191 / 271
バクエット・ド・パクス(13)
暗黒山脈(17)
しおりを挟む
女性は自分の後頭部めがけて飛んできたモノを、見もせず裏拳で弾いた、が。
「?」
弾いたモノが、ブーメランのように帰ってくるのが聞こえた。
仕方なくその正体を横目で捕捉する。
ジュディの右肩から右手までが、分離しつつも電磁力によって繋がれながら、そのリーチを延長していた。
女性が弾いたのはその右手だったが、どこかへと飛んでいく事はなく再度、彼女の頭部めがけて掴みにかかってくる。
ジュディは左手の方も、草むらに向かって伸ばしていた。
拳銃を回収するためだ。
「やらしい手ですねっ……!」
そう言いながら、女性は後方にジャンプした。
ムサシの弾丸が足元を狙ってくる。ソレは回避するコトができた。
しかし次なる攻撃が、彼女の着地点へと既に放たれていた。
大男――フランシスを殴り飛ばした方向からまたしても、岩が飛来する。
女性は身体を空中で捩ると、肘打ちでその岩を破壊した。
一行と女性との間には、少しの距離が開いた。
フランシスが草を踏み分けつつ現れる。
「『90℃』弾か?」
「ああ、どうやらそうらしい」
頭部から血を流しているフランシスに、ムサシが答えた。
と、二人には目もくれずに、女性がジュディの方へと走った。
ジュディの右手は先程、虚空を掴むにとどまったが、左手は草むらから帰りつつあった。
その帰還を妨げるために、女性は動いたのだった。
「くそっ!」
ムサシの銃口、そして銃弾は、女性の後ろしか追えなかった。
ジュディの眼前に到達した女性は、その脇腹へと右中段蹴りを打ち込んだ。
「ぐっ……あっ!」
「良かった♪ 貴女は全身機械なんですねえ。やっぱり」
「ジュディ!」
フランシスの声もむなしく、ジュディはバラバラになり、緑の海へと消えた。
ムサシがトリガーを引くが、拳銃は動かなかった。弾が“満タンに”なったためだ。
「ちっ、微妙に慣れがいるなコイツは」
「ソレ、変な銃ですねえ。慣れる時間があると良いのですけど♪」
女性がムサシの銃を指差し言う。
彼女が次の動きを見せようとした、その時だった。
銃声が森に響いた。
女性は呆気にとられながら、後ろを振り返る。
大した敵と見做していなかった少年がソコにはいた。
その少年が異世界からの少年であるコトは、その女性にもわかっていた。
だが、“銃”を持っていなければ戦力にはならないハズだった。
「ジュディさんが取り戻そうとした銃は、自分のじゃあありません。僕のです」
女性の服、その腰元には穴が開き、微かに煙が燻っていた。
少年の銃から薬莢が排出される。
少年はその薬莢を掴むと、口に投げ入れ、噛み砕いた。
一行の口中は既に魔術回路によって同期されている。
全員の口の中に、噛み砕かれた『審査弾』の薬莢から、滋味と香りが広がった。
ミルクを思わせる甘い香りと、味自体にも同様に強い甘味がある。
しかし玉露のようなややもするとしつこい甘味ではなく爽やかで、そして何より『炉の香り』があった。
ソレも少し強めの、もはや『火香』の領域の『元火』だった。
フランシスとムサシはアイコンタクトで同意した。
ムサシが大きな声で皆に伝える。
「『さみどり』の“碾茶”だ! 恐らく魔力で身体強化してやがる。パクスの連中だ!」
「あらあら、バレちゃいましたか。意外と恥ずかしいですねえ、まるで丸裸にされたみたいで♪」
「?」
弾いたモノが、ブーメランのように帰ってくるのが聞こえた。
仕方なくその正体を横目で捕捉する。
ジュディの右肩から右手までが、分離しつつも電磁力によって繋がれながら、そのリーチを延長していた。
女性が弾いたのはその右手だったが、どこかへと飛んでいく事はなく再度、彼女の頭部めがけて掴みにかかってくる。
ジュディは左手の方も、草むらに向かって伸ばしていた。
拳銃を回収するためだ。
「やらしい手ですねっ……!」
そう言いながら、女性は後方にジャンプした。
ムサシの弾丸が足元を狙ってくる。ソレは回避するコトができた。
しかし次なる攻撃が、彼女の着地点へと既に放たれていた。
大男――フランシスを殴り飛ばした方向からまたしても、岩が飛来する。
女性は身体を空中で捩ると、肘打ちでその岩を破壊した。
一行と女性との間には、少しの距離が開いた。
フランシスが草を踏み分けつつ現れる。
「『90℃』弾か?」
「ああ、どうやらそうらしい」
頭部から血を流しているフランシスに、ムサシが答えた。
と、二人には目もくれずに、女性がジュディの方へと走った。
ジュディの右手は先程、虚空を掴むにとどまったが、左手は草むらから帰りつつあった。
その帰還を妨げるために、女性は動いたのだった。
「くそっ!」
ムサシの銃口、そして銃弾は、女性の後ろしか追えなかった。
ジュディの眼前に到達した女性は、その脇腹へと右中段蹴りを打ち込んだ。
「ぐっ……あっ!」
「良かった♪ 貴女は全身機械なんですねえ。やっぱり」
「ジュディ!」
フランシスの声もむなしく、ジュディはバラバラになり、緑の海へと消えた。
ムサシがトリガーを引くが、拳銃は動かなかった。弾が“満タンに”なったためだ。
「ちっ、微妙に慣れがいるなコイツは」
「ソレ、変な銃ですねえ。慣れる時間があると良いのですけど♪」
女性がムサシの銃を指差し言う。
彼女が次の動きを見せようとした、その時だった。
銃声が森に響いた。
女性は呆気にとられながら、後ろを振り返る。
大した敵と見做していなかった少年がソコにはいた。
その少年が異世界からの少年であるコトは、その女性にもわかっていた。
だが、“銃”を持っていなければ戦力にはならないハズだった。
「ジュディさんが取り戻そうとした銃は、自分のじゃあありません。僕のです」
女性の服、その腰元には穴が開き、微かに煙が燻っていた。
少年の銃から薬莢が排出される。
少年はその薬莢を掴むと、口に投げ入れ、噛み砕いた。
一行の口中は既に魔術回路によって同期されている。
全員の口の中に、噛み砕かれた『審査弾』の薬莢から、滋味と香りが広がった。
ミルクを思わせる甘い香りと、味自体にも同様に強い甘味がある。
しかし玉露のようなややもするとしつこい甘味ではなく爽やかで、そして何より『炉の香り』があった。
ソレも少し強めの、もはや『火香』の領域の『元火』だった。
フランシスとムサシはアイコンタクトで同意した。
ムサシが大きな声で皆に伝える。
「『さみどり』の“碾茶”だ! 恐らく魔力で身体強化してやがる。パクスの連中だ!」
「あらあら、バレちゃいましたか。意外と恥ずかしいですねえ、まるで丸裸にされたみたいで♪」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる