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第4話 渚のダイダラぼっち その1

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比呂乃は店の後片付けをしながら、久しぶりに、テラス席に出て、夜風にあたりながらリフレッシュしようと思いついた。
蜂蜜入りのカモミールをいれて、先程目を通した「僕らの地球」という物語のことを思った。さっきまで店にいた麻ちゃんがコピーを置いていったのだ。
「これ、ステキだったわよ。良かったら、読んでみて。」
「私も小さい頃、いろいろ書いてたのを思い出したわ。」と言って。

比呂乃はすぐに判った。誰が書いたのか。
比呂乃の物語と登場人物がシンクロしたし、第一、本人が印を残していた。
貴和子だ。貴和子が書いたのだ。
ガゼルが言っていた、貴和子がよくやっているというのはこのことだったのだ。
貴和子はしばらく比呂乃の前には現れないが、存在が確認できて正直ホッとするのだった。
「良かったわ。」
比呂乃が呟いた時だった。
今は葉緑の繁った桜の陰から、

「ええ、良かったわ。」と言って、貴和子が現れた。
「貴和子。」
「やっと気がついてくれたわ。お久しぶりね、比呂乃。」
そう、久しぶりに見た貴和子は、様子がすっかり違っていた。
ゆったりした白いロングスカートには、ところどころすみれ色の小さな花が刺繍してある。チュニックも薄いラベンダーで合わせ、軽やかで柔らかな品を感じさせた。

「しばらく見ないうちに変わったね。」
「そうかもね。」
「貴和子も、いろいろあったのね。」
「比呂乃もね。」
二人は微笑みあった。
比呂乃は貴和子にお茶をすすめ、貴和子は口にした。
「ガゼルが、貴和子によろしくって。」
「ええ、分かっているわ。そもそもは私の創作でしたもの。」
貴和子はお茶をもう一度含んだ後、物語のことを話し出した。
「あの日」
「あなたとクニちゃんが湖畔に居て、砂浜で山崩しをした日」
「浜に居た、「きわこ」という女の子、あれが私のモチーフだったの。」
比呂乃は先程読んだ物語の中にあった貴和子の印を思った。
「分かりやすくサインを残してあったでしょう。」
貴和子が話すのを黙って聞いていた比呂乃は、もう一人の自分に問いかけた。
「どうしてそんなことしたのかしら?」
貴和子はクールだ。
「女の子が必要だったの。クニちゃんのために。」
「あっ。そんな。」
「クニちゃんとの結婚を夢見る為に、女の子を取り込まないといけなかったの。」
「そんな・・・」
「あるいは、血縁でない関係性が必要だったのかもね。」

随分昔のことだが、自分がそんな厄介なことをしたとは思いもよらなかったけれど、一旦受け入れさえすれば切り替えの早い比呂乃は、
「苦肉の策だったわけね。」と整理した。
「今となっては不思議な話だけど。当時は一旦は必要な作業だったのね。」貴和子が今度は優しく言った。
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