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南山城国(12)

暗黒山脈(5)

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「申せ。童仙」

南山城国の主、月乃ヶ瀬夢絃が言った。
神聖なる剣道場には夜の帳が降りている。

童仙は夢絃と、正座で対峙していた。
道場の隅には夢絃の館の守護である、名張権左衛門が同じく正座している。

やや日時は前後するが“忌村”で“死んだ”後、童仙は南山城国は自らの茶園へと帰還した。
童仙としてはすぐさま旅路に戻りたかったが、時は夕刻も深くなった頃であり、夢絃が明日を待つよう命じたのだった。

そして明日までの間に現状の報告をするため、今、童仙は剣道場に召喚されている。

「まず、村域外周部について申し上げます。我らの領域を護っている紋様を通過した際、カオル殿のみが抵抗を受けました。彼女の持ち前の魔力故と思われます。
続き、汚染によって生まれた魔犬の襲撃。コレは遠藤殿と龍之介殿が対応、処理しました。
その後、しばらくを踏破し村域外周部から旧村域に到達。この時点でもまた、カオル殿が何らかの抵抗を受け、体調不良を示しておりました。状態を本人に確認し、私の判断の下、旧村域へ侵入するコトを決定しました」

「持ち前の魔力、か。当初会うた際は、まさかソコまでとは思わなんだが」

権左衛門が述べる。ソレもそのハズだ。
カオルは、この世界に召喚された時点では、まだ魔力的要素を一切持ち合わせてはいなかった。
そのコトはすぐさま、童仙自身が認識した。

一定の魔力的要素、つまり“まれびと”としての資格がなければ“再召喚”の儀が行われる。
南山城国では“還往”と呼ばれている。

かつてデル・ゾーネで久世ツヅキに行われる予定でもあったソレは、つまりは“まれびと”の消失――平たく言えば殺害を意味していた。

童仙は禁を犯した。
最初にカオルを夢絃に見せた際、わざと彼女に魔力があるように振る舞ったのである。

ソレは別にカオルへ特別の情があったからではない。
我々の世界の都合で召喚された彼女に対し、この世界の不条理にコレ以上巻き込まれる所以はないと、強く思ったからだ。

この世界は間違っている。
例え“まれびと”に力がないとしても、自らがソレ以上の力を行使すればよい。

童仙は静かに、しかし強かにそのような考えを腹に秘めていた。
よって彼女に徐々に魔力が、しかも強大な魔力が芽生えていくのは、驚きと共に嬉しさがあった。

「ソレにしても童仙、“報告言葉(しらせことのは)”が上手うなったのう」

権左衛門が言う。
“報告言葉”とは、要はU.J.I風の言葉遣いであり、カオルなどに言わせれば“現代語”と呼ばれるものだ。

かつてU.J.Iが南山城国と共同で“忌村”の調査と封鎖を行った際、“異常事象”を人に伝えるにはこの言葉遣いの方が良いと、南山城国側が盗んだものだった。

「遠藤殿の影響かもしれません」

「ソレは結構」
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