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バクエット・ド・パクス(11)

他国に入っただけなのに(15)

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「ひゃっ。……雷ですかね?」

何が『ひゃっ』だよ。
腕に抱きついてきたカトリーヌに、ミサトは内心毒づいた。

「腕が暑いぞ。ただでさえお前のは肉があるんだから」

「肉って……。たわわだって、言ってほしいですね♪」

「しかし、確かに遠雷が聞こえたな。この壁の向こうか?」

ミサトら一行は、一夜明けて旅を進めていた。
そしてU.J.I国内を西に横断する道中、北方に聳え立つ巨大な壁に、立ち寄るコトにしたのだった。

「やはり“廃都”からの雷ではないでしょうか? コチラ側は晴れていますし」

ノワールが言う。
ブレーズがいつも通り、聞き取りにくい声で問うた。

「……の……ですか?」

「ええ、『時間の逆流』です。聞くところによると、この壁から漏れだした物質はエントロピーを遡っているようですから」

「スプライト状の雷、一度見てみたいですね♪」

「スプライト?」

ミサトがカトリーヌに聞く。
パクスの人々は、今でこそ先の災厄で科学的文明指標から見ると後退していると言えるが、その知識量に関しては相変わらずだ。
つまるトコロ、用語が割と時々専門的。

「ええ♪ 雷雲から落ちてくるのが雷、逆に上方に昇っていくのがスプライトと呼ばれる現象です」

「あ、ソレか」

ミサトも知っていた現象だった。
まあ、スプライトと咄嗟に言われれば日常的に想起するのは飲み物かマンガだろう。

「時間が逆流している世界では、雷は昇るワケか。龍みたいに」

「ほら! 壁に触れてると、雷の震動が伝わってきますよ♪」

皆も壁に触れる。
ビリビリと、手のひらの皮膚が震わせられる。

「……U.J.Iの一行がこの中を通って“山脈”を目指す、というコトはないのかな」

「“廃都”を通って、というコトですか? ミサトさん」

「うん、ノワール。何せ空間的にも近道だし、“時間的”にも近道だろ?」

「じゃあ、出口で待ち構えますか? アリですね♪」

「冗談じゃあなく、お前はどう思う? カトリーヌ」

「無いとは言えませんが、まだ旅を始めていないぐらい出発が遅れていない限り、ソコまでの危険を冒すとは思えませんねえ。そして今のは冗談じゃあないです♪」


◇◇◇


「おい、壁に触れてる観光客がいるぞ」

フランシスがジュディに言った。

「大丈夫よ。外側から破壊できるなら、とっくに内側から壊されてる」

「いや、別にそれほどのコトは心配してない。ただ、変わった恰好の観光客が、物珍しく無骨なデケー壁に触ってるぜ、っていうだけのただの世間話さ」

「確かに。まあ、壁の内側の情報を一般人が知る由もないだろうけど、“デケー壁”はやっぱりソレだけで興味をそそるモノでしょうよ」

パクスからの一行とは露知らず、その背後を通過しながら二人は話した。
めまいを起こしそうな時系列だが、この後にジュディらは“廃都”への侵入を開始する。

そして“ここ”の今現在、廃都からの脱出間近であるU.J.I一行と“雷の地雷原”の中のジュディ、壁に触れているパクス一行、そしてその背後を通ったフランシスとジュディは、同時に存在していた。
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