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ラスト・コンテクスト Part1

大文字の夜に(10)

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カップは先程まで重力によって自分もろともとは言え、手中に収めていた他国の相手たちが、自らの射程距離圏内から離れていくのを歯痒い思いで感じていた。
自らの旅の仲間たちより先に追いついてきた南山城国の人々――童仙たちにさらに先を越されないためには、重力を解放するしかなかったが、

「まさかキミと正面衝突するコトになるとはね!」

樹の影から樹の影へと走りながら、遠藤が射撃してくる。
カップは散弾を重力で斜め上へ弾くと、そのまま操って遠藤に向かわせた。

遠藤はソレを紙一重で、樹の裏へ隠れて凌ぐ。
樹の幹に、嵐の中降り注ぐ猛雨が泥濘の地面に衝突する時のような音を立てて、複数の散弾がブチ当たった。

そう、カップは遠藤と対峙せざるを得ない状況になってしまった。
しかし遠藤の方も、今一つカップ相手に成す術がないままでいた。

「(何とか紙一重だけど、避けるのは問題ない。彼女は『50℃弾』だからスピードではコチラが勝っている。でも流石に、背中を向けたら捕捉はされそうだね)」

そう考えているうちに、遠藤の頭上でメキメキと音がする。

「さっきから全然休ませてくれないなっ!」

カップが、遠藤が隠れた大樹をへし折り倒した。
ソレもただ倒したのではなく、先端から先に地面につくように、ねじり倒すような形だ。
遠藤が倒れる樹に沿って自分から離れないように、その先端から遠藤の方に丸め込んでくるように倒している。

遠藤は横に逃げざるを得なかった。
走りながらくるりと身体を一回転させ、カップから遠い方の左手に握ったショットガンの照準を合わせる。

その散弾はカップの足元に対して放たれたが、カップはソレを地面にめり込ませた。
そしてそのまま、勢いが完全に失われる前にその移動を反転させ、地中を突き進ませて遠藤の前で地面から射出させる。

遠藤はソレを飛んで避けた。が、

「しまっ……!」

その僅かな滞空時間が命取りになった。
空中ではいくら自らのスピードが早いとはいえ、身動きが取れない瞬間が訪れる。

カップは重力魔法で捕捉した遠藤を、先程の“円”の中へ投げ飛ばした。
樹々の枝に当たりながら、遠藤が遠くへと消し飛ばされる。

カップは一瞬安心した。

「ってないんだなあ!」

カップは驚き、遠藤を飛ばした方角を見た。
次の瞬間、樹の幹を奥から“くり抜きながら”、カップへと不可視の攻撃が向かってきた。
いや、ソレは近づいてきて初めて不可視の何かではなく、散弾だとわかった。

カップは先程までと同じように弾こうとしたが、その衝撃を殺せずに逆に弾き飛ばされてしまった。
後方の樹に身体が打ちつけられる。

「かはっ!」

くり抜かれた幹の向こうには、ショットガンから撃ったばかりの硝煙をくゆらせている遠藤がいた。
そしてカップには見えなかったが、その遠藤の少し遠く右奥では、カオルが樹にもたれかかりながら、遠藤に向けた自らの銃を下ろした。

遠藤はカップがその場の全員を射程距離内である“円”に戻したがっている心理を利用し、自ら吹き飛ばされるように仕向けた。
そしてカオルの近くまで飛ばされると『50℃弾』を撃ち込んでもらい、その強化されたパワーを散弾に籠めて放ったのだった。

「(結構賭けだったけど……やっぱり)」

遠藤はカオルを見た。
カオル自身も、遠藤に対して何故その“思考を読んだ”かのようなサポートができたのかがわからなかった。

「(“ゲート”に入る前にデル・ゾーネとやり合った時、カオルちゃんは向こうのお嬢さん――メイ殿に思考を読まれた。本人も自覚していないけど、その時に逆にある程度“読む”という技術を認識したんだ。そして、その技術を無意識化で――いや右脳でと言った方が良いかな――“盗み”始めた。
だからこそ、祭壇の前ではメイ殿の裏手をかけた。本人すらも自覚していないようだけれど、やっぱりね)」

「カオル殿!」

分身の童仙が、急にその背中から降ろしてほしいと言ってきたカオルを、再度支えた。
カオルは膝を地面につきながらも、童仙と、遠藤に微笑んだ。

「まったく、恐ろしい魔力ポテンシャルの“まれびと”さんだよ」

遠藤は呟くと、カオルに微笑み返した。
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