183 / 271
テラ・ドス・ヴェルメロス(12)
暗黒山脈(9)
しおりを挟む
雪山に足を踏み入れて数日、ようやく一行は白銀が減じて、緑と茶色の大地が広がっていく領域に到達した。
「ふう、ようやくだな」
オクルスが漏らす。
「み、皆さん!」
ララが珍しく、大きな声をだした。
三人が何事かと足を止める。
「そ、そこ、雪の終わりの境界線ですよね。ちょっと皆でお祝いしませんか?」
先頭のオクルスの足元を指すララ。
一行の目線が注がれたその場所は確かに、境界線だった。
ソコより先、雪はもう点々と存在するだけだ。
「お祝いって何を」
「イイねえ! やろやろ!」
アルマージュを吹っ飛ばして、レインスが賛同する。
「じゃ、じゃあ、皆で横一列で手を繋ぎましょう」
「は、はい」
オクルスも勢いに戸惑いつつ返答する。
雪の境界線上で、レインス、オクルス、ララ、アルマージュが横一列に手を繋いだ。
「オッケーですね。では、せーので境界線を越えましょう。いいですか? せーのっ!」
皆が一飛びで越境する。
雪を踏みしめる音がしない、暖かく確かな大地に一行が降り立った。
◇◇◇
オクルスたちは暗黒山脈中部に入り、木々が空高く林立し始めて少しまで進むと、その日は休むコトにした。
テントの中でも何も問題はなかったのだが、あえて外にでて焚き火を焚いた。
中部に入ったとは言え、まだ夜は少し寒い。
焚き火に鍋を掲げ、皆でその中身であるスープと具をつついていた。
「いやしかし、まだちょっと冷えるけど、昨日までは雪の中にいたとは思えないね。コッチは最高」
「レインスさん、寒いの本当にイヤそうでしたもんね。今夜はテントの中じゃあなくて、良かったんですか?」
「やっぱり外の直火ってのが何て言うか一番、熱さを実感できるじゃん? ほら、あの温泉みたいに」
「ああ、あの温泉は気持ち良かったですね」
雪中行軍を行っていた際、一行は周囲の雪が溶けたオアシスを発見した。
そのオアシスに湧いていたのは、香りの良い湯だったのである。
「お前、今シーズンは女なんだから、あの時みたいにいきなり脱ぐのは今後やめろよ」
「何? もしかして惚れちゃった? あんたをおちょくれるなら向こう10年はコッチでいようかな~」
レインスがオクルスの鼻先に人差し指を近づける。
オクルスはスプーンでその指を払った。
「でも俺は、あの山頂での夜明けも良かったな」
アルマージュが言う。
山頂近くに陣を張り、その翌日に皆で日の出を見た時があった。
ダイヤモンドダストが煌めく中、ゆっくりと照らされ明らかになっていく山嶺は、思わず神々の世界を想起させるソレだった。
「夜明け前の星も綺麗でしたね」
「今の空だって悪かないよ、ホラ」
木々の隙間、濃く眩しく、散りばめられた星々が見える。
「……結構、楽しい旅ですよね」
「うん」
「そうだな」
「確かに」
皆はしばらく、空を見上げていた。
「食後は、たまにはコーヒーにするか。ずっと熱い煎茶かほうじ茶だったし」
オクルスが提案する。
「あら、いいのかしら。お茶の精がそんなコトで」
「同じ植物だしな。お茶ばっかも飽きるし、面白くない」
「とびきりの濃いのに、ミルクを3分の1と、砂糖をひとさじ」
「全員、アルマージュメニューでいいか?」
皆は微笑みながら、コクリと頷いた。
「ふう、ようやくだな」
オクルスが漏らす。
「み、皆さん!」
ララが珍しく、大きな声をだした。
三人が何事かと足を止める。
「そ、そこ、雪の終わりの境界線ですよね。ちょっと皆でお祝いしませんか?」
先頭のオクルスの足元を指すララ。
一行の目線が注がれたその場所は確かに、境界線だった。
ソコより先、雪はもう点々と存在するだけだ。
「お祝いって何を」
「イイねえ! やろやろ!」
アルマージュを吹っ飛ばして、レインスが賛同する。
「じゃ、じゃあ、皆で横一列で手を繋ぎましょう」
「は、はい」
オクルスも勢いに戸惑いつつ返答する。
雪の境界線上で、レインス、オクルス、ララ、アルマージュが横一列に手を繋いだ。
「オッケーですね。では、せーので境界線を越えましょう。いいですか? せーのっ!」
皆が一飛びで越境する。
雪を踏みしめる音がしない、暖かく確かな大地に一行が降り立った。
◇◇◇
オクルスたちは暗黒山脈中部に入り、木々が空高く林立し始めて少しまで進むと、その日は休むコトにした。
テントの中でも何も問題はなかったのだが、あえて外にでて焚き火を焚いた。
中部に入ったとは言え、まだ夜は少し寒い。
焚き火に鍋を掲げ、皆でその中身であるスープと具をつついていた。
「いやしかし、まだちょっと冷えるけど、昨日までは雪の中にいたとは思えないね。コッチは最高」
「レインスさん、寒いの本当にイヤそうでしたもんね。今夜はテントの中じゃあなくて、良かったんですか?」
「やっぱり外の直火ってのが何て言うか一番、熱さを実感できるじゃん? ほら、あの温泉みたいに」
「ああ、あの温泉は気持ち良かったですね」
雪中行軍を行っていた際、一行は周囲の雪が溶けたオアシスを発見した。
そのオアシスに湧いていたのは、香りの良い湯だったのである。
「お前、今シーズンは女なんだから、あの時みたいにいきなり脱ぐのは今後やめろよ」
「何? もしかして惚れちゃった? あんたをおちょくれるなら向こう10年はコッチでいようかな~」
レインスがオクルスの鼻先に人差し指を近づける。
オクルスはスプーンでその指を払った。
「でも俺は、あの山頂での夜明けも良かったな」
アルマージュが言う。
山頂近くに陣を張り、その翌日に皆で日の出を見た時があった。
ダイヤモンドダストが煌めく中、ゆっくりと照らされ明らかになっていく山嶺は、思わず神々の世界を想起させるソレだった。
「夜明け前の星も綺麗でしたね」
「今の空だって悪かないよ、ホラ」
木々の隙間、濃く眩しく、散りばめられた星々が見える。
「……結構、楽しい旅ですよね」
「うん」
「そうだな」
「確かに」
皆はしばらく、空を見上げていた。
「食後は、たまにはコーヒーにするか。ずっと熱い煎茶かほうじ茶だったし」
オクルスが提案する。
「あら、いいのかしら。お茶の精がそんなコトで」
「同じ植物だしな。お茶ばっかも飽きるし、面白くない」
「とびきりの濃いのに、ミルクを3分の1と、砂糖をひとさじ」
「全員、アルマージュメニューでいいか?」
皆は微笑みながら、コクリと頷いた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる