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南山城国(11)

忌村(15)

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「もうすぐ抜けられます!」

童仙は皆に叫んだ。
敵の追撃をかわしながら走り続け、ようやく村の出口が見えてきたのだった。

と、上空に展開する“蝶”もソレを察したのか、叫んだ。

「テケリ・リ! テケリ・リ!」

皆が天を仰ぐ。
サーモグラフィ越しに、“蝶”の触手が何本も下ってくるのが見えた。
コレまでは“村民”を食べる行為の片手間だった追撃が、完全に旅の一行に狙いを定めたらしい。

ただ、その攻撃は数にものを言わせたソレで、上空から触手が勢いよく落ちては来るものの、避けるのは容易だった。
敵もその本数には限界があるのか、落とした触手で追ってくるというコトはせず、落としては引き戻しを繰り返している。

前方にも既に何本か“触手の柱”が形作られてはいるが、極端に近づかない限り脅威にはならず、その脇を走り抜けて回避できた。

「行けます! もう少し!」

龍之介が言った。
走りだした時は最後尾だったが、体格が小さいのとその持ち前の素早さで、今や先頭を走っていた。

次いでカオル、遠藤、そして童仙だ。
カオルは女子としては足が速い方だったが、ソレでも流石に少し年上の男性には敵わない。
にも関わらず二番手だったのは、遠藤がそのすぐ後ろを守りつつ走っていたからだった。

しかし遠藤としては、自分でも気を抜くと置いてかれそうなほどのカオルの速さに、安心感と心強さを感じていた。
カオルの方も味方がすぐ後ろにいるのが常にわかるコトで、後ろ髪引かれず全力で走るコトができた。

最後尾の童仙は、触手を断ち切りながら進んでいた。
敵の本体に触手が戻るのを少しでも遅らせるコトで、敵の更なる攻撃を減らしていた。

龍之介が村の外の森に出た。
まだ安心はできないが、素早く周囲の薮を切りつける。
小さな円状の更地を龍之介は作った。

その円の中心に片膝をつくと、龍之介は鞘から少し刀をだした状態で皆を待った。
いつでも敵が近づいてきたら切りつけられる状態で、残る三人の到着を待つことにしたのだった。
まだしばらく続く森の中を、皆と離れて進むのは危険という判断に基づいての行動だ。

また、どういうワケか“蝶”も、村の外までは追ってはこなかった。
村に入る前がそうだったように、隔離地域に含まれている森の中も今だ“怪異”の領域内ではあるが、どうやら村の生活区とそれ以外では怪異の理の勝手が違うらしい。
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