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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(11)
接近遭遇(25)
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「俺が移動した? というかこの部屋、音は伝わるのか」
ツヅキが“先程までいた部屋”と“今いる部屋”の境界に近づいた。
透明の壁が部屋と部屋を区切っている。
メイも壁に近づく。
「貴方の意識だけが移動したっぽいわね。私、何も起きてないし」
「そうみたいだな」
「どうやって移動したの?」
「わかれば戻ってる」
「思いだして。なんかクラクラしてたけど」
「……隣の自分を見てたらそうなったんだが」
メイが、ツヅキが移動した部屋の自分自身を見た。
「……何も起きないけど」
「しばらく見てみてくれ」
しかし、何も起きなかった。
「ん~、反対側は? 後ろの自分を見ないようにしろよ、過去側の」
見ると行動が制限されてしまう“過去方向の部屋”について注意しながら、ツヅキは提案した。
メイはその提案に従い、ツヅキが移動した部屋とは反対側の部屋の自分を見る。
と、数秒後にメイが頭を抑えた。
「どうだ?」
しかしメイはツヅキの問いかけにすぐには答えず、しばらく頭を抑えた後に、ツヅキの方を振り向いた。
目の前のメイがパクパクと口を動かす。そしてその向こう側、一つ部屋を隔てた遠くから声が聞こえた。
「聞こえる?」
ツヅキとメイは状況を把握し、声量を上げた。
「移動したか?」
「どうやらそのようね」
「ちょっと待っててくれ」
ツヅキが元いた部屋の自分を凝視する。しかし何も起こらなかった。
「また移動したわ」
メイの声がまた少し遠くなって聞こえた。声の方角は……
「今いた部屋のもう一つ上の部屋よ。貴方からは見えないわよね」
「ああ」
部屋から視認できるのは前と後ろ、そして上下左右の部屋の連なりだけだ。
ソレ以外の部屋、例えば斜め上の部屋は見えなかった。
「声が聞こえるからよかったものの、もし聞こえなかったらと思うと、視界から外れる部屋への移動は結構な賭けだったぞ」
「あら、一人になるのが怖かった?」
「ああ、その通り」
適当に返したツヅキに対し、メイはすぐに返事を返さなかった。
そしてしばらくして
「また移動したわ」
メイの声は近づいて聞こえた。
「どう移動してる?」
「もうすぐ会えるかも」
すると、隣の部屋にいるメイがしゃがんだ。片膝をついて下の部屋を見ている。
ツヅキも下の部屋を見る。
「そっちじゃあないわ。上よ」
ああそうかと、ツヅキは上を見た。
頭上の部屋のメイがコチラを向いている。そして声も、そのメイから発されていた。
「少し移動に慣れてきたみたい」
「どうやらそのようで何より」
ツヅキが“先程までいた部屋”と“今いる部屋”の境界に近づいた。
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「そうみたいだな」
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しかし、何も起きなかった。
「ん~、反対側は? 後ろの自分を見ないようにしろよ、過去側の」
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メイはその提案に従い、ツヅキが移動した部屋とは反対側の部屋の自分を見る。
と、数秒後にメイが頭を抑えた。
「どうだ?」
しかしメイはツヅキの問いかけにすぐには答えず、しばらく頭を抑えた後に、ツヅキの方を振り向いた。
目の前のメイがパクパクと口を動かす。そしてその向こう側、一つ部屋を隔てた遠くから声が聞こえた。
「聞こえる?」
ツヅキとメイは状況を把握し、声量を上げた。
「移動したか?」
「どうやらそのようね」
「ちょっと待っててくれ」
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「また移動したわ」
メイの声がまた少し遠くなって聞こえた。声の方角は……
「今いた部屋のもう一つ上の部屋よ。貴方からは見えないわよね」
「ああ」
部屋から視認できるのは前と後ろ、そして上下左右の部屋の連なりだけだ。
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「声が聞こえるからよかったものの、もし聞こえなかったらと思うと、視界から外れる部屋への移動は結構な賭けだったぞ」
「あら、一人になるのが怖かった?」
「ああ、その通り」
適当に返したツヅキに対し、メイはすぐに返事を返さなかった。
そしてしばらくして
「また移動したわ」
メイの声は近づいて聞こえた。
「どう移動してる?」
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すると、隣の部屋にいるメイがしゃがんだ。片膝をついて下の部屋を見ている。
ツヅキも下の部屋を見る。
「そっちじゃあないわ。上よ」
ああそうかと、ツヅキは上を見た。
頭上の部屋のメイがコチラを向いている。そして声も、そのメイから発されていた。
「少し移動に慣れてきたみたい」
「どうやらそのようで何より」
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