上 下
145 / 276
シュロッス・イン・デル・ゾーネ(10)

接近遭遇(17)

しおりを挟む
「わっ、私はっ!」

カップが杖を取りだし、構えて言う。

「じゅ、準備できましたっ……!」

ソレを聞いて、遠くにいるカップに、杖を構えられているメイが言った。

「私に対して言ってる?」

「いっ、いえっ。じ、自分に対してです。……あ、あと、向こうのメイさんに対しても少しだけ」

「冗談よ。コレでツヅキ君、貴方の不安は払拭されたのではなくて?」

「みたいだな。じゃあ、やるか」


◇◇◇


残り半分の地点まで、メイが歩を進めた。
今のトコロ、向かっていくメイにも向かってくるメイにも変化はない。
尤も、両者を確認できるのはカップだけだったが。

カップは、以降は向かってくるメイの方に集中するコトに決めた。
ツヅキの前に半歩でる。

「カップ、君に今頃こんなコト言ってもアレなんだが」

「な、何ですか?」

「この体勢、結構しんどいんだよ。いや、もちろん誰のせいってワケでもないんだが」

「も、もうちょっとです。ご、ごめんなさい……」

「いや、なんかすまん」

話している間に、メイがもう少しという距離まで近づいてきた。
全く何も“本物のメイ”と異なるトコロはない。

「どうかしら? 変化ある?」

近づいてきたメイが言った。
どちらのメイが言ったのかはわからないが、カップが答える。

「い、いえ。み、見た目には何もありません」

「そう。私から見てもカップ、コチラの貴方には変化ないわ」

カップが逡巡する。
このメイは向こうに行ったメイと“同期”しているメイなのだろうか。
だとしたら、向こうの私は?

果たして今、メイさんと私との間にこの奇妙な通信は、本当に実現しているのだろうか。

「準備できてる? ツヅキ君」

「ああ。ソッチのオレは喋ってるのか?」

「体勢こそ貴方と違うけど、喋ってるわ。お顔にも何の違和感もないわね。ホンモノより少し整ってるかしら」

「言っとけ」

「ただ」

「?」

「心が読めないわね」

「不穏だな」

「触れてもいいかしら?」

ツヅキとカップが顔を見合わせる。

「ああ。コッチは準備OKだ」

メイが、ソレまでは胸の下に構えていた杖を、腕を上げて頭の横まで持ってきた。
右手はその構えにして、左手をツヅキに伸ばす。

カップも右手を伸ばしてメイに杖を向けた。
左手は胸の辺りを押さえている。

メイの左手が、ツヅキの右肩に触れた。

と、一瞬の静寂の後に、メイの身体が勢いよく扉の向こうへと引っ張られた。
ツヅキが思わず身体を前に向け、左手でメイの左腕を掴む。
ツヅキの身体もメイに引っ張られ、何とか右手で持っているドアノブにしがみついている格好となった。

「くっそッ! 何だよっ!」

「ツヅキさん!」

カップもツヅキの右腕を引っ張る。
力は強くないが、ツヅキが少し楽にはなった。
だが、状況は予断を許してはいない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。 しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。 ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。 同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。 ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。 小説家になろう実績 2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。 2019/3/17 総合     日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。 本作の無断転載・加工は固く禁じております。 Reproduction is prohibited. 禁止私自轉載、加工 복제 금지.

処理中です...