悲劇の少年

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悲劇の少年

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ある所に一人の少年がいた。その少年は自分の人生を一言で例えろと言われたら真っ先に答えたのは「悲劇」だった。
 彼はまだ小さな妹と両親の四人で暮らしていた。そう、していたのだ。それは突然だった。彼の父の会社が倒産し僕らは多額の借金を負った。彼と彼の父の人生の全てを借金返済に費やしても返しきれない程大きな借金だった。
 どこからその情報が漏れたのか。彼は学校でいじめられるようになった。さらに不幸は重なるもので彼の母に末期の癌が見つかった。担当医いわく
「はっきりと申し上げますが、回復の兆しは見えず、時間もあまり残されていません。通院しながらご自宅でご家族と過ごされるのがいいでしょう。」
 とのことだった。それを聞いて気が狂ってしまったのか、彼の父は自室に籠るようになってしまった。時々部屋の前を通ると「カタカタ」とキーボードを叩く音が聞こえた。そしてそれは三日間もの間続いた。
 音が鳴り始めて四日目の朝、彼は学校に行くためという口実で家を出た。普段から学校へは行ってかった。適当にその辺りをフラフラとし、良い頃合になったら家に帰るのだ。
 その日もまた四時頃になり、
「そろそろ帰ろうか。」
 と家に向かうと、家へ向かう一本道に人集りが出来ていた。
「嫌ね~一家心中ですって、これは家族全員助からないわね~。」
 そんな声が周囲からヒソヒソと聞こえてくる。彼は人集りを押しのけその最前列へと進んだ。
 その先に広がっていた光景に彼は言葉を失った。今朝までそこに普通にあった自分の家が煌々と燃えていた。
 彼は少しの間それを眺めていたが、光の灯らない暗い目でなにかを見据え、トボトボと歩き出した。
 十分ほど歩いただろうか、彼は十三階立てのマンションの屋上にいた。もうお分かりだろう。飛び降りだ。家族は皆、彼を置いて行ってしまった、こうするしか道はないと彼は考えたのだった。
 屋上の緣に立ち、これから身を投げる先を見る。余程の度胸がなければ足が竦むほどの高さだったが、彼は開放感すら覚えていた。
 数秒が経ち、意を決して全身の体重を前へとかける。地面に吸い込まれるように落ちていく。そしてそのまま下にあった車に……
 ぶつからなかった。いや正確にはぶつかったのだが痛みがなかった。即死したからとかそういうものではない。車がトランポリンのように跳ねたのだ。跳ね飛ばされた勢いで電柱に思い切りぶつかる。するとどうだろう、目が回ると同時に、ちょうど海外のギャグアニメのような星が頭の上を回った。彼は納得出来ず、何故か近くにあったナイフを手に取り自分に突き刺す。が、今度はナイフの刃の方が曲がってしまった。
「何故死ねないんだ!俺はさながら悲劇の主人公のような人生を歩んできたのに!なんで神様は死ぬことを許してくれないんだ!」
 そこで彼は何かに気づいた。そしてしばらくして
『あぁそうか、そういうことか。』
 それに気づいた途端、不気味なほど彼の中で合点がいった。
 そう彼は「悲劇の少年」ではなく「喜劇の少年」だったのだ。
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