170 / 271
シュロッス・イン・デル・ゾーネ(11)
接近遭遇(28)
しおりを挟む
前3、上2、前、上… 前3、上2、前、上…
下の部屋に移動したツヅキは、脳内でそう反芻しながら部屋の中心を見た。
まだ何も出現していない。
先程までいた上の部屋では“箱”が空中を浮遊し始めていた。
アチラの自分に衝突するのも時間の問題だろう。
ツヅキは“前”の自分を見つめた。
数秒後、移動が完了する。
残るは『前2、上2、前、上』だ。
後ろの部屋を見る。“辺”が出現していた。
敵のペースは遅くはないが、追いつかれそうでもない。
ツヅキは少し安心した。
更に移動を進めていく。
残りが『上、前、上』となった時だ。
「そろそろ話しても大丈夫かしら?」
ツヅキの進んでいる方向からすると後方上部から、メイの声が聞こえた。
「ああ。後は上、前、上だし、あの箱も追いついてない」
「うん。貴方に進んでもらっている方向なのだけれど、この部屋たち?の場所から唯一脱出できる部屋への方向なのよ」
「そう願ってた。メイもその部屋へ向かってるのか?」
「ええ」
「同じ部屋に二人は入れないんじゃ?」
「出口の部屋は別。魔術回路によるとね。その部屋には箱も出現しない、ハズ」
メイの声が少し近くなった。
移動したのだろう。
ツヅキも次の部屋に移動するコトにした。
◇◇◇
最終的にツヅキは隣、メイは上から、出口となる部屋に入るコトができた。
「問題なく合流完了だな。“過去”方向の部屋を見ないよう、ドキドキしたが」
「この部屋では問題なく見てもらって大丈夫よ」
「いや、やめとく。“箱”がなくても、過去に拘束されるのはまっぴらゴメンだ」
「いえ、冗談じゃあないわ」
「ん?」
「コレから“過去”を見てもらうコトになるから」
ツヅキはいつも通り、理解が追いつかなかった。
右手を上げ、言う。
「説明を求めます」
「魔術回路によると、この部屋の“過去”方向に出口がある」
「ほお」
「一つ前の部屋でカップが言ってたでしょ。魔術核――破壊すればこの部屋からでられる核が、過去方向にあるの。ただ、ソレの詳しい位置まではわからないから、貴方に見てもらいたい」
「待て待て。仮に俺が見たとして、魔術核なんてわからんだろ。ソレに、わかったとしても“過去の俺”の許しがなければ、お前には伝えられないし、そもそも俺が過去方向のお前を視認している限り、お前も拘束される」
「その通り。だから、貴方が見るのは貴方だけ。部屋の半分だけを見てくれればいい」
「半分でいいのか?」
「別に、私としては部屋の過去方向を全て吹き飛ばして魔術核を破壊してもいい。けど、ソレをすると未来方向の私“たち”に私たちも吹き飛ばされるでしょ。部屋が半分残れば何とかなるわ」
ツヅキは頭がこんがらがってきたが、残る二つの疑問の解消に集中した。
「俺が見たとして、魔術核がわかるものなのか? そして、ソレをどう伝えればいい?」
「忘れたの? 私は心を読める。貴方は見た光景を、心象として心の中に描いてくれればいい。貴方が見ても核は見えないだろうけど、魔術は心の技術だから、心象さえ読めれば私には判断できる」
「そういうものなのか。心の中だけは過去に縛られないってワケね」
下の部屋に移動したツヅキは、脳内でそう反芻しながら部屋の中心を見た。
まだ何も出現していない。
先程までいた上の部屋では“箱”が空中を浮遊し始めていた。
アチラの自分に衝突するのも時間の問題だろう。
ツヅキは“前”の自分を見つめた。
数秒後、移動が完了する。
残るは『前2、上2、前、上』だ。
後ろの部屋を見る。“辺”が出現していた。
敵のペースは遅くはないが、追いつかれそうでもない。
ツヅキは少し安心した。
更に移動を進めていく。
残りが『上、前、上』となった時だ。
「そろそろ話しても大丈夫かしら?」
ツヅキの進んでいる方向からすると後方上部から、メイの声が聞こえた。
「ああ。後は上、前、上だし、あの箱も追いついてない」
「うん。貴方に進んでもらっている方向なのだけれど、この部屋たち?の場所から唯一脱出できる部屋への方向なのよ」
「そう願ってた。メイもその部屋へ向かってるのか?」
「ええ」
「同じ部屋に二人は入れないんじゃ?」
「出口の部屋は別。魔術回路によるとね。その部屋には箱も出現しない、ハズ」
メイの声が少し近くなった。
移動したのだろう。
ツヅキも次の部屋に移動するコトにした。
◇◇◇
最終的にツヅキは隣、メイは上から、出口となる部屋に入るコトができた。
「問題なく合流完了だな。“過去”方向の部屋を見ないよう、ドキドキしたが」
「この部屋では問題なく見てもらって大丈夫よ」
「いや、やめとく。“箱”がなくても、過去に拘束されるのはまっぴらゴメンだ」
「いえ、冗談じゃあないわ」
「ん?」
「コレから“過去”を見てもらうコトになるから」
ツヅキはいつも通り、理解が追いつかなかった。
右手を上げ、言う。
「説明を求めます」
「魔術回路によると、この部屋の“過去”方向に出口がある」
「ほお」
「一つ前の部屋でカップが言ってたでしょ。魔術核――破壊すればこの部屋からでられる核が、過去方向にあるの。ただ、ソレの詳しい位置まではわからないから、貴方に見てもらいたい」
「待て待て。仮に俺が見たとして、魔術核なんてわからんだろ。ソレに、わかったとしても“過去の俺”の許しがなければ、お前には伝えられないし、そもそも俺が過去方向のお前を視認している限り、お前も拘束される」
「その通り。だから、貴方が見るのは貴方だけ。部屋の半分だけを見てくれればいい」
「半分でいいのか?」
「別に、私としては部屋の過去方向を全て吹き飛ばして魔術核を破壊してもいい。けど、ソレをすると未来方向の私“たち”に私たちも吹き飛ばされるでしょ。部屋が半分残れば何とかなるわ」
ツヅキは頭がこんがらがってきたが、残る二つの疑問の解消に集中した。
「俺が見たとして、魔術核がわかるものなのか? そして、ソレをどう伝えればいい?」
「忘れたの? 私は心を読める。貴方は見た光景を、心象として心の中に描いてくれればいい。貴方が見ても核は見えないだろうけど、魔術は心の技術だから、心象さえ読めれば私には判断できる」
「そういうものなのか。心の中だけは過去に縛られないってワケね」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる