上 下
267 / 271
ラスト・コンテクスト Part2

プリマキナ・オルソグナス(9)

しおりを挟む
「童仙さん!」

カップとブレーズ、アサヒが童仙の落下した方へと走っていった。

「くそっ! だがとにかく、俺たちの内ほとんどは森まで到達したぞ! おーい急げ!」

フランシスが広場の中央、まだコチラに向かって走ってきている途中のジュディとヴェルメロス一行に叫ぶ。
その向こうで“蜘蛛”は、遠藤とカオルに相対しながらも、何かコレまでにない体勢を取りつつあった。

「あ……マズいかも」

ツヅキは真っ先に、ソレを見てポツリと呟いた。


◇◇◇


カオルは吹き飛ばされた童仙の名を呼び、振り向いたままの状態だった。
遠藤は相手から目を離すコトなく、しかし背後のカオルに言う。

「カオルちゃん、とりあえずだが、ミサイルも迎撃したコトだし僕の武器だけではアレに対抗できそうにない。僕らもどの方向でもいいが、森の中にもう逃げるべきじゃああるまいか」

「そ、そうですね。賛成。賛成です」

カオルが前を向き直す。
目の前の巨体が、前脚を伸ばして後ろ足を曲げ始めた。

(「えっと、何て言うんだっけコレ。この猫みたいなポーズ、ヨガで……。あ、そのまんま『猫のポーズ』だ」)

そのような状況ではないが、そんなコトがカオルの脳裏によぎった。
次の瞬間には、風が強く吹き、蜘蛛の姿はなかった。

「え? ……え!?」

カオルが一瞬前の記憶を呼び戻す。
ソレが戻ってくる前に、遠藤は今の記憶を反芻していた。

蜘蛛は自分たちを飛び越えていった。
遠藤とカオルが最後に見たのは、遥か頭上の蜘蛛の腹のみだった。


◇◇◇


蜘蛛から見て右方向真横の森の縁にいたノワール、龍之介、カトリーヌはその姿をまともに見ていた。

「ちょっとちょっと……アレはマズいんじゃあないですかねぇ……!」

カトリーヌの声にも、いつもの余裕はない。
ノワールと龍之介は固唾を呑んでその光景を見つめるしかなかった。


◇◇◇


森へと走っているヴェルメロスの一行とジュディは、前方で待ち受ける皆の顔色が変わるのを見た。

「どうした?」

思わずオクルスが走りながら言う。
次の瞬間、突風が背後から吹き抜けた。
一瞬、空も暗くなる。

「何!?」

レインスは疑問を呈しながら振り向く。
ララも続いた。

後方にいたはずの蜘蛛がいない。
慌てて前方を向き直した。


◇◇◇


視界の中の蜘蛛がどんどん大きくなってくる。

森の中にいた大勢は、その現実感のない光景から目が覚めるまで少しの間を要した。
そしてソレは、彼らの次の一手を遅らせるのに充分だった。

巨大な蜘蛛が、自らの六本脚の角度を獣の走る時のソレのように変えて突っ込んでくる。
あと数秒で。

「ミサトさん! アサヒくんも聞こえるか! 全員に『50℃弾』だッ!」

「防御ができる人は全員防御魔法を! ソレ以外の人は攻撃して!」

ツヅキとメイが叫ぶ。
皆はそれぞれの役割に急いだ。
敵は自らの最高速度に到達し、森ごと皆に激突する態勢を取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...