると囁いた。
「すいません、ちょっとよろしいですか?」
私がそう言うと、彼は驚いたようにビクッと体を震わせたあと、ゆっくりと振り返った。
私は彼に厳しい視線を向けると、そのまま続けた。
「今は捜査中ですので、そういう事は署に戻ってからにして下さい」
私が少し強めの口調で言うと、佐々木浩介は申し訳なさそうな顔で言った。
「す、すみませんでした……」
彼はそう謝ると、白濱カレンの方を向いて言った。
「じゃあ、また来るよ」白濱カレンは、そんな彼の表情を寂しげに見つめていた。
それから彼は、私に向かって言った。
「では、行きましょう」
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それから私たちは車に戻ると、急いでO県警へと戻った。
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すると、彼は窓の外を見ながら何か考え事をしていたようだったが、やがてこちらに向き直って言った。
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私は「はい」と短く答えた。
「あの刑事さん、もう1人犯人がいます。橘結衣という女です、彼女がアパートに不法侵入していましたので、私的逮捕しています。後その時の会話内容のレコーダーです。」佐々木浩介はそう言って、鞄の中からボイスレコーダーを取り出して私に差し出した。
私はそれを受け取ると、再生ボタンを押して内容を確認することにした。
そこには、橘結衣の声が録音されていた。
「決まってるじゃん、嫌がらせに来たのよ」
「白濱カレンが、どうなるかなー、無事戻れるかナぁ、アハ!」
「あんたが何もしなくても、この子は明日には有名人よ、AV女優や風俗嬢並のテクニシャンにだもんね! ざまぁみろ!」
彼女はそう言って笑っていた。
私はそこで再生を止めると、佐々木浩介に尋ねた。
「彼女は今どこにいるのでしょうか?」
「俺のアパートです、タイラップで手首と足首を固定しています。見張りはうちの猫が見ています。多分カグラれていますから」
佐々木浩介はそう答えると、続けて話した。
「ちなみに、そのテープはコピーしたものなので証拠能力はありませんが、一応渡しておきます。」
私は佐々木浩介の話を聞き終わると、すぐに車をUターンさせて、彼の家へと向かった。
私はアパートの前に車をつけると、運転席を飛び出して階段を駆け上がった。
2階に着くと、勢いよくドアを開けて部屋に入ると、奥の部屋に向かった。そして、ドアを開けるとそこにいたのは、拘束されている橘結衣の姿だった。
彼女の姿を見た瞬間、私の怒りが爆発した。
私は彼女の胸ぐらを掴み、思いっきりビンタをしたくなる衝動を抑え、
「19時23分不法侵入及び誘拐幇助の罪で現行犯逮捕します。」
なるべく冷静に彼女の手首と足首のタイラップを切り取り、解放し代わりに手錠を掛ける。
犯人と情報提供者を同一車内に出来ないので応援のパトカーを待つ、
その間に彼女から事情聴取をすることにした。
「あなたは何故ここに来たのですか?」
私がそう聞くと、彼女は薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「別に?ただの暇つぶしさ、あいつがどんな顔するのか見たかっただけ」
「それだけですか?」
私はじいっと目を合わせ、彼女に問いただす。
すると、彼女の目から大粒の涙が浮かび
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