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バクエット・ド・パクス(10)

他国に入っただけなのに(10)

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「ご利用どうも。ソレじゃあ、いい旅をな。お嬢さん方も」

タクシーの運転手はそう言うと、運賃を支払ったノワールが降りるのを確認し、ドアを閉めた。
タクシーの起動音が大きくなり始め、一行は少し距離をとる。

「ああ、そうだそうだ」

タクシーが少し地面を離れ、ちょうど運転手と皆の顔の高さが同じくらいになった時に、彼が忘れていたように言った。

「そういや、俺だがね」

運転手が自らの首元を押さえる。
瞬間、顔の半分が肌色から白色の合成皮膚のソレへと変化し、勢いよく開いた。
内部の駆動領域が露出される。

「答えは機械だよ。ま、全部じゃあないがね」

またケタケタと笑うと、夜空へと消えていった。

「……いや、わかりませんでしたね」

ノワールが呟く。

「ホントですね♪ 気づいていたのはブレーズさんだけのようです♫」

「え、そうなのか?」

「ええ、ミサトさん♪ ねー、ブレーズさん」

「私の……は、パクス……特殊…………」

「え?」

疑問符のミサトに、カトリーヌが耳もとで囁く。

「ブレーズさんの得意技の付随能力が、他者の身体の秘密を暴くコトなんですよ。私も欲しいです♪」

そう言えば旅立ちの前の『能力審査』の時、ソレを前提にした技をだしていたっけ。
ミサトはそう思いだし、カトリーヌに同じ能力がないコトを感謝した。


◇◇◇


彼は遥か下になったパクスからの一行を一瞥すると、FBU本部に目を移したのち、離れ始めた。

「全部じゃあないが、答えは機械、か」

より正確に言えば、タクシーの運転手である彼の実体は全部が機械だった。
機械でないのは彼のゴーストだけだ。しかもソレは“彼”ではなかった。

「以上、データ転送終了。暗号通信最高強度領域から離脱。ログを終了する」

そう述べると彼は一瞬、あらゆる機能を停止させて静止した。
すぐさま“彼”自身の意識が戻る。

「……?」

彼は全くもって状況が把握できなかったが、自分が廉価なアンドロイドであるコトと、その製造目的故に低賃金労働なため、自らの高級なアップデートができていないコトを思いだし、現在確認できる状況にも問題が検出されなかったため、すぐさま自らの“タクシー運転手”としての業務に復帰すると、ネオンが煌々と混沌のレベルを増していく方向へと、次の客を探しに消えていった。


◇◇◇


「……」

彼女は薄暗く殺風景な、しかしタクシー車内よりは広々とした部屋で目を覚ました。
FBU捜査局局長代行、アンナ・ライトである。
U.J.Iの旅の一行を送りだした、一行の直属の上司でもある、その人だ。
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