カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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ラスト・コンテクスト Part1

大文字の夜に(19)

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殿を務めているウィーの右足首を、誰かが掴んだ。

「えっ……って、うわぁっ!」

ウィーはそのまま逆さ吊りされた。

「ウィー!」

メイが叫び、杖をだすよりも早く、ウィーは振るっていた。
自らの足首を掴んでいる何かを“ねじ引き裂く”ための空間を現出する。

一歩、いや一手早く、その何かはウィーの足首から離れた。
ウィーは体勢を立て直して着地する。
空中を“右手”が飛んでいく。

「流石に自分の右足ごと潰そうってんだから、早いわね」

右手が飛んで行った先から、女性が姿を現した。
U.J.IはFBUの特捜6課一員、ジュディ・ホロフェルネスだ。

「一人ですかぁ? 足首を掴むなんてイヤらしいですねぇ」

「ええ、私たちは潜入捜査が得意なのよ。だから貴女の前に姿を現すのはとりあえず“敢えて”私だけ」

「ぐわぁっ!」

ウィーから見て左方向奥から声が響いた。
誰かが木々に衝突する音も聞こえる。
ジュディが頭を抱えた。

「誰かさんは潜入操作、得意じゃあないみたいですねぇ」

ウィーの背後、ツヅキ&メイとウィーの間に、あの“壁”が出現していた。

「私の右手を潰そうとした時に、既に展開していたってワケね」

「私も、魔術を“潜入”させるのは得意ですよぉ。ソレに」

ウィーが杖を震わせる。
ウィーの頭周りに、敵を察知する“レーダードーム”が構成された。

「こうすれば皆さん丸裸ですぅ」

「ウィー!」

メイが声を荒らげる。

「この壁、どういうコト? コレじゃあ私たちも貴女を」

「お嬢さま、ソレこそ心を読まなくてもわかるでしょう?」

「だからこそだぞ、ウィー!」

「ツヅキさん、すみません。でも、私が言うコト聞くタイプじゃあない、メイド失格タイプだってのは、もうおわかりですよね? だからこそ、貴方にお願いしたいコトがあります。お嬢さまをお願いできますか? お二人がこの場から充分離れてくれれば、壁を解除できます。その分、私は楽になりますしねぇ」

ウィーがツヅキにウインクをする。
だが、この上もなく儚げなウインクだった。
しかし、ツヅキは現実を判断できない少年ではない。

「……わかった。覗き穴サイズだけ、いいか?」

「?」

頭を傾げながらも、ウィーが壁に小さな穴を開けた。
ソコに、ツヅキが弾丸を撃ち込む。
メイが問うた。

「ツヅキ君!?」

「ウィー、『100℃弾』だ。“鍵”を手に入れたら迎えにくる」

「ツヅキさぁん。お嬢さまのためにも忠告ですが、女の子に約束しちゃあダメですよ。できない約束は、ね」

「ダメよ、ウィー! この壁を解除して」

「メイ!」

メイが驚いて、自らの名を呼んだツヅキを見る。

「メイドがお前に、精一杯のお世話をしてくれようってんだ。ご主人としての振る舞いってモノがあるだろ」

ツヅキが歩きだす。
メイはウィーの方をもう一度見た。
ウィーが二人の方を振り返るコトはなかった。

メイは、唇を噛みしめながらツヅキを追った。

「終わったかしら?」

「ですねぇ。待ってくださって、ありがとうございます」

「いいんだよ。何せ、コレからは」

先程吹っ飛ばされた人――ムサシが木々の中から姿を現した。

「四対一だ」

ムサシの反対側、ウィーから見て右方向奥からはフランシスが姿を現した。
傍らにはアサヒもいる。

「じゃあ、コレは要らないですねぇ」

ウィーは頭部の“ドーム”を解除した。

「と言っても、俺たちだって良い大人だ。寄ってたかってってのも寝覚めが悪くねぇ。ココは投降って形を提案させてもらうぜ。まあ、聞く気は」

「ないですねぇ」

「だろうな」

ムサシが銃を抜き、ジュディが腕を飛ばし、フランシスが投擲した。
アサヒの審査弾も降り注ぐ。

だが、次の瞬間、ウィーの姿が消えた。

「何!?」

フランシスが思わず口にする。
フランシスが投擲した石は、ムサシの弾丸を弾きながら、そのままムサシ本人へと飛来した。

「あっぶねぇ!」

ムサシはすんでのトコロでその石を避けた。
ジュディの手、そして腕は空中で静止している。
ジュディだけが、正面からウィーを見ていたお陰で、見逃さなかった。

ウィーがいた場所、その両サイドに弾丸と石が到達した時、僅かに空間が虹色に“ひるがえった”。
まるで、カーテンが風に凪ぐように。

「四体零なんですよねぇ。私が見えない、って意味で言えば」

「空間魔法……“光を曲げるカーテン”ね。ソレをまるで“試着室”よろしく自分の周囲に展開しながら、移動している」

「不思議な例え方しますねぇ。でも、その通りです。あんまり喋っちゃうと、声で場所がバレちゃいますよねぇ」

全員は少し上方を見上げていた。
声は中空から聞こえる。
皆は、ウィーが空中に“台”を作れるコトを思いだしていた。

「この“透明人間”は、味方にも“誤射”されちゃう可能性があるからいつでもできるワケじゃあないんですけど……今なら存分に発揮できちゃいますよねぇっ!」

ジュディ、フランシス、そしてムサシは、自分たちの頭のすぐ傍にソレが近づいて初めて、その虹色に気づいた。
すんでのトコロでその“虹色の球体”を避ける。
その球体は皆から離れると再び見えなくなったが、その飛んで行った方向で、木々を引き裂き粉砕した。

「“空間からの色”が皆さんを襲います。だから皆さんのいるこの空間を支配してるのは、私の方ですねぇ」

「面白くなってきたじゃあねえか!」

ムサシが鬨の声を上げる。
U.J.Iの全員の攻撃が、中空へと向けられた。
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