上 下
232 / 271
ラスト・コンテクスト Part1

大文字の夜に(5)

しおりを挟む
上空の「大」を構成している篝火の一つ一つに照らされている森の中に、マズルフラッシュや魔力の閃光が、時に蒸気に乱反射しながら煌いていた。

U.J.I、ジュディは木々の間を駆けながら、拳銃を持った両腕を分離してリーチを伸ばし、U.J.I一行の両サイドを疾走しているパクスとヴェルメロスの一行を迎撃している。

基本的には全員『100℃弾』でスピードを強化しているが、適切なタイミングで『50℃弾』その他の弾丸を混じえるコトで、戦局を覆そうとしていた。

具体的には、例えばジュディの場合、腕のリーチが伸びて敵に弾丸を撃ち込む際には

「100、いや『90℃弾』を!」

「はい!」

アサヒがジュディの胴体に弾丸を撃ち込む。
迎撃が一時的に終わると改めて『100℃弾』を撃ち込み、腕が装弾のためにジュディに戻ってくる。

左手はパクスのカトリーヌを主に狙っていたが、この攻撃は有効だった。
カトリーヌは弾丸を弾き返しつつも、その走りを邪魔される。

「ちっ、鬱陶しいですねっ!」

しかし

「どうした! 俺とは相性が悪いんじゃあねえか? U.J.Iの機械のお姉さん!」

アルマージュには押されていた。
『審査弾』で完全に読まれた上での戦闘を強いられている。

「玉露寄りのかぶせ茶なのはいいけど、煎茶寄りの俺とパワー比べは良くないぜっ! 品種の相性も良くないんじゃあねえか?」

アルマージュは他の国にジュディの“茶”がハッキリとわからないよう、しかし相手を挑発する。

「アルマージュ、挑発するヒマがあったら早く仕留めてよね」

アルマージュの下にしがみついているレインスが言った。

アルマージュは『80℃弾』で強化した状態を保っていた。
そのせいでいくらか落ちたスピードを、レインスがアルマージュにしがみつき飛行を援助するコトによって、補っている。

つまり、ヴェルメロスは戦力である3人のうち1人、レインスが動けない状態のため、U.J.Iとしてはヴェルメロス迎撃に残りの全戦力を傾けたいトコロだったが

「クソっ、相変わらずしつこいなあ!」

「貴方とは決着をつけないといけませんので」

「ソレお前だけの都合だろぉ!?」

ムサシはノワールに対し防戦一方だった。
ノワールは残像を残すかのスピードでムサシに迫ると、拳と蹴りを繰りだす。

ムサシはソレを、以前にもそうだったように超至近距離にて弾丸で応戦する。
“逆流弾”も駆使してはいたが、相変わらずの効果だ。
「考えるより感じる」ヤツには“逆流弾”が通じにくいコトを、ムサシは悟った。

ノワールは一連の攻撃を行うと、一時的に自らの一行の元へ戻り、呼吸を整えまたも攻めてくる。
もはや『審査弾』がなくとも、ムサシとノワールの相性が悪いコトは明白だった。

また、フランシスとブレーズも、ムサシとノワールほどではないにしろ同様だった。
ブレーズの声による攻撃に、フランシスは走りながらもサイドスローで投石し応戦するが

「走りながら投げるってぇのは、プロのメジャーリーガーでも難儀だぞ」

一人愚痴る。

パクスはわかった上で応戦していた。
U.J.Iにはヴェルメロスに対する“盾”になってもらう。
あわよくば、共倒れしてほしい。

その戦闘の合間を縫って、ミサトが『審査弾』をU.J.Iに放つ。
U.J.Iはすんでのトコロでソレを回避できていたが、ミサトにとってU.J.Iはオマケだ。
本当に狙っているのは、その向こうのヴェルメロスだった。

ソレに対し、オクルスとララのコンビが、ジュディとアサヒのように応戦している。
ララによる『温度弾』の助けがあるとは言え、戦闘向きではないオクルスはミサトからの『審査弾』を拳銃の弾丸で弾くのに精一杯だ。

つまりこの時点で、三ヶ国の力はほぼ拮抗していた。
いや正確には時間の問題で、U.J.Iはやや押され気味、ヴェルメロスが勝利するか、そのどちらもをパクスが食ってしまうかという状態だった。

しかしU.J.Iにも勝算がないワケではない。
前方を行く遠藤とカップに、三ヶ国は肉迫しつつあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...