266 / 271
ラスト・コンテクスト Part2
プリマキナ・オルソグナス(8)
しおりを挟む
「龍之介殿……!」
ミサイルを龍之介よりも一手早く無力化していた童仙は、龍之介の一部始終を見ていたが、カトリーヌとノワールの動きによって少し安心するコトができた。
そして改めて、前方の敵に向き直す。
「カオル殿! 『50℃』でお願いいたします」
「はっ!? 『50℃』!? ……了解です!」
カオルが童仙に『温度弾』を撃ち込む。
童仙は蜘蛛の左前脚に正対して構えた。
蜘蛛がその脚部を大きく持ち上げる。
童仙を踏みつぶそうとする動きだった。
「童仙さん!」
思わずカオルが叫ぶ。
蜘蛛の足が勢いよく叩きつけられ、その風圧で土煙が舞い上がった。
童仙が一時的に見えなくなる。
遠藤も思わず息を吞んだ。
土煙はすぐに晴れ始めた。
童仙は蜘蛛の足の下で、片膝をついていた。
だが押し潰されてはいなかった。
自らの刀を杖のように下に向け、両の手は柄を握り締めている。
刀は地面と蜘蛛の足裏を結ぶ柱のように立ち、微動だにしなかった。
童仙の怪力と魔力が『100℃弾』で更に強化されているコトと、硬い大地が、一人の人間に巨脚を支えさせるコトを可能とせしめたのだった。
童仙は息を吸い込み、力を蓄え、そして放った。
足の裏からその姿が消える。
地面との接触をようやく許された脚は、先程よりも大きな土煙を唸りと共に舞い上げた。
その重みから脱した童仙は、前足先を切りつけると、そのまま脚を昇った。
斬撃を加えながらその脚の頂上まで達する。
周囲の人間からは、その行為は土煙の中で行われ見えず、厚い金属板を切り裂く音だけが聞こえた。
童仙が煙の上へと姿を現すと、一瞬遅れて刀戟の風圧が土煙を吹き飛ばした。
皆の目にもソレが見えた。
蜘蛛の右前脚の装甲が全て、切り裂かれ剝がれ落ちた。
「いやいや、ソレは凄すぎるだろう童仙殿……!」
遠藤が思わず言う。
森へと走っていたレインスも、振り返って声を上げた。
「おい! チャンスじゃあないか!? 今なら私のライフルで脚部の駆動部を撃ち抜けるかもしれない!」
童仙も落下しながら、脚部の関節を次は狙うつもりだった。
だが
蜘蛛との戦闘最初に、その“目”が破壊しても戻ったように、落下した装甲板が戻り始めた。
特に関節部は素早く、その他の部分は外側になればなるほど緩やかに戻っていく。
森の中にいたミサトが疑問を発する。
「アレも“廃都”とやらのオーバーテクノロジー? 無敵じゃん」
ムサシが答える。
「ダメージに対し自己修復・組織化するナノテクノロジーか、もしくは“廃都”自体の『時間が逆流する性質』を利用したモノかもしれん……。チッ、こんなコトならじっくりあの資料を見とくんだったぜ」
「で、でもじゃあどうすれば」
カップが言い終わる前に、鈍く高い衝撃音が場に響いた。
皆が発生源を向く。
童仙が、再生しつつある脚に、落下途中で膝蹴りを食らっていた。
自らとの間に刀の刀身を挟んだモノの、童仙は龍之介のように吹き飛ばされる。
童仙はヴェルメロス一行とジュディの上空を、空を切る音と共に通過すると、皆のいる森の方向へと等速直線運動を続けさせられた。
「マズい! メイ、いけるか!?」
「防御系の魔法はどっちかというと得意じゃあないけどっ……!」
童仙にメイが杖を振る。
強力な風が童仙に放たれ、その勢いを弱めた。
童仙は樹々の上部の枝々に当たりつつも、ようやく停止した。
森の一行の後ろで、童仙が地面に落ちる音が聞こえた。
ミサイルを龍之介よりも一手早く無力化していた童仙は、龍之介の一部始終を見ていたが、カトリーヌとノワールの動きによって少し安心するコトができた。
そして改めて、前方の敵に向き直す。
「カオル殿! 『50℃』でお願いいたします」
「はっ!? 『50℃』!? ……了解です!」
カオルが童仙に『温度弾』を撃ち込む。
童仙は蜘蛛の左前脚に正対して構えた。
蜘蛛がその脚部を大きく持ち上げる。
童仙を踏みつぶそうとする動きだった。
「童仙さん!」
思わずカオルが叫ぶ。
蜘蛛の足が勢いよく叩きつけられ、その風圧で土煙が舞い上がった。
童仙が一時的に見えなくなる。
遠藤も思わず息を吞んだ。
土煙はすぐに晴れ始めた。
童仙は蜘蛛の足の下で、片膝をついていた。
だが押し潰されてはいなかった。
自らの刀を杖のように下に向け、両の手は柄を握り締めている。
刀は地面と蜘蛛の足裏を結ぶ柱のように立ち、微動だにしなかった。
童仙の怪力と魔力が『100℃弾』で更に強化されているコトと、硬い大地が、一人の人間に巨脚を支えさせるコトを可能とせしめたのだった。
童仙は息を吸い込み、力を蓄え、そして放った。
足の裏からその姿が消える。
地面との接触をようやく許された脚は、先程よりも大きな土煙を唸りと共に舞い上げた。
その重みから脱した童仙は、前足先を切りつけると、そのまま脚を昇った。
斬撃を加えながらその脚の頂上まで達する。
周囲の人間からは、その行為は土煙の中で行われ見えず、厚い金属板を切り裂く音だけが聞こえた。
童仙が煙の上へと姿を現すと、一瞬遅れて刀戟の風圧が土煙を吹き飛ばした。
皆の目にもソレが見えた。
蜘蛛の右前脚の装甲が全て、切り裂かれ剝がれ落ちた。
「いやいや、ソレは凄すぎるだろう童仙殿……!」
遠藤が思わず言う。
森へと走っていたレインスも、振り返って声を上げた。
「おい! チャンスじゃあないか!? 今なら私のライフルで脚部の駆動部を撃ち抜けるかもしれない!」
童仙も落下しながら、脚部の関節を次は狙うつもりだった。
だが
蜘蛛との戦闘最初に、その“目”が破壊しても戻ったように、落下した装甲板が戻り始めた。
特に関節部は素早く、その他の部分は外側になればなるほど緩やかに戻っていく。
森の中にいたミサトが疑問を発する。
「アレも“廃都”とやらのオーバーテクノロジー? 無敵じゃん」
ムサシが答える。
「ダメージに対し自己修復・組織化するナノテクノロジーか、もしくは“廃都”自体の『時間が逆流する性質』を利用したモノかもしれん……。チッ、こんなコトならじっくりあの資料を見とくんだったぜ」
「で、でもじゃあどうすれば」
カップが言い終わる前に、鈍く高い衝撃音が場に響いた。
皆が発生源を向く。
童仙が、再生しつつある脚に、落下途中で膝蹴りを食らっていた。
自らとの間に刀の刀身を挟んだモノの、童仙は龍之介のように吹き飛ばされる。
童仙はヴェルメロス一行とジュディの上空を、空を切る音と共に通過すると、皆のいる森の方向へと等速直線運動を続けさせられた。
「マズい! メイ、いけるか!?」
「防御系の魔法はどっちかというと得意じゃあないけどっ……!」
童仙にメイが杖を振る。
強力な風が童仙に放たれ、その勢いを弱めた。
童仙は樹々の上部の枝々に当たりつつも、ようやく停止した。
森の一行の後ろで、童仙が地面に落ちる音が聞こえた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる