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United Japanese tea varieties of Iratsuko(12)

暗黒山脈(11)

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アンナは真っ暗な空に、紫煙を吐きだした。
いや、真っ暗というのは正しくない。ソレは空の一点に意識を集中すればであって、相変わらずこの街の風景には、色とりどりのネオンの光が繁茂している。

故に、紫煙というのも文字通り、紫色を時折その白くうねる身体に反射していた。
今や珍しくなった、紙巻きの煙草から生みだされた白蛇だ。

「あらあ。アンナはん、こないなトコロで一人、黄昏たはったんですか?」

背後からの柔らかな声に、アンナは振り向く。
舞妓が一人立っていた。

アンナはようやく自分が今U.J.Iの繫華街、その中にある高層ビルの、ひとフロアまるまるがソレである高級料亭内にいるコトを、強く意識し直した。

組織の上層にいると当然、色んな付き合いがある。
その付き合いの一環で自分はココにおり、合間に宴会場を抜けだして旅の一行の無事を確認し、今は広くて誰もいないルーフテラスにて煙を薫らせていたのを、強く意識し直したのだった。

「黄昏るっていうほど、良いモノではないわ。少し外の風を浴びたかっただけでね」

「そうどすかぁ。皆、アンナはん探したはりましたえ。皆言うても、お隣の御仁だけですけど」

舞妓が口を隠して笑った。
U.J.Iの“形だけ”局長のコトだ。

「仕方ないわね。コレを吸い終わるまでの、猶予はありそうだったかしら?」

「さあ、どないでしたやろ。でも、男の人は焦らしてなんぼや思いますし、ええんとちゃいますやろか」

クスクス笑う舞妓に、アンナも口角を上げて同意した。


◇◇◇


宴会場に戻ったアンナだったが、“お隣の御仁”はすっかり相手をしている舞妓しか見えていないようだった。

「すんまへんアンナはん。あの人、シズクちゃんをえらい気に入らはったみたいで」

「いや、大丈夫よ。ちょうど戻らなきゃと思ってたタイミングだったし」

「優しおすなあ。ほな、御一献させてもろても?」

「ええ」

「ごめんねシズクちゃん」

局長の相手をしているシズクという舞妓とスペースを分け合う形で、その舞妓は座った。

「ミヨ言います。よろしゅうおたのもうします」

「ミヨさんね。シズクさんとは恋仲?」

ミヨの手が止まる。
アンナは気にするコトなく注がれた日本酒を飲んだ。

「大丈夫、ソッチのおっさんには聞こえてないよ。そろそろブッ倒れる頃さ」

アンナの言った通り、“局長”はシズクに注がれた酒を一気飲みすると、仰向けに倒れて寝てしまった。
宴会場の他の面々ももう出来上がってしまっており、誰もそのコトを気にしていない。

シズクもアンナの一言を聞いていたようで、怪訝な顔で振り返った。
ミヨがコレまでと違う声音で聞く。

「どうして?」

「ご存じだと思うけど、こう見えても“局長代行”でね。貴方たちの左手薬指第二関節」

シズクがサッと反射的に指を隠す。

「それぞれ交換してるでしょ」

機械の舞妓たちは、観念したのか指を隠すコトはなくなった。
ミヨが口を開く。

「このコトは、誰にも……」

「言わないよ。そんな趣味はない」

「でも、貴女も」

シズクが言った。

「貴女も交換してる。機械なのは左手だけなのに」

「……確かに、人間にはそういう“儀式”はないね」

「ソレじゃあ何故?」

「私の場合は“盗聴器”ってトコロかな。向こうは交換に気づいてないし、恋仲でもないけど」

アンナが御猪口を差しだす。

「聞きだしたければ、どうぞ。尤も、私の秘密も貴女たちの秘密も、もう私の口から二度と話されるコトはない自信があるけれど」

二人は顔を見合わせると、ホッとしたように少し微笑んだ。

「ほなその口の固さ、二人でお相手させてもろて」

「じっくり、確かめさせてもらいます」
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