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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(10)
接近遭遇(17)
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「わっ、私はっ!」
カップが杖を取りだし、構えて言う。
「じゅ、準備できましたっ……!」
ソレを聞いて、遠くにいるカップに、杖を構えられているメイが言った。
「私に対して言ってる?」
「いっ、いえっ。じ、自分に対してです。……あ、あと、向こうのメイさんに対しても少しだけ」
「冗談よ。コレでツヅキ君、貴方の不安は払拭されたのではなくて?」
「みたいだな。じゃあ、やるか」
◇◇◇
残り半分の地点まで、メイが歩を進めた。
今のトコロ、向かっていくメイにも向かってくるメイにも変化はない。
尤も、両者を確認できるのはカップだけだったが。
カップは、以降は向かってくるメイの方に集中するコトに決めた。
ツヅキの前に半歩でる。
「カップ、君に今頃こんなコト言ってもアレなんだが」
「な、何ですか?」
「この体勢、結構しんどいんだよ。いや、もちろん誰のせいってワケでもないんだが」
「も、もうちょっとです。ご、ごめんなさい……」
「いや、なんかすまん」
話している間に、メイがもう少しという距離まで近づいてきた。
全く何も“本物のメイ”と異なるトコロはない。
「どうかしら? 変化ある?」
近づいてきたメイが言った。
どちらのメイが言ったのかはわからないが、カップが答える。
「い、いえ。み、見た目には何もありません」
「そう。私から見てもカップ、コチラの貴方には変化ないわ」
カップが逡巡する。
このメイは向こうに行ったメイと“同期”しているメイなのだろうか。
だとしたら、向こうの私は?
果たして今、メイさんと私との間にこの奇妙な通信は、本当に実現しているのだろうか。
「準備できてる? ツヅキ君」
「ああ。ソッチのオレは喋ってるのか?」
「体勢こそ貴方と違うけど、喋ってるわ。お顔にも何の違和感もないわね。ホンモノより少し整ってるかしら」
「言っとけ」
「ただ」
「?」
「心が読めないわね」
「不穏だな」
「触れてもいいかしら?」
ツヅキとカップが顔を見合わせる。
「ああ。コッチは準備OKだ」
メイが、ソレまでは胸の下に構えていた杖を、腕を上げて頭の横まで持ってきた。
右手はその構えにして、左手をツヅキに伸ばす。
カップも右手を伸ばしてメイに杖を向けた。
左手は胸の辺りを押さえている。
メイの左手が、ツヅキの右肩に触れた。
と、一瞬の静寂の後に、メイの身体が勢いよく扉の向こうへと引っ張られた。
ツヅキが思わず身体を前に向け、左手でメイの左腕を掴む。
ツヅキの身体もメイに引っ張られ、何とか右手で持っているドアノブにしがみついている格好となった。
「くっそッ! 何だよっ!」
「ツヅキさん!」
カップもツヅキの右腕を引っ張る。
力は強くないが、ツヅキが少し楽にはなった。
だが、状況は予断を許してはいない。
カップが杖を取りだし、構えて言う。
「じゅ、準備できましたっ……!」
ソレを聞いて、遠くにいるカップに、杖を構えられているメイが言った。
「私に対して言ってる?」
「いっ、いえっ。じ、自分に対してです。……あ、あと、向こうのメイさんに対しても少しだけ」
「冗談よ。コレでツヅキ君、貴方の不安は払拭されたのではなくて?」
「みたいだな。じゃあ、やるか」
◇◇◇
残り半分の地点まで、メイが歩を進めた。
今のトコロ、向かっていくメイにも向かってくるメイにも変化はない。
尤も、両者を確認できるのはカップだけだったが。
カップは、以降は向かってくるメイの方に集中するコトに決めた。
ツヅキの前に半歩でる。
「カップ、君に今頃こんなコト言ってもアレなんだが」
「な、何ですか?」
「この体勢、結構しんどいんだよ。いや、もちろん誰のせいってワケでもないんだが」
「も、もうちょっとです。ご、ごめんなさい……」
「いや、なんかすまん」
話している間に、メイがもう少しという距離まで近づいてきた。
全く何も“本物のメイ”と異なるトコロはない。
「どうかしら? 変化ある?」
近づいてきたメイが言った。
どちらのメイが言ったのかはわからないが、カップが答える。
「い、いえ。み、見た目には何もありません」
「そう。私から見てもカップ、コチラの貴方には変化ないわ」
カップが逡巡する。
このメイは向こうに行ったメイと“同期”しているメイなのだろうか。
だとしたら、向こうの私は?
果たして今、メイさんと私との間にこの奇妙な通信は、本当に実現しているのだろうか。
「準備できてる? ツヅキ君」
「ああ。ソッチのオレは喋ってるのか?」
「体勢こそ貴方と違うけど、喋ってるわ。お顔にも何の違和感もないわね。ホンモノより少し整ってるかしら」
「言っとけ」
「ただ」
「?」
「心が読めないわね」
「不穏だな」
「触れてもいいかしら?」
ツヅキとカップが顔を見合わせる。
「ああ。コッチは準備OKだ」
メイが、ソレまでは胸の下に構えていた杖を、腕を上げて頭の横まで持ってきた。
右手はその構えにして、左手をツヅキに伸ばす。
カップも右手を伸ばしてメイに杖を向けた。
左手は胸の辺りを押さえている。
メイの左手が、ツヅキの右肩に触れた。
と、一瞬の静寂の後に、メイの身体が勢いよく扉の向こうへと引っ張られた。
ツヅキが思わず身体を前に向け、左手でメイの左腕を掴む。
ツヅキの身体もメイに引っ張られ、何とか右手で持っているドアノブにしがみついている格好となった。
「くっそッ! 何だよっ!」
「ツヅキさん!」
カップもツヅキの右腕を引っ張る。
力は強くないが、ツヅキが少し楽にはなった。
だが、状況は予断を許してはいない。
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