214 / 271
南山城国(14)
暗黒山脈(39)
しおりを挟む
「なんか、僕たちは蚊帳の外って感じだね。おっと」
カップの重力魔法が遠藤に降り注ぐ。
「知りませんっ!」
「ドコまでも真面目じゃん。参ったな」
ツヅキは、カップの方も気になってはいたが、自分がソチラ側に参戦してしまうと余計な混乱をもたらしかねないコトもわかっていた。
ウィーと少年――龍之介との戦いでの硬直状態とは、また違った状態だったからだ。
ソレに、今すぐに介入が必要な状態でもない。
カップのスタミナはもうしばらくは持つハズだ。
なので、ツヅキはウィーの後方を付かず離れず、相手二人(童仙とカオル)に近づくコトにした。
向かって左奥からは傷を負ってはいるが、メイもその二人へと向かってきている。
三対二、しかもほぼ挟み撃ちだ。
先に仕掛けたのは、童仙の方だった。
ウィーに向かって歩いてくる。
どうやら、何らかの“弾”を撃ち込まれた上で、向かってきているらしい。
ツヅキは一瞬「向こうの“俺(と同じ立場の人)”を、メイに対して置きっぱでいいのか?」と思った。
そして混乱した。
メイの方にも、その青年――童仙が向かっている。
目の焦点をウィーの方に戻す。
ソチラにも童仙が向かってきている。
「……何だ?」
ツヅキがそう言い終わるが早いか、童仙がウィーに向かって加速した。
ツヅキは慌ててそのスピードにウィーを対応させようと『90℃弾』を込めようとする。
「ダメです! ツヅキさん! 『80℃弾』で」
ツヅキはすぐにその弾丸を込め、射出した。
ウィーに着弾し、先の龍之介戦のように“空間で”童仙の刃を受け止め、回避する。
「……お願いします」
ウィーが義理堅く、言葉を言い終えた。
ツヅキはメイの方を見た。
メイの周りは、竜巻によって包囲されていた。
もう一人の童仙が刀を構えながら、その竜巻の様子を伺っている。
竜巻の中から、声が聞こえた。
「ツヅキ君! ウィー! この人のソレは“どちらも”残像よ! 早すぎて二人いるように見えている」
ツヅキが童仙に目を凝らす。
その輪郭が僅かにブレていて、しかもやや透けて見えているコトがわかった。
“二人”の童仙が話し始めた。
「心が読めるというのは、コレですね。メイ・ペイルンオーリン殿。
その通りです。正々堂々たる戦いのために申し上げる機会を頂いてもよろしいですか?」
「……いいわ」
ウィーとツヅキの二人も、目の前の童仙に対して頷いた。
「ありがとうございます。
確かに、私の“コレ”は高速移動によるモノです。『90℃弾』以上の速度で初めて、実戦で使用可能な程の剣技を実現できます。ただ、一つ問題がございまして、私は“コレ”を完全に意識して行っているワケではありません。
肉体と、人の無意識の行動というのは恐ろしいモノです。或いは、皆さんのお国の言葉でしたら『右脳の力は恐ろしい』と言うべきでしょうか。私の“コレ”は無意識と肉体に完全に委ねた技です。ですので、私の肉体はアチラとコチラを行き来しながら、しかしその動きを無意識が支配しているため、一つ前の行動の模倣をせざるを得ません。言っている意味がわかりますか?」
ウィーとツヅキにはイマイチわからなかったが、心を読みつつ話を聞いているメイには理解できた。
「だから、二人とも“わざわざ歩いて”私たちに向かってきてたワケね。目にも止まらない高速移動ができるなら、色んな動きを“省略”できるハズなのに」
「その通りです。パラパラ漫画、と言うのですか? アレのように、無意識は意識と違って突飛な行動はできないのですよ。アチラとコチラを行き来しながら、肉体を微妙に動かしつつ行動するしかない。逆に言えば、その微妙な動きの連続、一人ずつを見れば“通常の動き”にしか見えない部分にしか、私は関与できないワケです。二つの身体を同時に動かしている気分は、少し奇妙で、是非とも皆さんにも体験していただきたいですが」
「……なるほど。一人に対してその高速移動を使うのも、だからできないってワケね。無意識の行動は、一人という対象には集中できない」
「ええ。ソレには無意識ではなく“意識”的な操作の方が重要ですから」
「コレ、何言ってるのかわかるか?」
「いえ、わかんないですねぇ」
ツヅキとウィーが言い合う。
「申し訳ない。あ、すみません。コレは“お二人”に対して言っているのですが」
童仙が言った。
ツヅキが愚痴る。
「ややこしいな……。とりあえず、一人が二人に増えて、ソレを俺たちは別々に相手すりゃあいいっていう話だろ?」
「その通りです。あ、コレも“お二人”に」
「ツヅキ君! コッチはこの人の心を読んでるから話の流れはわかってるわ! まあ、どうでもいいか」
「ああ、どうでもいい! やるだけだ!」
「ご清聴ありがとうございました。コレは“どちらにも”申し上げています。ソレでは、いざ」
二人の童仙の、刃の先が煌いた。
カップの重力魔法が遠藤に降り注ぐ。
「知りませんっ!」
「ドコまでも真面目じゃん。参ったな」
ツヅキは、カップの方も気になってはいたが、自分がソチラ側に参戦してしまうと余計な混乱をもたらしかねないコトもわかっていた。
ウィーと少年――龍之介との戦いでの硬直状態とは、また違った状態だったからだ。
ソレに、今すぐに介入が必要な状態でもない。
カップのスタミナはもうしばらくは持つハズだ。
なので、ツヅキはウィーの後方を付かず離れず、相手二人(童仙とカオル)に近づくコトにした。
向かって左奥からは傷を負ってはいるが、メイもその二人へと向かってきている。
三対二、しかもほぼ挟み撃ちだ。
先に仕掛けたのは、童仙の方だった。
ウィーに向かって歩いてくる。
どうやら、何らかの“弾”を撃ち込まれた上で、向かってきているらしい。
ツヅキは一瞬「向こうの“俺(と同じ立場の人)”を、メイに対して置きっぱでいいのか?」と思った。
そして混乱した。
メイの方にも、その青年――童仙が向かっている。
目の焦点をウィーの方に戻す。
ソチラにも童仙が向かってきている。
「……何だ?」
ツヅキがそう言い終わるが早いか、童仙がウィーに向かって加速した。
ツヅキは慌ててそのスピードにウィーを対応させようと『90℃弾』を込めようとする。
「ダメです! ツヅキさん! 『80℃弾』で」
ツヅキはすぐにその弾丸を込め、射出した。
ウィーに着弾し、先の龍之介戦のように“空間で”童仙の刃を受け止め、回避する。
「……お願いします」
ウィーが義理堅く、言葉を言い終えた。
ツヅキはメイの方を見た。
メイの周りは、竜巻によって包囲されていた。
もう一人の童仙が刀を構えながら、その竜巻の様子を伺っている。
竜巻の中から、声が聞こえた。
「ツヅキ君! ウィー! この人のソレは“どちらも”残像よ! 早すぎて二人いるように見えている」
ツヅキが童仙に目を凝らす。
その輪郭が僅かにブレていて、しかもやや透けて見えているコトがわかった。
“二人”の童仙が話し始めた。
「心が読めるというのは、コレですね。メイ・ペイルンオーリン殿。
その通りです。正々堂々たる戦いのために申し上げる機会を頂いてもよろしいですか?」
「……いいわ」
ウィーとツヅキの二人も、目の前の童仙に対して頷いた。
「ありがとうございます。
確かに、私の“コレ”は高速移動によるモノです。『90℃弾』以上の速度で初めて、実戦で使用可能な程の剣技を実現できます。ただ、一つ問題がございまして、私は“コレ”を完全に意識して行っているワケではありません。
肉体と、人の無意識の行動というのは恐ろしいモノです。或いは、皆さんのお国の言葉でしたら『右脳の力は恐ろしい』と言うべきでしょうか。私の“コレ”は無意識と肉体に完全に委ねた技です。ですので、私の肉体はアチラとコチラを行き来しながら、しかしその動きを無意識が支配しているため、一つ前の行動の模倣をせざるを得ません。言っている意味がわかりますか?」
ウィーとツヅキにはイマイチわからなかったが、心を読みつつ話を聞いているメイには理解できた。
「だから、二人とも“わざわざ歩いて”私たちに向かってきてたワケね。目にも止まらない高速移動ができるなら、色んな動きを“省略”できるハズなのに」
「その通りです。パラパラ漫画、と言うのですか? アレのように、無意識は意識と違って突飛な行動はできないのですよ。アチラとコチラを行き来しながら、肉体を微妙に動かしつつ行動するしかない。逆に言えば、その微妙な動きの連続、一人ずつを見れば“通常の動き”にしか見えない部分にしか、私は関与できないワケです。二つの身体を同時に動かしている気分は、少し奇妙で、是非とも皆さんにも体験していただきたいですが」
「……なるほど。一人に対してその高速移動を使うのも、だからできないってワケね。無意識の行動は、一人という対象には集中できない」
「ええ。ソレには無意識ではなく“意識”的な操作の方が重要ですから」
「コレ、何言ってるのかわかるか?」
「いえ、わかんないですねぇ」
ツヅキとウィーが言い合う。
「申し訳ない。あ、すみません。コレは“お二人”に対して言っているのですが」
童仙が言った。
ツヅキが愚痴る。
「ややこしいな……。とりあえず、一人が二人に増えて、ソレを俺たちは別々に相手すりゃあいいっていう話だろ?」
「その通りです。あ、コレも“お二人”に」
「ツヅキ君! コッチはこの人の心を読んでるから話の流れはわかってるわ! まあ、どうでもいいか」
「ああ、どうでもいい! やるだけだ!」
「ご清聴ありがとうございました。コレは“どちらにも”申し上げています。ソレでは、いざ」
二人の童仙の、刃の先が煌いた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる