206 / 245
シュロッス・イン・デル・ゾーネ(14)
暗黒山脈(31)
しおりを挟む
「射程距離に……入った」
メイが静かな声で言った。
薮の中で“杖茶杓”を構えながら、前方を鋭い眼で見つめている。
その周囲にはデル・ゾーネの仲間たち、ウィー、カップ、ツヅキがいる。
メイが三人に目配せした。全員が頷く。
皆の視線の先、動く三つの影に向かって、メイが杖の先端を輝かせ始めた。
◇◇◇
「ん?」
「どうしました? カオルさん」
「いや、何か後頭部にチリチリしたモノが」
「攻撃だ!」
遠藤がカオルと龍之介を押し倒す形で、背後からの魔力の渦から皆を守った。
あっという間に先程までいた場所の木々と草々が消え去り、彼らには破片のみが降り注ぐ。
紛うことなき緊急事態だ。しかし、
「あ、あの。カオルさん」
カオルに覆いかぶさられる格好となった龍之介は、その顔を真っ赤に染めていた。
だが次の瞬間、鈍い音と共に龍之介とカオルが震える。
「龍之介くん。ありがとうかもしれないけど、今は急いで」
カオルが振り向き、遠藤にも言った。
「遠藤さんも」
再び鈍い発射音と、遠藤とカオルの身体に振動が響く。
カオルの左脇腹から、“銃”が覗いていた。
カオルは二人に銃を密着させ、『90℃弾』を撃ったのだった。
「「わかりました、カオル」」
「さん」
「ちゃん」
◇◇◇
「……避けられた?」
カップが思わず口にする。
「ダメね! 第二撃!」
メイは杖を振るうと、彼らが逃げた方向を“薙いだ”。
しかし、ソコには既に何も無かった。
「射程距離が遠かったのか?」
「いえ、あの距離で反応するのは不可能なハズ……」
「……ひょっとしてですけど、お嬢さまと同じ系の能力の方がいるんですかねぇ?」
ウィーは言いながら、透明のドームを周囲に展開した。
防御とレーダーを兼ね備えた、ウィーお得意のドームだ。
「私の能力でも、ああやって薮に隠れられて直接視認できないと、使えないわ。ましてや、彼らは前方だけを見ていたハズだし」
「魔力に対して、勘の良い方がおられるんでしょうか」
「……かも知れないわね、カップ。杖の先端から放つ直前のソレを察知されたのかも。だとしても、相当良い勘してなきゃだけど」
「一旦、態勢を立て直しますかぁ?」
杖でドームの強度を高めながら、ウィーが振り向いて言ったその時だった。
「ウィー! 前!」
ツヅキが叫ぶ。
そしてほぼ遅れなく、自らの“銃”を撃った。
ウィーの目の前の草むらを斬り裂いて、和装の男の子が現れる。
その刀が、ウィーに斬りかかった。
ウィーは反応の開始が遅れた。
無意識に、自らのドームの防御力を信用していたからだ。
しかし、刀はドームに接触して少しその速度を弱めたものの、ドームを切り開いて侵入してきた。
ウィーにツヅキからの“指示”が着弾した。
『100℃弾』だ。
ウィーは刀をスレスレで回避した。
尤も、服の両肩と胸の部分が裂けてしまったが。
「空間も斬れるって……業物ですねぇ、ソレ」
ウィーが即座に反撃に出ようとする。
ソコにメイが声をかけた。
「あ。ちょっと待って、ウィー。彼」
「へ?」
その男の子は、刀を構えはしていたモノの、目を伏せていた。
どうやらメイは、彼の心を読んだらしかった。
「すみません! 斬ったのは私ですが……その服をお直しくださいっ!」
「は? へ?」
ウィーの服は、裂けてしまったせいでやや乱れていた。
「え? え?」
「いや、チャンスよね! ごめん、ウィー!」
メイが代わりに攻撃をしようとした。
が、上空から降り注いだ鉄片の数々に、一歩飛びのかざるをえなかった。
「龍之介くん、キミは紳士だね」
空中を駆けながら、遠藤が言った。
「そして、淑女方も」
メイが静かな声で言った。
薮の中で“杖茶杓”を構えながら、前方を鋭い眼で見つめている。
その周囲にはデル・ゾーネの仲間たち、ウィー、カップ、ツヅキがいる。
メイが三人に目配せした。全員が頷く。
皆の視線の先、動く三つの影に向かって、メイが杖の先端を輝かせ始めた。
◇◇◇
「ん?」
「どうしました? カオルさん」
「いや、何か後頭部にチリチリしたモノが」
「攻撃だ!」
遠藤がカオルと龍之介を押し倒す形で、背後からの魔力の渦から皆を守った。
あっという間に先程までいた場所の木々と草々が消え去り、彼らには破片のみが降り注ぐ。
紛うことなき緊急事態だ。しかし、
「あ、あの。カオルさん」
カオルに覆いかぶさられる格好となった龍之介は、その顔を真っ赤に染めていた。
だが次の瞬間、鈍い音と共に龍之介とカオルが震える。
「龍之介くん。ありがとうかもしれないけど、今は急いで」
カオルが振り向き、遠藤にも言った。
「遠藤さんも」
再び鈍い発射音と、遠藤とカオルの身体に振動が響く。
カオルの左脇腹から、“銃”が覗いていた。
カオルは二人に銃を密着させ、『90℃弾』を撃ったのだった。
「「わかりました、カオル」」
「さん」
「ちゃん」
◇◇◇
「……避けられた?」
カップが思わず口にする。
「ダメね! 第二撃!」
メイは杖を振るうと、彼らが逃げた方向を“薙いだ”。
しかし、ソコには既に何も無かった。
「射程距離が遠かったのか?」
「いえ、あの距離で反応するのは不可能なハズ……」
「……ひょっとしてですけど、お嬢さまと同じ系の能力の方がいるんですかねぇ?」
ウィーは言いながら、透明のドームを周囲に展開した。
防御とレーダーを兼ね備えた、ウィーお得意のドームだ。
「私の能力でも、ああやって薮に隠れられて直接視認できないと、使えないわ。ましてや、彼らは前方だけを見ていたハズだし」
「魔力に対して、勘の良い方がおられるんでしょうか」
「……かも知れないわね、カップ。杖の先端から放つ直前のソレを察知されたのかも。だとしても、相当良い勘してなきゃだけど」
「一旦、態勢を立て直しますかぁ?」
杖でドームの強度を高めながら、ウィーが振り向いて言ったその時だった。
「ウィー! 前!」
ツヅキが叫ぶ。
そしてほぼ遅れなく、自らの“銃”を撃った。
ウィーの目の前の草むらを斬り裂いて、和装の男の子が現れる。
その刀が、ウィーに斬りかかった。
ウィーは反応の開始が遅れた。
無意識に、自らのドームの防御力を信用していたからだ。
しかし、刀はドームに接触して少しその速度を弱めたものの、ドームを切り開いて侵入してきた。
ウィーにツヅキからの“指示”が着弾した。
『100℃弾』だ。
ウィーは刀をスレスレで回避した。
尤も、服の両肩と胸の部分が裂けてしまったが。
「空間も斬れるって……業物ですねぇ、ソレ」
ウィーが即座に反撃に出ようとする。
ソコにメイが声をかけた。
「あ。ちょっと待って、ウィー。彼」
「へ?」
その男の子は、刀を構えはしていたモノの、目を伏せていた。
どうやらメイは、彼の心を読んだらしかった。
「すみません! 斬ったのは私ですが……その服をお直しくださいっ!」
「は? へ?」
ウィーの服は、裂けてしまったせいでやや乱れていた。
「え? え?」
「いや、チャンスよね! ごめん、ウィー!」
メイが代わりに攻撃をしようとした。
が、上空から降り注いだ鉄片の数々に、一歩飛びのかざるをえなかった。
「龍之介くん、キミは紳士だね」
空中を駆けながら、遠藤が言った。
「そして、淑女方も」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
18
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる