カメリア・シネンシス・オブ・キョート

United Japanese tea varieties of Iratsuko（１１）

宙宇るす流逆（１６）

ジュディは“雷の地雷原”の中を走り回っていた。

敵を中心に、その周囲を回転するように走り続ける。
時に逆向きに走って敵を翻弄し、そして時に近づいてヒット&アウェイを繰り返しながら。

一気に距離を詰めると、拳銃を撃ちながら敵の動きを牽制しつつ、その脇を滑り抜ける。
銃は一向にその重装備にダメージを与えられないが、しかしその装備のために敵もジュディを捕獲するだけのスピードを得られなかった。

距離を再度離す。そしてまた敵を中心に走る。
もちろんもう一つ忘れてはいけないモノ、地面から立ち昇る雷を避けながら。

敵はジュディが何かを待っているのを察知していた。
恐らく、瓦礫の向こうにいる味方だろう。

そう洞察しながら、敵は全く焦らなかった。
あの瓦礫の山をどかすには向こうの仲間数人では、まだまだ時間がかかるハズだ。

そして自分もこの女と同じ目的で待っている。この場所へ自分たちの軍勢がやってくるのを。

敵はそう考えながら、ゆっくりとジュディの相手をしていた。
ジュディはまた、敵へと距離を詰めた。

先程まで何度も行った動作と同じく、拳銃を撃ちながら走り寄るジュディ。
敵はあわよくばジュディを掴むつもりで、腕を伸ばす。

しかし、二人の距離が最も近づいた一瞬、ジュディの動きはいつもと違った。

敵の背中に、ジュディが左手でタッチした。
敵は振り向いたが、ジュディはもう距離を離している。先程までと同じく。

ジュディの待っていた“準備”は、もう整っていた。
ソレは敵が考えていたような、彼女の仲間たちではなかった。
ジュディは敵へと距離を詰め、その脇をすり抜けた直後の、敵が振り向くのに遅れる一瞬の間に、着々と準備を進めていた。

敵がジュディの左手を見る。ソコに左手はなかった。

そして敵の背中から首へと、何かが這い上る感覚があった。
すぐにソレが左手だと気づいたが、敵の重装備はその左手を払いのけるのに、枷となった。

敵は再度ジュディを見る。
左手がないというのは、正確には違っていた。
“左腕”からがなかった。

ジュディは細かく輪切り状に分解した左腕を、敵の死角に侵入した一瞬に、一つずつ“分配”していた。
最後まで腕の先端である左手だけを、電磁的な制御によって自らの袖の先に残したまま。

そして準備が整った今、残った左手先も相手に渡したのだ。