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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(14)

暗黒山脈(31)

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「射程距離に……入った」

メイが静かな声で言った。
薮の中で“杖茶杓”を構えながら、前方を鋭い眼で見つめている。

その周囲にはデル・ゾーネの仲間たち、ウィー、カップ、ツヅキがいる。
メイが三人に目配せした。全員が頷く。

皆の視線の先、動く三つの影に向かって、メイが杖の先端を輝かせ始めた。


◇◇◇


「ん?」

「どうしました? カオルさん」

「いや、何か後頭部にチリチリしたモノが」

「攻撃だ!」

遠藤がカオルと龍之介を押し倒す形で、背後からの魔力の渦から皆を守った。
あっという間に先程までいた場所の木々と草々が消え去り、彼らには破片のみが降り注ぐ。
紛うことなき緊急事態だ。しかし、

「あ、あの。カオルさん」

カオルに覆いかぶさられる格好となった龍之介は、その顔を真っ赤に染めていた。
だが次の瞬間、鈍い音と共に龍之介とカオルが震える。

「龍之介くん。ありがとうかもしれないけど、今は急いで」

カオルが振り向き、遠藤にも言った。

「遠藤さんも」

再び鈍い発射音と、遠藤とカオルの身体に振動が響く。
カオルの左脇腹から、“銃”が覗いていた。

カオルは二人に銃を密着させ、『90℃弾』を撃ったのだった。

「「わかりました、カオル」」
「さん」
「ちゃん」


◇◇◇


「……避けられた?」

カップが思わず口にする。

「ダメね! 第二撃!」

メイは杖を振るうと、彼らが逃げた方向を“薙いだ”。
しかし、ソコには既に何も無かった。

「射程距離が遠かったのか?」

「いえ、あの距離で反応するのは不可能なハズ……」

「……ひょっとしてですけど、お嬢さまと同じ系の能力の方がいるんですかねぇ?」

ウィーは言いながら、透明のドームを周囲に展開した。
防御とレーダーを兼ね備えた、ウィーお得意のドームだ。

「私の能力でも、ああやって薮に隠れられて直接視認できないと、使えないわ。ましてや、彼らは前方だけを見ていたハズだし」

「魔力に対して、勘の良い方がおられるんでしょうか」

「……かも知れないわね、カップ。杖の先端から放つ直前のソレを察知されたのかも。だとしても、相当良い勘してなきゃだけど」

「一旦、態勢を立て直しますかぁ?」

杖でドームの強度を高めながら、ウィーが振り向いて言ったその時だった。

「ウィー! 前!」

ツヅキが叫ぶ。
そしてほぼ遅れなく、自らの“銃”を撃った。

ウィーの目の前の草むらを斬り裂いて、和装の男の子が現れる。
その刀が、ウィーに斬りかかった。

ウィーは反応の開始が遅れた。
無意識に、自らのドームの防御力を信用していたからだ。
しかし、刀はドームに接触して少しその速度を弱めたものの、ドームを切り開いて侵入してきた。

ウィーにツヅキからの“指示”が着弾した。
『100℃弾』だ。

ウィーは刀をスレスレで回避した。
尤も、服の両肩と胸の部分が裂けてしまったが。

「空間も斬れるって……業物ですねぇ、ソレ」

ウィーが即座に反撃に出ようとする。
ソコにメイが声をかけた。

「あ。ちょっと待って、ウィー。彼」

「へ?」

その男の子は、刀を構えはしていたモノの、目を伏せていた。
どうやらメイは、彼の心を読んだらしかった。

「すみません! 斬ったのは私ですが……その服をお直しくださいっ!」

「は? へ?」

ウィーの服は、裂けてしまったせいでやや乱れていた。

「え? え?」

「いや、チャンスよね! ごめん、ウィー!」

メイが代わりに攻撃をしようとした。
が、上空から降り注いだ鉄片の数々に、一歩飛びのかざるをえなかった。

「龍之介くん、キミは紳士だね」

空中を駆けながら、遠藤が言った。

「そして、淑女あなた方も」
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