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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(14)

暗黒山脈(32)

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「もう一撃! きますっ!」

カップが珍しく大声を上げた。
樹から樹へと飛び移った遠藤が、もう一丁の散弾銃を取りだす。

無数の弾丸が放たれた。だが、

弾丸たちはデル・ゾーネの一行の目の前で、地面に真っ直ぐに突き刺さる。
カップが重力を操作したのだ。

「へえ。厄介な、いや、素敵な技だね」

遠藤と対峙するカップの後方では、瞳を閉じた龍之介がウィーに斬りかかった。
ウィーは後ろ宙返りで、その剣戟をかわす。

「つむったまま、やる気ですかぁ?」

「盲目でも強き剣士はいますっ!」

ツヅキがメイの方を向いた。

「メイ、お前に『90℃弾』で、簡単にひっくり返せるよな?」

「……いいえ。『90℃弾』は賛成だけれど」

メイの右後方、草の蔭から弾丸が数発飛来する。
メイは弾丸を弾くと、飛来した方向を薙ぎ飛ばした。
誰の影もない。

「まだ彼らの主が姿を見せていない。少しイヤな感じね」

「そうか。もう一人の敵の姿も見てないな」

「いえ、“もう一人”はいないわ。ソコの二人の心に聞いたトコロね」

「……やっぱ割と便利だな、その能力。じゃあ、なんでいないのかはとりあえず後回しで」

ツヅキがメイに『90℃弾』を撃ち込む。

「先に主さま探しだ」

「そうね」

メイが自らの薙いだ方向に駆けだす。
そのまま杖を左右に振るうと、辺り一面の視界がみるみるうちに開けていった。


◇◇◇


「あまり良くないな」

遠藤がポツリと呟く。
そして、攻撃を察知すると素早く次の樹へと移った。

先程まで遠藤がいた樹の枝がへし折れ、落下する。

「キミは優しいね。だからあまり人を傷つける向きじゃあない。心に躊躇いがある」

「な、ないですっ!」

カップが杖を振るうが、次も避けられた。

「とは言え、僕もいつまでも遊んでる場合じゃあないんだ」

ツヅキがカップに『100℃弾』を放つ。
しかしその弾丸は、遠藤の弾幕によって防がれた。

「(やれやれ、どうすればこの膠着状態を抜けだせるだろう。攻撃するべきじゃあなかったな)」

遠藤は龍之介の方を伺う。
見えないながらも、龍之介は完全にウィーを捕捉していた。
ウィーは“透明の壁”を切り裂かれるのを繰り返してはいたが、ソレで龍之介の刀のスピードを抑えつつ、かわし続けている。


◇◇◇


「(遠藤さんに『80℃弾』……! 遠藤さんに『80℃弾』だっ……!)」

カオルは背丈の高い草の間を駆けながら、そう自らに念じていた。

カオルは遠藤と帽子の女の子の闘いを見ていて、まだ遠藤の速さには余裕があるコトがわかった。
だが、問題はパワーだ。女の子の魔力を、龍之介のように遠藤の銃は貫くコトができない。

ソコで、パワーとスピードの向上効果のある『80℃弾』を選択したのだった。
『80℃弾』は他の温度帯の弾ほどパワーやスピードを向上させるワケではないが、パワーかスピードのどちらかを下げるコトでどちらかを著しく上げる他の弾丸とは違い、双方を向上させるコトができる。

その持続時間は他の弾丸と違い短いというデメリットもあるが、様子見や“次の弾丸をすぐに撃ち込める場合”にはもってこいだ。
カオルは、その弾丸を撃ち込んだ後に、遠藤がまだ帽子の女の子に対応できないようであれば、すぐに次の弾丸を撃ち込む自信があった。

何故なら“あの村”での事象以降、カオルは自らの強い魔力を自覚し、そして利用できるようになりつつあったからだ。
現に今も、背の高い草の間をどのように駆け抜ければ、敵を欺きつつ最短で遠藤まで到達できるかが、カオルにはしっかりと視えていた。
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