異世界の歩き方

月野片里

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零章 始まりはドタバタで

迷走回廊3

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身延さん達と別れ、バラクバと2人街まで近づいて行く途中、とても奇妙な場所に来てしまった。
それは、今まで見たこともないような変わった場所だ、まるで江戸時代の農村のような光景が広がっていたのだ。
「なあ?ここって、もしかして?」
「いえ、江戸時代ではありません、ここは迷走回廊です魂に罪が刻まれた者達が集う場所です」
俺の問いかけに、即座に否定の言葉が返ってきた。
魂に罪が刻まれた者か・・・つまりは前世での悪業があった者達がこの世界で巡り会うという事なのか? だとしたら、俺の知り合いもいるのか? そんな事を考えているうちに、いつの間にか目の前には数人ほどが暮らす小さな集落が現れた。
どうやらここが目的地らしい。
その集落を歩いていくと、一軒の家の前で立ち止まった。
そして、扉を開けるように促してきたので、言われるままに中へと入っていった。
家の中に入ると、そこには1人の老人がいた。
「お久しぶりですね、鬼から人に戻られたのですね。」
バクラバがそう言うと老人は厳しい顔をし、バクラバを睨みつけると、
「72年鬼として人に罪に対し罰を与える為だけに存在していました。私は、罪を償ったとは思っておりません。ただ、私にも家族がいる身なので、人として生きていくしかないのです。」
と、苦しそうな表情をしながら答えた。
すると、バクラバは申し訳なさそうにしながら、
「わかりました。貴方には迷走回廊を出て白亜の原に行く許可を出しましょう。そして、これからは人として生きていってください。では、またいつか会いましょう。」
と言い残して家を後にした。
俺はその後を追って外に出ると、すでにバクラバの姿はなく、代わりに一人の女性が立っていた。
「バラクバ様からの伝言です、迷走回廊で起こる出来事を見てる行きなさいと、後は駅には近づいて行かない様にとの事です。」
そう言い残すと、女性もどこかに行ってしまった。
とりあえず言われた通りに駅の方に近づかないようにしよう。
それにしても不思議な場所だ、今いるこの場所には人影がなく静まり返っている。
少し歩いていると、ふと視線を感じ振り返ると、一人の少年がじっとこちらを見つめていた。
年齢は10歳くらいだろうか?髪の色こそ違うものの、どことなく雰囲気が似ている気がする。
声をかけようと近づくと、その少年は怯えるように逃げていった。
なぜあんな所に子供が一人でいたんだろう? 疑問に思いながらも、とりあえず少年が逃げて行った方向へと進んで行く事にした。
少年が逃げた場所に近付くに連れて周囲の光景が少しずつ血なまぐさいような、何とも言い難い音が聞こえて来るようになってきた。
音を頼りに進んでいくと、そこは墓地だった。
辺り一面に墓標が立ち並んでいる。
その中の一つにさっき見かけた少年が隠れているようだ。
俺はそっと墓石の裏を覗き込むと、そこには一人の少女が倒れこんでいた。
よく見ると先ほどの少年とそっくりな顔立ちをしている。
気を失っているようで動かない。
「おい!大丈夫か!」
慌てて駆け寄り抱き起こすと、女の子はうっすらと目を開けると、眼から血の涙を流し金切り声をあげ始めた。
「あああぁぁぁ!!お前のせいで、お前のせいで!!」
そう叫ぶと再び意識を失ったようで倒れこんでしまった。
一体どういう事なんだ? 困惑していると、急に後ろから声を掛けられた。
「その子から離れろ、死にたくなければな」
振り向くとちぎれた自身の首を抱えた少年がいた、俺は自分の見た光景とても信じられなかった。
「ちっ、千切れ…て、ウソだ...」
何故だか分からないが、俺は狼狽えてしまった。
「そんなに、狼狽えないで下さいよ、もうこれ以上は死ぬことは無いんで大丈夫ですから。」
少年は、見た目の年齢に反しとても落ち着いた口調で淡々と語り出した。
「お兄さん驚いていますね、こんな外見していますがもう死んでから30年ほど此処にいますからお兄さんより年上ですよ」なんと俺より年上らしい、少年の話は続いていく、
「此処は、迷走回廊という所です、此処では比較的罪の軽い者達が集められていて鬼に管理されていて、此処にいるもの達同士で罪に対した罰を与え合うですよ。」
「此処は地獄なのか?、罪とか罰とか何なんだよ!」俺はつい大声で叫んでしまった。
「地獄ではないですよ、ここは天国でもありません、ただ、罪に対する罰を受け続ける場所です。」
「そんな、罰を受ける為に生きているなんておかしいじゃないか、」
「そうかもしれません、でもこれしか生きる道がないんです。」
「そんなの間違ってる、もっと別の方法があるはずだ。」
「いえ、無いんですよ。」
「じゃあ、なんの為に生き続けているんだ?」
「罰を受けて、罪を償い続けなければならないからです。」
「罪って、どんな罪だよ。」
「色んな罪があります。盗みや殺人、他にも数えきれないほど沢山の罪があります。」
「なら、俺もその罰を受けた方がいいんじゃないか?あなた達と同じ様に。」
「それは無理ですね、だってお兄さんの場合は生きた身体が現世にあるんでしょ!」そうだ俺は此処では部外者なのだな。
「それはそうと、お兄さんはこの場所の説明ついでに案内をするよ、首を繋げた後になるけど」少年は胸の前で持っていた首を頭の位置まで上げると首の肉がゆっくりとくっ付くのであった、「見ていて気持ちが悪いでしょう」確かにグロテスクだが不思議と吐き気はしない、これが慣れというものだろうか?
「では行きますか!アッ彼女も目が覚めたみたいですね。」
俺の後ろで少女が目を覚ましたのだが、少女はゆっくりと辺りを見渡した後急に頭を掻き毟り叫び声を上げた。
「イヤだ、イヤだ、鬼になんか成りたくない!」
少女は、眼から血の涙を流しながら叫ぶ、その間も少女の変化は続いている、肌の色が薄橙色からうっすらと赤色へと変わり始める、少女の叫び収まりだした頃それは来た、辺り一面に不快なノイズを響かせながら少女の近くの空間が揺れ動く、さらに大きなノイズが響いた、次の瞬間そこには黒いモヤと巨大な赤い瞳が浮かび上がっていた。
「ああ、来ちゃったか、まあいいか、お兄さん逃げて!」
少年は、そう言うと少女の方に向かって走り出す、俺は訳が分からずその場に立ち尽くしていた。
「お兄さん!早く逃げて!」少年はそう言い残すと巨大な赤眼の前に立ち塞がり何かを呟いている。すると巨大眼から伸びた腕のような物が少年を掴むと少年を引き裂いた。
一瞬の出来事だった、少年の身体はバラバラになり、血飛沫を上げながら宙を舞っている。そして、少年の頭が地面に落ちる前に、黄金色の疾風が舞い上がった。そこには、少年の頭を優しく受け止めるバラクバが居た。少年の頭を優しく撫で、俺の方に近付いてくる。
俺は、あまりの事に声が出せなかった。
少年の頭部を俺に差し出してくる。
俺は、少年の頭部を受け取ると、そっと抱きしめた。
少年の頭部をそっと抱きかかえると、俺は静かに涙を流す。
少年の優しさが胸に染みてくるようだった。
「ありがとう」
俺は、少年の頭を抱きしめると、感謝の言葉を口にする。
「少年よ、君のおかげでこの子は救われた、本当にありがとう。」
「お兄さん、まだ終わってないよ、その子を連れて逃げて下さい。」
「しかし、君はどうなるんだ?」
「僕は、大丈夫ですから、その子を守ってあげてください。」
「分かった、必ず助けに戻るから待っていてくれ!」俺は少年の頭に別れを告げると、女の子の手を取りその場から離れる、振り返らずひたすら走った。突如、後ろからの衝撃で俺だけ弾き飛ばされる、衝撃で飛びそうな意識を気力で保ち少女のいる方を見る、黒いモヤが少女を飲み込もうとしている、少女は悲鳴を上げることも出来ずにただ涙を流しているだけだった。俺は、何も出来ない自分に苛立った。
「頼む、間に合ってくれ!」俺はそう祈りを込めて、再び走り出した。
今度は、先程よりも速く走れていた、少女の手をしっかりと握りしめ必死に走ったはずだった、握り返されていた少女の手の力が無くなり、少女の手が離れる、そこには黒いモヤが少女の身体に取り込まれて行こうとしている姿があった。
「もうダメなのか?」
俺はそう思いながらも、諦めずに少女の元へと駆け寄る。
「お願いだ、もう少しだけ頑張ってくれ!」
俺の声が届いたのか、少女は俺の方を向くと、泣きながら口を開いた。
「助けに来てくれたんだ、ありがとう。デモもう無いみたい......」
少女は力なく応える。
「お兄さん..逃げ..ウ...グ...」
そして少女口から獣の様なうめき声が出てくる、それと同時に少女の身体は痙攣を始め、身体中の皮膚が裂けていく、
「グアアァー」少女は断末魔の叫びと共に、その身体は真っ黒に染まっていき、額から2本の角が生えて、鋭い目つきでこちらを睨みつける
「間に合わなかったか。」
俺が少女だった者を見つめていると、背後からバラクバがやって来てた、目玉の化け物は手強い相手だったらしく肩で息をしている。
「さあ、お兄さん逃げますよ!ここは危険すぎます。」
「そうだな、ここじゃ話も出来んしな。」
俺達は、少女だった鬼をその場に残して、あの場所から逃げ出そうとした、俺は、よくあるライトノベルの様に簡単に逃げ出せると思い込んでいた、鬼はそんな俺の気の緩みを突いてきた、俺達が振り向いた先にはすでに奴の姿は無かった、次の瞬間には目の前にいて、俺達を捕まえようと両手を伸ばしてきた。
「危なかったな、お前が油断するからだぞ!」
俺はそう言いながら、バラクバに抱えられ何とか避ける事が出来た。
「すまない、助かった。」
「礼を言うのはまだ早い!まだ、ヤツの感知範囲だ追いつかれる。」
そう言いながら、俺を抱えたまま走り続ける。
しばらく走ると、前方からまたもや黒いモヤが現れて追ってくる。
「しつこいですね、これは厄介だ。」
バラクバはそう言い、手に持っている錫杖をかまえると、何かを呟いた。
すると、俺達の前方に魔法陣みたいな物が現れた。
俺達は、バラクバに無理やり魔法陣の中に閉じ込められた
「バラクバ、何故だ」
バラクバは、悲しそうな顔つきで、
「短い付き合いでしたが、楽しかったですよ、此処は私が援軍が来るまで持たせます」
そう言うと、彼は鬼に対して攻撃を始めた。鬼は、バラクバを嘲笑うかのように黒いモヤになり攻撃を躱し、バラクバを一方的にいたぶる様に攻撃を仕掛けてくる。俺は、何もできない自分が悔しくて仕方がなかった。
「早く....援軍よ..早く....,」
バラクバは、そう言いながらも鬼の攻撃を避け続けている。
しかし、ついにその時が来た。
「グアァッ」
黒いモヤの腕がバラクバを捕らえたのだ。
「今です、お兄さん、逃げて下さい。」
「何言ってんだよ、見捨てられるわけないだろ。」
「私なら大丈夫です。」
だが、バラクバは粉々に砕け散っていく、魔法陣も彼と同時に砕け守られるものの無い俺は魂の消滅を覚悟した。俺は、迫り来る恐怖に目を閉じた。
ドカーン!!!!! 大きな爆発音が鳴り響いた。
俺は恐る恐る目を開けると、そこには、見たことのない服を着た一人の少女が立っていた。
「誰なんだ?」
俺はそう思った、すると後ろから誰かが走ってきた
「間に合いましたね」
少女は、バラクバが使っていた錫杖を拾い上げると、軽く横凪に一閃すると届く範囲にいないはずの鬼の胸から黒い血のようなものが吹き出した。
「グアアァァー」
少女は、まるで虫でも見るかのような冷たい眼差しで、鬼を見る。
「貴方は一体……?」
俺が尋ねると、少女はこちらを振り返り優しく微笑むと、
「私は、地蔵ですよ、バラクバがとても頑張ったのでご褒美で来ちゃいまた。」
少女は、鬼の攻撃を軽くいなしては叩きをしながら答える、「そうか、地蔵様が助けてくれたのか、ありがとうございます。」
俺がお礼を言うと、少女は少し困った顔をした。
「いいえ、私はただの地蔵なので気にしないでください。それより、この子を助けたいですか?」
「助けたいに決まっています。」
俺が力強く答えた。
「わかりました、では、この子を救いましょう。」
少女がそういうと、辺り一面が光り輝いた。
光が収まると、そこに居たのは、先程までの鬼ではなく、黒髪の美しい少女だった。
少女は、ゆっくりと目を開くと、少女の目から涙がこぼれ落ちる。
「お兄ちゃん?どうして?」
俺には、何も言え無かった、バラクバという犠牲があったから助かったら。俺は何もできなかったのだから、
「ごめんな……」
俺は謝ることしか出来なかった。
「お兄ちゃんのせいじゃないよ、私が弱いからいけないの。」
そう言うと、彼女は泣き崩れた。
「今は泣いても良いんだぞ。」
俺の言葉を聞いて、少女は声を出して泣いた。俺は、彼女の頭を撫でる事しか出来ない自分を恨めしく思っていた。
「さあ、お兄さんそろそろ行きますね。」
「何処に行くんですか?」俺が尋ねると、地蔵が口を開いた。
「私の本体がある場所へ、お兄さん達には新しい案内人を手配しますね」「待って下さい、俺にも手伝わせてください。」
俺がそう頼むと、
「ダメです。貴方はまだ自分の力を理解していません、それに今のあなたに出来る事なんて何もありませんよ」
確かにその通りだと思った。俺が無力で何も出来無いのなら足を引っ張るだけだ。
「分かりました。」
俺がそう言うと、
「聞き分けの良い子は好きですよ、それじゃまた会いましょう。」
そう言い残し、俺達は意識を失った。
俺達が次に目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
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