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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(10)

接近遭遇(22)

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「……何を言ってるか、わかってるのか? ウィーと同じ状態になるってコトだぞ」

「わかってます。ソレがこの部屋たちの目的なんです」

「目的?」

「ええ。本来この部屋、と言うか試練たちは、一人で挑むよう設計されているようです。クリアできなければその時点までです。
そして私たちは本質的に、クリア条件を満たしていません」

「満たしていない?」

「魔術を“置いていく”コトができていないんです。つまり私たちには、お茶の“味わいの余韻”が足りないようです。
さっきの部屋であればウィーさんがいなくともその場に『透明の壁』を“置いて”おければ、そして、この部屋であれば私がいなくとも『見てはいけないもの』を抑えておける重力魔法を“置いて”おければ、スムーズに先に進めたはずです」

ツヅキは素早く、改めて部屋の両端とカップの腕先に目を走らせる。
カップの両腕先は、やはりその向けられている方向のモノを抑えるために、小刻みに震えている。

「……余韻があるって、どのレベルだよ」

「そうですね……。ツヅキさんの知っている人であれば“おちゃはかせ”やオートラグの方々、少なくともソレ以上のレベルの人たちですね」

ツヅキは一瞬だけ、目をつぶった。
そして、決心を込めた眼光で、カップを見つめた。

「わかった。ココは頼む」

「ええ」

ツヅキは走って、カップのゴーレムに向かった。
先程、メイが進んだ時は、その先にいるメイのゴーレムは暗闇に進んでいったが、ツヅキのゴーレムは静止したままだ。
まだツヅキが“魔術核”だからだろう。

「メイ! カップの心を読んでくれ! 魔術回路に介入して、魔術核とやらを変更してもらいたい」

「はあ!? それ最適解?」

「現状ではそうだと思う!」

メイがカップの心を読む。
すぐに案を把握したようだ。

「カップ、ソレでいいのね?」

「はい。……私もウィーさんには負けず劣らず、実はしぶといですよ?」

ツヅキの隣にいる、ウィーのゴーレムがそう述べた。
メイの脳裏に先刻、自分が『ウィーはしぶとい』と言ったシーンがフラッシュバックする。

「そうね。……ウィーと違って、強がりが似合わないけれど」

メイがくぐもった声で言う。
カップはソレを聞いて、少し目をきらめかせながら笑った。

と、ツヅキのゴーレムが暗闇に落下した。
ゴーレムが無数の手の方へ消えると、暗闇から咆哮が響いた。
『見てはいけないもの』の声だ。

「魔術核が変更されました、ツヅキさん。さあ、私に触れて」

カップがゴーレムを通じて、そう話す。
カップの肩に手を伸ばして触れる直前に、ツヅキは言った。

「カップ、自分では必死で気づいてないかもだが、普通に話せてるぞ」

「え? あっ、あっ。ホントですね」

「必ず迎えにくる」

「じゃあ少しだけ、頑張りますね」
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