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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(12)

暗黒山脈(13)

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「この山道、他にも何本かあるのか」

ツヅキが口を開いた。
目の前では自分たちが登っている道の先が、下方から続いてきた別の道と合流し、また山の頂上へと一本の道となって伸びている。

「大きい山脈の、大きい山だもの。そりゃあそうよ」

メイは少し息を切らしながら言った。
先頭のツヅキが、後ろを振り返る。

メイの背後ではウィーが余裕そうについてきていた。
しかし更にその後ろ、カップはメイ以上に息を切らしている。

「ちょうどいいし、あの道の合流地点まで辿り着いたら休憩するか」

ツヅキは提案した。


◇◇◇


休憩を終え、一行はまた歩き始めた。
山道は合流後、少し起伏が緩やかになり、進みやすくなっていた。

ツヅキはまたも先頭となり、周囲を気にしつつも少し過去の出来事に思いを馳せ始めた。


◇◇◇


シュナーシュトック魔法学校の“場重ねの鏡”に到達したツヅキは、鏡を使って皆を助けるコトに成功した。
その後、一行は“暗黒山脈”に移動したが、山脈外部→内部への移動は鏡を以てしても、その麓までが限界のようだった。

しかし、内部→外部はその限りではないらしい。
そのコトは、メイが“自らがコピーした鏡”を完成させるために、“場重ねの鏡”を割って拝借した破片から判明した。
山脈をしばらく進んで最初の休憩時、メイが鏡の破片を自らの館であるペイルンオーリン家に繋げようとしたところ、容易く成功したのである。

このコトは(メイがそもそも破片を持っていたコトも含めて)皆を驚かせたが、ソレ以上に皆を驚かせるコトをメイは続けて起こした。
その破片を通じて、メイは自らの父であるデイルの失われた記憶を取り戻したのだった。

デイルは娘たちを護るため、一時的に娘に関するコトを部分的に忘却していた。
デイルが所属する「オートラグ」には、他人の心を読める人間がメイ以外にも(メイほどの能力はないが)複数存在するため、行われた処置だった。

しかしメイはもう記憶を忘却していなければならない時期は過ぎたと勝手に判断し、父の記憶を戻した。
記憶が戻ったデイルは当然、一行のサポートを約束してくれたのだった。


◇◇◇


ツヅキはふと、自分の手が腰にあるホルダー、その中の急須に触れているコトに気づいた。

黒く重厚感のある、高級さを備えたその急須を、ツヅキはホルダーから取りだす。
そして未だに一度も、旅立ってからは使用していないその急須を、歩きながらまじまじと見つめた。

「どうしたの? 何か気になる?」

メイが声をかける。

「いや、一度も使ってないな、と思ってね」

「私は使わないコトを少し祈ってるけどね」

「ああ、俺もそうだ」

その急須は、銃に変形するコトができる不思議な急須だ。
そしてその使用を唯一可能なのが、ツヅキら異世界から召喚された者たちだった。

ただ、その急須が銃に変形“する”であって、“させる”急須ではないのには理由があった。
その銃が“属する”国内にある限りは、異世界から召喚された者たちによって、急須から変形“させられる”。
しかし、国の領内を出た瞬間からは一つの条件が付く。その条件とは他の急須との遭遇、より正確には他の急須と“ある一定の距離内”に近づくコトだった。

故に、ツヅキはまだ一度も銃を使っていない。
そしてメイが『使わないコトを祈る』理由もソコにある。
ソレを使う時、その場には戦闘が生じるというコトだからだ。

「……『“少し”祈ってる』ってのはどういう意味だ?」

「まあ、ツヅキ君が異世界から特別に選ばれた人ってトコロを、少しは見たいじゃあない?」

「なるほどね」

と、皆が一瞬、しかし同時に左によろけた。

「わっ、なんですかぁ」

ウィーが言った。
だが皆、誰がやったのかはわかっている。メイだ。
メイは、杖を取りだしていた。

「ど、どうしました?」

カップが問いかけた。

「いや、何か妙な感じがして。皆を少し動かした方が良いような感じがしたのだけれど」

風を切る音が後方から聞こえた。
そしてその風が、皆の右頬を撫でた。
ツヅキに至っては、その風に触れられるかのような感覚さえ覚えた。

風は、前方の葉を“撃ち抜いて”いった。
ツヅキは自分の頬に触れた。濡れていた。
指には赤い血が少し付いており、自分の頬が切れているコトにツヅキは気づいた。

ツヅキのもう片方の手の中に握られている、急須が震えだした。
目をやると、急須が銃へと変形していくのが見えた。

敵がいる合図だった。
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