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バクエット・ド・パクス(10)

他国に入っただけなのに(8)

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「はえー。コレがU.J.Iかぁ」

ミサトはセントラルゲートを抜け、空を仰いで言った。

「ようやくU.J.Iの街並みが拝めましたね♪」

U.J.I内には数時間前に入国していた一行だったが、入国後は窓のない屋内と、コレまた窓のない空中移動エレベーターの中に閉じ込められっぱなしだったため、外を見る機会がなかったのだ。

「しかし、セントラルゲートをくぐるまで外が見られないというのは、やはりそういうコトなのでしょうか」

ノワールがカトリーヌに聞く。

「そういうコトでしょうね♪」

「どういうコトか、大体は推測できるけど一応聞いておこうかな?」

「ええ、推測の通りですよ♪ ミサトさん」

「……教えてください」

ソレを聞いてカトリーヌがジト目で、ツンツンとミサトの方を指差す。
ミサトはソレを煩わしそうに手で払った。
ブレーズが口を隠して笑う。

「こほん。では……U.J.Iが、実は衰退期に入っているかもしれないというコトは、勿論ミサトさんもご存知ですよね?」

「ああ、ソレぐらいはね。この科学力とは裏腹に、だろ?」

ミサトがネオン煌めく街路と、空を縫うように飛んでいる車、人間よりも多そうなサイボーグとアンドロイドひしめく周囲を、手で示しながら言う。

「そうなんです。この発展の原動力となったのは廃都『キャピタル』より彼らが簒奪したオールドテクノロジーですが、皮肉なコトに、いえソレ故にというべきか、『キャピタル』と同じ運命をU.J.Iは歩みつつあると影では言われています」

「ソレは『パクス』が途中まで歩んで、回避した道と同じか?」

ミサトがそう尋ねると、ミサト以外の3人の空気感が張りつめた。
しかし、カトリーヌはすぐに柔和な雰囲気を取り戻した。

「まあ、そうかもしれませんね♪ ……話を戻すとU.J.Iは確実に衰退期にあります。そしてそのツケは、このセントラルゲートの内側にあるU.J.I首都から、外側の周辺都市に吐きだされ続けているようです」

ミサトは何食わぬ顔で、話を戻すのに協力した。

「……この首都はエントロピーを吐きだし続け栄華を維持している代わりに、周辺都市はどえらいコトになってる?」

「と、思います。とは言え、首都も少しずつ衰退を隠せなくなってきているようですが」

「まあ隠してるってコトは、特に部外者にはソレを見せたくないワケだわね。だから入国から首都までは目隠し状態って形か」

夜を克服した街は、しかし照らしだせない大きな澱みを纏っているように感じられた。


◇◇◇


「で、この服装は一体なんだよ」

ミサトが両手を広げて自分の服装を示す。

黒のシャツに、光の反射で暗く虹色を映じるミニジャケット。下は密着する短パンで、その内側には薄緑のタイツだ。
ソレらをふくらはぎまである丈のコートで覆っている。腕は通していない。
締めに、左目には電子モノクルを装着していた。

「いや~、私よりはマシですよ♪」

カトリーヌは首下から足首まで、U.J.Iで『第二の皮膚』と呼ばれている衣類1枚だ。
その名の通り、薄紫色で元の皮膚を隠している以外は、ほぼ裸に見える。
そして、その上から透明のマントを羽織って身を包んでいた。要は重ねて言うが、視覚的にはほぼ裸である。

ノワールは山高帽とスーツ姿だったが、そのスタイルと洗練された生地のデザインにより、近未来的な街並みに少し逸らした時代感という形でマッチしていた。相変わらず男装の麗人だ。
タバコでも燻らせれば、ネオンを従えてより街に溶け込むに違いない。
また、山高帽の向かって右側半分はその表面に薄く軽く、どのような形にも曲げ伸ばしできるディスプレイが貼付されており、周囲の環境に合わせてファッショナブルな意匠を展開していた。

ブレーズはというと左右に2本ずつ、合計4本の液晶リボンが脚周りに回転しているズボンと、幾何学模様の灰色のシャツに、くすみのある光沢の暗橙色のジャケットを着ていた。
ふわりと柔らかボリューミーだった髪はポニーテールにキュッと束ね、スカイブルーのバイザーを頭にかけている。

「でも、コレぞ未来って感じでしょ♪」

ミサトは、カトリーヌの夢想する未来が実現しないコトを願った。
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