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南山城国(14)

暗黒山脈(39)

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「なんか、僕たちは蚊帳の外って感じだね。おっと」

カップの重力魔法が遠藤に降り注ぐ。

「知りませんっ!」

「ドコまでも真面目じゃん。参ったな」

ツヅキは、カップの方も気になってはいたが、自分がソチラ側に参戦してしまうと余計な混乱をもたらしかねないコトもわかっていた。
ウィーと少年――龍之介との戦いでの硬直状態とは、また違った状態だったからだ。

ソレに、今すぐに介入が必要な状態でもない。
カップのスタミナはもうしばらくは持つハズだ。

なので、ツヅキはウィーの後方を付かず離れず、相手二人(童仙とカオル)に近づくコトにした。
向かって左奥からは傷を負ってはいるが、メイもその二人へと向かってきている。

三対二、しかもほぼ挟み撃ちだ。

先に仕掛けたのは、童仙の方だった。
ウィーに向かって歩いてくる。
どうやら、何らかの“弾”を撃ち込まれた上で、向かってきているらしい。

ツヅキは一瞬「向こうの“俺(と同じ立場の人)”を、メイに対して置きっぱでいいのか?」と思った。
そして混乱した。

メイの方にも、その青年――童仙が向かっている。

目の焦点をウィーの方に戻す。
ソチラにも童仙が向かってきている。

「……何だ?」

ツヅキがそう言い終わるが早いか、童仙がウィーに向かって加速した。
ツヅキは慌ててそのスピードにウィーを対応させようと『90℃弾』を込めようとする。

「ダメです! ツヅキさん! 『80℃弾』で」

ツヅキはすぐにその弾丸を込め、射出した。
ウィーに着弾し、先の龍之介戦のように“空間で”童仙の刃を受け止め、回避する。

「……お願いします」

ウィーが義理堅く、言葉を言い終えた。

ツヅキはメイの方を見た。
メイの周りは、竜巻によって包囲されていた。
もう一人の童仙が刀を構えながら、その竜巻の様子を伺っている。

竜巻の中から、声が聞こえた。

「ツヅキ君! ウィー! この人のソレは“どちらも”残像よ! 早すぎて二人いるように見えている」

ツヅキが童仙に目を凝らす。
その輪郭が僅かにブレていて、しかもやや透けて見えているコトがわかった。
“二人”の童仙が話し始めた。

「心が読めるというのは、コレですね。メイ・ペイルンオーリン殿。
その通りです。正々堂々たる戦いのために申し上げる機会を頂いてもよろしいですか?」

「……いいわ」

ウィーとツヅキの二人も、目の前の童仙に対して頷いた。

「ありがとうございます。
確かに、私の“コレ”は高速移動によるモノです。『90℃弾』以上の速度で初めて、実戦で使用可能な程の剣技を実現できます。ただ、一つ問題がございまして、私は“コレ”を完全に意識して行っているワケではありません。
肉体と、人の無意識の行動というのは恐ろしいモノです。或いは、皆さんのお国の言葉でしたら『右脳の力は恐ろしい』と言うべきでしょうか。私の“コレ”は無意識と肉体に完全に委ねた技です。ですので、私の肉体はアチラとコチラを行き来しながら、しかしその動きを無意識が支配しているため、一つ前の行動の模倣をせざるを得ません。言っている意味がわかりますか?」

ウィーとツヅキにはイマイチわからなかったが、心を読みつつ話を聞いているメイには理解できた。

「だから、二人とも“わざわざ歩いて”私たちに向かってきてたワケね。目にも止まらない高速移動ができるなら、色んな動きを“省略”できるハズなのに」

「その通りです。パラパラ漫画、と言うのですか? アレのように、無意識は意識と違って突飛な行動はできないのですよ。アチラとコチラを行き来しながら、肉体を微妙に動かしつつ行動するしかない。逆に言えば、その微妙な動きの連続、一人ずつを見れば“通常の動き”にしか見えない部分にしか、私は関与できないワケです。二つの身体を同時に動かしている気分は、少し奇妙で、是非とも皆さんにも体験していただきたいですが」

「……なるほど。一人に対してその高速移動を使うのも、だからできないってワケね。無意識の行動は、一人という対象には集中できない」

「ええ。ソレには無意識ではなく“意識”的な操作の方が重要ですから」

「コレ、何言ってるのかわかるか?」

「いえ、わかんないですねぇ」

ツヅキとウィーが言い合う。

「申し訳ない。あ、すみません。コレは“お二人”に対して言っているのですが」

童仙が言った。
ツヅキが愚痴る。

「ややこしいな……。とりあえず、一人が二人に増えて、ソレを俺たちは別々に相手すりゃあいいっていう話だろ?」

「その通りです。あ、コレも“お二人”に」

「ツヅキ君! コッチはこの人の心を読んでるから話の流れはわかってるわ! まあ、どうでもいいか」

「ああ、どうでもいい! やるだけだ!」

「ご清聴ありがとうございました。コレは“どちらにも”申し上げています。ソレでは、いざ」

二人の童仙の、刃の先が煌いた。
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