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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(12)

暗黒山脈(15)

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「ココまで離れてりゃあ、もう大丈夫だろ。少し山道からは外れちまったが」

アサヒとジュディの所に、フランシスが草をかき分けながら現れた。
その後ろから、ムサシも姿を現す。

「無事だったか」

「ええ。よくコッチに合流できたわね」

「相手の射程さえ把握できればコッチのもんさ。にしても、反応速度の早いヤツらだったな」

ムサシの手元に弾丸が“戻ってきた”後、その弾丸を追うかのように強烈な魔力波が向かってきた。
すんでのトコロでU.J.Iの一行は反応し、ジュディとアサヒ、ムサシとフランシスはそれぞれ両脇に分かれて敵の攻撃を避けたのだった。

「まあ、反応速度ならコッチも負けちゃあいないが」

「どうする? 迎え撃つ?」

ジュディの問いかけにフランシスが答える。

「いや、先に進むべきと思うね。相手から追撃の動きが今んとこないってコトは、向こうも用心しながら索敵中で、あんまり簡単には動けなくなってんだろう。なら、そんなのは放っといて先に進むべきじゃあねーか?」

「……そうね」

ジュディはアサヒの方を向いた。

「どう? 銃は元に戻ったかしら?」

アサヒの震える手の中には、急須が握られている。

「……」

「良かった、相手は近くにいないって証拠ね。……ごめんなさい、アサヒ。貴方はムリして戦う必要はないわ。ソレにそもそも、この旅には必ずしも戦いが必要なワケじゃあない」

首を垂れているアサヒに、ムサシも話しかけた。

「甘いコトを言うワケじゃあないが」

ムサシはそう言いながら電子タバコを取りだすと、煙や匂いが出ないモードに調整し、口に咥えた。
吸い込んだ息を鼻から吐きだすと、もう一度口を開いた。

「あの魔力なら、攻撃先を吹き飛ばしながらの“裁断”も可能だった。アイツら、レア、つまりアサヒ君がいるから手加減したってワケだ。俺たちは最悪、死んでもちゃ……CS園からやり直しだが、キミはそうじゃあないからな。もしくはキミの“銃”を破壊してしまって、お互いに銃なしでやり合うのがイヤだったのかもしれないが」

「何が言いたいの? 貴方」

「つまりだ。アサヒ君は抑止力だってコトさ。そんなに肩を落とす必要はないってコト」

言い終えるが早いか、アサヒが頭上に手を伸ばした。
唐突かつ素早い動作だったので、皆も一瞬遅れる。

アサヒの手の先には“銃”が握られていた。
その先には旅の前に配給されていた、付属装備可能なサプレッサーが取り付けられ、なおかつ薄い煙を吐きだしていた。

皆が警戒態勢に入る前に、アサヒが言う。

「落ち着いてください、皆さん。敵からはもう十分離れているように感じます。どうやら敵との距離によって急須の、銃への変えやすさの感じから、敵との距離をおおよそ逆算できるみたいです」

「……するってーとアサヒ、今は結構な意志力というか、ソレを行使して銃に変えたってコトか? 敵との距離は離れてるんだよな?」

「はい」

アサヒの手の中に、弾丸で撃ち抜かれた葉が落ちてきた。

「……僕は、前の世界では武器がありませんでした。でも、この世界ではあります。だからこそ、皆さんのためにも“抑止力”で終わりたくはないんです」

強い眼差しをアサヒは皆に送った。

「でも、さっき言ってた話、前者の方の理由――僕を殺すのを彼らが躊躇っていたという理由なら、つまり彼らは優しいってコトですよね? ムサシさん」

「あ、ああ」

「なら、僕らもフェアプレーをしないといけませんね」

アサヒはそう言うと、皆に笑いかけた。


◇◇◇


歩きだした一行の後方で、フランシスはムサシに近づき、小さな声で言った。

「さっきの“言い方”は、アサヒをけしかけるためか?」

「……悪いクセだったよ。大人気なかったな。まあソレもあったかもしれないが、純粋に励ましたかったってのもある」

「お前、コミュ障すぎだぞ。アサヒがお前以上に他人の考えを読めるヤツだから良かったが」

「うるせーな。俺の住んでる社会だと、長くいりゃああーゆー風に意地悪にもなんの。ソレにしても……」

「やっぱ、そう思うか」

「ああ。意外とというか、やっぱり危ういな、アサヒ君。……ま、ソレが個人的には魅力でもあるかもだが」

「ソコを見守ってやるのが、俺たち大人の役割だわな」

「ココの二人はコミュ障と脳みそブリキのロボだがね」

「違いない」
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