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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(11)

接近遭遇(26)

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「少し気づいたことがあるのだけれど」

「何だ?」

上の部屋のメイが、下の部屋の自分自身を見つめながら言う。

「今の私は見ての通り、貴方の部屋の私には移れない」

「そうみたいだな」

「少し法則性がわかってきたかもしれない。私の今いる部屋に移れる? ツヅキ君」

ツヅキは上の部屋の自分をじっと見た。
何も起こらない。

「何も」

「じゃあ次は最初にいた部屋の方を」

ツヅキにメイが言葉を被せる。
ツヅキは指示通り試した。何も起こらない。

「……どうですか」

「うん。あくまで仮説よ」

「ああ」

「自分が前にいた部屋と、お互いのどちらかがいる部屋には、移動できないんだと思う」

「ほーん。なるほど」

「そして、ソレがわかったコトで一つ収穫がある」

「聞きましょう」

「その環境を支配している魔術回路を“読み始める”には、最低でも二つ以上の法則性を発見する必要があるの」

「何の話だ」

ツヅキは話が長くなりそうなので、壁に近づき背中を預けた。

「こういうワケのわからない場所への一番の対処法は、魔術回路を読むコトだわ。そしてこの部屋の設計者もソレを前提としている。私たちが目指す“鏡”、ソコへの最後の試練としての、この部屋の設計者もね」

「はあ」

「カップが確か言ってたわよね。この試練たちは元々、一人で挑むように設計されているって。この部屋は最後の試練に相応しく、最も難しい内容なのよ、本来は」

「あー、読めてきたぞ。俺たちは二人いるから『お互いのどちらかがいる部屋には移動できない』ってすぐにわかったけど、本当はソレは中々わからないってコトか」

「ご明察。私たちはコレで『前にいた部屋には移動できない』というのと合わせて、二つの法則が発見できた。魔術回路が読めるワケだけど、本当はこんなに簡単じゃあないってコト」

「なるほどね」

メイが額に指を当て、目をつぶる。
魔術回路を読み始めたらしい。

「あ」

「どうした」

ツヅキが背中を預けていた壁が震えた。
思わず振り返る。

向こうの部屋でも自分が更に向こうを振り返り、メイは下の部屋を向いている。
そして部屋の中心に、何かが浮かんでいた。

ツヅキは自分のいる部屋の中心を見る。何もない。
上の部屋、メイのいる部屋の中心にも何もなかった。
メイはコチラを見ているが、目を見開いているだけで焦点は合っておらず、どうやらまだ魔術回路を読み続けているらしい。

「メイ? 何か起こってるっぽいが」

ツヅキはそう問いかけながら、目線を隣の部屋に戻した。
やはり隣の部屋の中心にだけ、何かがある。しかも、つい最近に何処かで見たような何かだ。

すぐに記憶は戻ってきた。
最初の試練があった縦長の部屋。初め、目のピントが合わせづらくて、すぐには目視できなかった物体。
あの部屋で一行に襲いかかってきた、触れた物体を切り刻み砕く半透明の四角い箱が、隣の部屋の中心に浮かんでいた。
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