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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(11)

接近遭遇(28)

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前3、上2、前、上… 前3、上2、前、上…
下の部屋に移動したツヅキは、脳内でそう反芻しながら部屋の中心を見た。
まだ何も出現していない。

先程までいた上の部屋では“箱”が空中を浮遊し始めていた。
アチラの自分に衝突するのも時間の問題だろう。

ツヅキは“前”の自分を見つめた。
数秒後、移動が完了する。
残るは『前2、上2、前、上』だ。

後ろの部屋を見る。“辺”が出現していた。
敵のペースは遅くはないが、追いつかれそうでもない。
ツヅキは少し安心した。

更に移動を進めていく。
残りが『上、前、上』となった時だ。

「そろそろ話しても大丈夫かしら?」

ツヅキの進んでいる方向からすると後方上部から、メイの声が聞こえた。

「ああ。後は上、前、上だし、あの箱も追いついてない」

「うん。貴方に進んでもらっている方向なのだけれど、この部屋たち?の場所から唯一脱出できる部屋への方向なのよ」

「そう願ってた。メイもその部屋へ向かってるのか?」

「ええ」

「同じ部屋に二人は入れないんじゃ?」

「出口の部屋は別。魔術回路によるとね。その部屋には箱も出現しない、ハズ」

メイの声が少し近くなった。
移動したのだろう。
ツヅキも次の部屋に移動するコトにした。


◇◇◇


最終的にツヅキは隣、メイは上から、出口となる部屋に入るコトができた。

「問題なく合流完了だな。“過去”方向の部屋を見ないよう、ドキドキしたが」

「この部屋では問題なく見てもらって大丈夫よ」

「いや、やめとく。“箱”がなくても、過去に拘束されるのはまっぴらゴメンだ」

「いえ、冗談じゃあないわ」

「ん?」

「コレから“過去”を見てもらうコトになるから」

ツヅキはいつも通り、理解が追いつかなかった。
右手を上げ、言う。

「説明を求めます」

「魔術回路によると、この部屋の“過去”方向に出口がある」

「ほお」

「一つ前の部屋でカップが言ってたでしょ。魔術核――破壊すればこの部屋からでられる核が、過去方向にあるの。ただ、ソレの詳しい位置まではわからないから、貴方に見てもらいたい」

「待て待て。仮に俺が見たとして、魔術核なんてわからんだろ。ソレに、わかったとしても“過去の俺”の許しがなければ、お前には伝えられないし、そもそも俺が過去方向のお前を視認している限り、お前も拘束される」

「その通り。だから、貴方が見るのは貴方だけ。部屋の半分だけを見てくれればいい」

「半分でいいのか?」

「別に、私としては部屋の過去方向を全て吹き飛ばして魔術核を破壊してもいい。けど、ソレをすると未来方向の私“たち”に私たちも吹き飛ばされるでしょ。部屋が半分残れば何とかなるわ」

ツヅキは頭がこんがらがってきたが、残る二つの疑問の解消に集中した。

「俺が見たとして、魔術核がわかるものなのか? そして、ソレをどう伝えればいい?」

「忘れたの? 私は心を読める。貴方は見た光景を、心象として心の中に描いてくれればいい。貴方が見ても核は見えないだろうけど、魔術は心の技術だから、心象さえ読めれば私には判断できる」

「そういうものなのか。心の中だけは過去に縛られないってワケね」
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