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ラスト・コンテクスト Part1

大文字の夜に(4)

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「ぐうう……っ!」

メイは予想以上に圧されていた。
首筋に汗が流れる。

「……どうして、異世界からの貴女がコレほどの魔力を持ってるのかしら?」

「私が聞きたいですよっ……!」

カオルの鼻からは血が落ち始めた。
メイはソレを見て相手にも余裕が無いコトを悟ったが、だがだからと言って自分の方にも何かができる余地は無い。

お互いの魔力圧が完全に拮抗し、安定し始めた。
周囲の吹き飛ばされた面々も、状態を立て直し始める。
ツヅキが言った。

「痛って……何が起こった?」

「よかった、今回は衣服はあんまり乱れてませんねぇ……。カップさんは?」

「だ、大丈夫です」

カオルが、自らの前方に構えていた左手をゆっくりと横に動かした。
コレまで両手で耐えていたのが右手のみとなり、カオルの魔力をメイの魔力が上回ってくる。
力同士が拮抗している領域が、カオルにじりじりと迫ってきた。

「カオル殿、一体何を……?」

「わ、私が加勢します!」

「いや、待つんだ龍之介君。そして童仙殿、どうやら僕らがやらなければならないのは、二手に分かれるコトのようだ」

メイは相手の不可解な動きに、魔力へ集中するコトで忘れていた、“心読み”の力を行使した。
カオルの脳内に浸透する。

「(彼女の左手の方向は“鍵”の飛んで行った方向)(彼女は魔術回路を理解している)(そして何故か強大な魔力を保持している)(“書き換え”)(私の魔術回路への侵入を察知した)(“所有権”)(中腹を越えた段階で)(所有権者)(“鍵”は今、中腹に向かって“落ちて”いる)(状況を察知しているのは私と彼女だけ)(もうすぐ“鍵”は中腹を越える)(“書き換え”)(“書き換え”)(“書き換え”)」

多大なる魔力を放出しながらのため混濁する“読み”を整理し、メイの思考は到達した。

「カップだめ! 今すぐ“落とす”のを止めて!」

遠方を飛行する巻物、その表面の所有権者の文字が薄まり、徐々に別の文字列に置換されつつあった。
その文字列が表そうとしているのは、カオルの名前だった。

カップは事態を把握するために、その持ち前の閃きで、ほとんどメイの“心読み”と並行して、場の魔術回路を読み始めていた。
そして、事態のマズさに、メイの言葉によって確信を持って気づいた。

「解除します!」

巻物は暗黒山脈の中腹まであと少しのトコロで、弧を描いて落下した。

と、カオルの魔力圧が消え、メイの魔力も“心読み”を併用したせいで底を尽いた。
カオルは気を失い、崩れ落ちる。
メイも膝を地面に突いた。

童仙は素早く、倒れようとするカオルを支えた。
龍之介が、防衛するためにその二人の前で刀を構える。

メイの傍にも、ツヅキとウィーが駆け寄った。

「大丈夫か、メイ?」

「ダメ、相手のウチの一人がいない」

「わかってるさ。だからカップが向かってる。けど」

散弾の放たれる音と、カップの重力魔法がソレらを弾き落とす音。
そしてその音を皮切りに、“鍵”の飛んで行った方向から銃、刃、拳、魔力、蒸気の炸裂音が奏ぎ始めた。

遠方に落下した巻物の表面からは、文字は消え失せていた。
祭壇の前にいる、デル・ゾーネと南山城国の六人以外の全員は、既にその熾烈な争奪戦の渦中にいた。
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